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スライムを狩り続ける男 前編

「おーい、ピオ、起きなー」

「う、うーん……」


 ハッと目が覚めた。

 ふかふかのベッドの上で、昨日のことを思い出す。


 そうだ、僕はダンジョンマスターに……。


 ――ん?

 何だか良い匂いがするぞ?


「おーい、ピオー、朝ご飯だよー」

 キッチンの方から、マーゴの呼ぶ声が聞こえた。


「今行くー!」


 ベッドから飛び降りてキッチンへ向かうと、ダイニングテーブルの上に朝ご飯が並んでいた。

 美味しそうな焼き魚に、スープとライス、あと黄色いフルーツ? みたいな物もある!


「うわぁ~美味しそう! これ……マーゴが全部作ったの?」

「へへへ、まあね。口に合うかどうかはわからないけど、とにかく食べてみてよ」


 エプロン姿のマーゴがお玉片手に、僕を席に座るよう促す。


「うん、ありがとう! いただきまーす!」


 こ、これは⁉ 焼き魚は身がホロホロとして、塩加減もバッチリ……。

 う~ん、脂がのってるなぁ。

 

 ん……、スープはちょっと塩っぽいけど、クセになるかも。

 黄色いフルーツみたいのは、想像と味が全然違っていて驚いたけど、俄然ライスがすすむ味だ。


「うはぁ~、マーゴって料理上手だねぇ! うん、美味しいよ!」

「そ、そう? へへへ、そんなことないよ~」


 マーゴは機嫌良さそうに、尻尾を揺らしながら鍋を洗っている。


「ふぅ~、ごちそうさま~」

「どういたしまして」


 僕は食器を流しに持って行き、洗い終わると後片付けをした。

 その様子を見ていたマーゴが感心したように頷く。


「へぇ~、ピオってそういう事もできるんだ?」

「え? 洗い物のこと?」


「うん、ピオみたいな特別な人間ってさ、自分じゃそういうのやらないじゃん」

「そうかなぁ? 僕が育ったところだと、自分の物は自分でやるのが当たり前だったよ」


「へぇー、人間にも色々いるんだな」


 マーゴがコーヒーを淹れながら相づちを打つ。

 コポコポという音と共に、良い香りが漂い始めた。


「ん~、良い匂い」

 僕は鼻をくんくんさせる。

 ホワ~ッと心が落ち着く香りだ……。


「じゃあ、ピオ、椅子に座って。コーヒーが入ったら仕事を始めよう」

「あ、うん」


 そうだった、ダンジョンマスターだもんね、ちゃんと仕事を覚えないと……。

 椅子に腰をおろし、ちょっとドキドキしながらマーゴを待った。


 初仕事かぁ……、点検って一体、何を点検するんだろう?

 サイドテーブルに、マーゴが二人分のコーヒーを置く。


「どうぞー」

「ありがとう、へへ、何か緊張する」

「そんなに大変な事じゃないよ、ホントにざっとチェックするだけだから。じゃ、行くよ?」

「え? う、うん」


 マーゴが黒い石のような物を、目の前に並ぶ石版に向けた。

 その瞬間、全ての石版にダンジョン内の景色が映し出された。


「ええっ⁉ こ、これって……」

「ふふふ、驚いた? これが、このダンジョンの中の好きな場所を映し出せる『モノリスビジョン』だよ」


「モノリスビジョン?」


 さっきまで、ただの黒い石版だったのに……、一体、どういう魔法なんだろう?

 まるで、近くで観ているみたいに、くっきり鮮明に映っている。


「ほら、この石を持って念じると、好きな階層がモノリスに映るんだ」


 僕はマーゴから石を受け取り、自分がスタンピードに巻き込まれた50階層を観たいと念じてみた。

 すると、画面が切り替わり、見覚えのある風景が映し出された。


「……」


 そういえば皆、無事に帰れたのだろうか?

 初めて会った人ばっかりだったけど、皆優しくていい人ばかりだった。


 僕の力が足りなかったばっかりに……。


「あれ、もしかして、あの時居た他の冒険者が気になってる?」

「知ってるの⁉」

「うん、ここで見てたからね。大丈夫、みんな無事に逃げたよ」

「ホントに⁉ そ、そっかぁ~、良かったぁ……、うん、本当に良かった」


 何でだろう、嬉しいはずなのに……、少しだけ寂しいような気持ちになった。


「ほら、コーヒーが冷めちゃうよ?」

「あ、うん、ありがと」


 僕はコーヒーに口を付けた。 

 ほろ苦い味が口に広がる。


「どう?」

「うん、美味しい」


「それはよかった。じゃあ、まずは100階層ずつ表示させて、順番に見ていこうか」


 そう言って、マーゴは石をモノリスに向けた。

 一斉に100階分のフロアが分割表示される。


「こうやってチェックしていると、たまに地面に大穴が空いたり、道が崩れたりしてる時があるんだ」

「へぇ、そういえば、ダンジョンの中って絶えず変化しているって本に書いてあったけど?」


「そうそう、私たちみたいなマスターがメンテナンスをしてるからね」

「僕みたいな人間が、他のダンジョンにもいるの?」


「ピオは例外だと思うよ。人間でその魔力量は、まずあり得ないし」

「そ、そうなんだ」


「こんな感じで、全フロアをチェックしたら終わり。私が代理をしてた時は、終わったら昼寝をしたり、掃除をしたりしてたかな。あ、たまに冒険者をウォッチングしたりとか」

「……」


「まぁ、ボーッとモノリス見てても良いし、何か好きなことしてれば?」


 マーゴはニヘッと笑って椅子の背に凭れた。

 僕もそれに習って身体を倒した。


 うーん、意外と楽……なのかな?


 しばらくモノリスを眺めていると、引っ切りなしに冒険者が入ってくるのに驚く。

 何より驚いたのは、名前とレベル、二つ名までわかるということだ。


「ちょ、マーゴ、これって……すごくない?」

「ああ、そうそう、入ってきた冒険者のデータも表示されるんだよ」


 冒険者の頭の上に、小さな文字が浮かんでいる。


「す、すごい! 普通、レベルなんて調べるのに数日はかかるよ⁉」

「そうなの? まぁ、わかったところで、たまーに報告で使うくらいなんだけどね」


 マーゴが丸い手をモノリスに向ける。


「ほら、例えば今見てるこの冒険者を報告したいとするでしょ。その場合、何があったのかと、名前やレベルを書いて報告するんだ」

 そう言ってサイドボードの引き出しから、分厚い本とペンを取り出して僕に差し出した。

「はい、これ使って」

「うわぁ! 本? 凄く綺麗だね?」


 手渡された本は、とても美しい装丁だった。

 手触りの良い皮表紙には、魔方陣のような綺麗な模様が入っていて、縁には金色の金具がはめ込まれていた。

 中のページは、めくると白紙だった。


「そのマスターノートに書いたことは、ダンジョンレポートとして至高の存在に届くようになってる。後半には、知って得するダンジョン情報が載っているよ」

「そんな機能が……」


 転移術の一種なんだろうか?

 むぅ……僕の知らない魔法ばっかりだな……。


「ははは、まあ、すぐに慣れるさ」

 マーゴは腕組みをしながら、にっこり微笑んだ。


 *


 とりあえず日々のルーティンである、全フロアチェックを終わらせた僕は、ボーッとモノリスを眺めていた。


 こうして見ているとダンジョンは本当に広い。

 見たこともない強そうなモンスターもいるし……。


 こんな危険なところを探索する冒険者って、ホント大変なんだなぁと思う。 

 

 冒険者は4~5人組のパーティーで入ってくることが多い気がする。

 僕が入った時はかなりの人数がいたけど、あれは特別だったのかな。


 他にも、剣士見習いの可愛らしい女の子や、パーティーの連携チェックをしている大所帯まで。

 色々な冒険者達が、それぞれに目的を持ってやって来ているのがわかった。


 低層の辺りには、ソロでコツコツ稼いでいる冒険者もちらほらいる。

 みんな頑張ってるなぁ……。


 その中で、僕はとても気になる冒険者を見つけた。


「ねぇ、マーゴ。あのロータスさんって冒険者、ずっとスライムを倒してるんだけど……」

「ん? そういう人もいるんじゃないの?」


「それは、まぁそうなんだけど……。でも、あのレベルを見る限り、別にスライムを倒さなくても良いと思うんだよねぇ。ほら、もっと効率の良い魔物はいるわけだし」

「たまにいるよ、そういう変わった冒険者。前にオオミミズをずっと揉んでる冒険者がいてさ……、あれはぞっとしたね」


 マーゴが、ひぃぃと震えるような仕草をみせる。


「た、確かに……それは嫌だね。そ、そっか、変わった冒険者もいるんだ」

「まあ、色々いるさ。じゃあ、私は掃除と夕飯の支度をしてこようかな。コーヒーのおかわりはキッチンにあるからね」

「あ、うん、ありがとう」


 それからしばらくの間、僕は何となくロータスさんを見ていた。

 かなり時間が経ったと思うんだけど……、ロータスさんはまだスライムを倒している。


 うーん、ちょっと心配になってきた。

 一体、何が楽しくてスライムばっかり潰しているのだろう?


 ロータスさんは、いかにも前衛といった風体の冒険者で、武器は手斧、二つ名は斬鬼。

 レベルも32と結構高め、それに二つ名持ちなら、ギルドから認定された冒険者ってことだし。


 結構、凄腕の冒険者なんじゃないのかなぁ……。

 むぅ~、何でスライムなんだろ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほぼ神視点なのですね。 ピオも見られてレポートされてたんでしょうね
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