表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/18

フードマン

 マーゴと朝食を済ませ、全階層のチェックを行う。

 365階層から999階層にダンジョンが拡がったわけだけど、作業量的につらく感じることはなかった。

 まあ、大抵のフロアは岩しかないし……。


 それから、コアにぶちゅっと魔力を供給して、フンゴ・オンゴに魔力水シャワーをかける。

 最近は飛び跳ねるときに、くるっと回転を加えてくるのが可愛い。

 これも一応、イラスト付きでマスターノートに書いておいた。


 僕はテキパキと日々の業務をこなし、お昼ごはんを食べてからバベルに向かう。

 このルーティンを続けて二ヶ月が経った。


 今、僕がバベルで勉強しているのは、透明化の魔術についてだ。

 目というものは、普段僕たちが日常的に使う光を受信する機能の他に、精神的な光を受容する三番目の目、すなわち■■■の目がある。

 そして、生物は知らず知らずのうちに、その第三の目で見た、内面的ビジョンに大きく影響を受けているという。


 ここで僕は閃いた。

 自分の姿を相手に認識させないようにすれば、それは透明化する事と同義であると!

 透明化すれば、低層に赴き、レイナの頑張っている姿を生で見られると考えたのは秘密である……。


 *


 マーゴに獣の皮で、フードマントを作ってもらった。

 僕は頭からすっぽりと被り、

「どう? 似合ってる?」とマーゴに尋ねた。

「似合ってるというか、顔は殆ど見えないからね」

「あ、そっか……へへへ」


 軽くて動きやすいし、ダークパンサーの黒くて艶のある毛皮は耐久・耐火性も高い。

 簡単なファイアボールなど弾いてしまうだろう。

 フードには耳も付いていて、マーゴのネコ科に対するこだわりを感じる。


「うん、我ながら、良い仕事をしたと思うよ」

「ありがとう、マーゴ!」

「でも、そんなマントどうするの? 探検でもする気?」

「ふふふ……ちょっと見てて」


 マントを媒体として、透明化の魔術を使ってみた。


「■■■の目……開眼!」


 僕の透明化に対する答えがこれだ。

 自分を発信源として、周囲数十メートルに対し、僕が作った内面的ビジョンを放つ。

 考えが正しければ、範囲内に入った生物から僕の姿は見えなくなる、というよりは、そう錯覚する。


「へぇ! ピオ、君は本当に面白いことを考えるね!」


 マーゴが感心し、うんうんと深く頷いた。


「へへへ、良いでしょ? これなら目立たずに行動できるかなって」

「はは~ん、なるほどねぇ……」

 ニヤニヤと笑うマーゴ。

「な、何? 別に変なことはしないよ?」

「まあ、止めはしないけど……、後で後悔だけはしないようにね」

「え、あ……、うん」


 後悔か……。

 確かに来たばかりの頃なら、後悔したかも知れないな。

 でも、今はマーゴもいるし、ちゃんと帰る場所もある。

 きっと大丈夫だと僕は思った。


 * * *


 タチカワの街、こぢんまりとした武器屋の二階から、少女が駆け下りてくる。

「いただきまーす!」

 テーブルに置かれていたパンを一切れ掴むと、慌ただしく外へ走って行く。

 

「レイナー、今日も行くのかい? あら、もういない……まったく、誰に似たんだかねぇ?」


 棚の上に飾られた写真の中で笑う、体躯の良い男を見て、武器屋の女主人イザベラは短く息を吐いた。


 レイナはタチカワの街を駆け抜ける。


「レイナちゃーん! 今日もダンジョンかーい?」

 果物屋のおばちゃんがレイナに手を振った。


「そ! 行ってくるー!」

 レイナは走りながら手を大きく振りかえした。

 蜂蜜色の美しい髪を弾ませながら、道一杯に張られたロープに干された洗濯物をひょいと飛び越え、石畳の狭い路地裏を器用に走り抜ける。

 小さい子供たちがボール遊びをしている中を、「ごめんねー!」と身軽に躱しながら通り抜けた。

 

 高い建物に囲まれた路地を抜けると、パッと視界が開けて青空が広がった。

 目の前には、タチカワダンジョンの入り口が見えた。


 レイナは迷わずダンジョンの中に入ると、短剣を抜き、息を整えながら奥へ進む。


 冒険者を目指すレイナは、自分にノルマを課していた。

 一日に魔物を三体、必ず倒すこと、それがレイナのルーティンだった。


「ふぅ……」


 最初の頃は、スライム一体を倒すだけでも、自分が成長している手応えがあった。

 事実レベルも上がり、体力も上がったように感じている。


 だが、今はまったく変化を感じない。

 武器屋に来る冒険者のおじさん達に尋ねても、最初はみんなそうだとしか教えてくれなかった。


 そんなことはレイナにもわかっている。

 自分が知りたいのは、このままのやり方で強くなれるのかということだった。

 

 不安はもう一つ。

 レイナはいつもソロで行動している。

 だが、冒険者としてやっていくには仲間が必要だ。

 互いの欠点を補い、共に助け合えるような仲間が……。


 ただ、自分のレベルと実力を鑑みると、好き好んで仲間になってくれる冒険者がいるとは思えなかった。


「やあっ!」

「はっ!」

「とおっ!」


 レッドアントを二体、仕留めた。

 運良く、一体のレッドアントからは魔石がドロップした。


「今日はツイてるわね、ふふ」


 腰に付けた革袋に魔石をしまい、岩陰で一休みする。

 携帯食用に持って来たリンゴを囓った。


 そろそろ、もう一つ下の階層にチャレンジしても良いかも知れない。

 そんな事を考えながら、レイナはリンゴを味わっていた。


 その時、レイナはダンジョンの中をキョロキョロしながら歩く、異質な者を見た。

 咄嗟に身を低くして隠れた。


 黒いフードマントを身に纏った得体の知れない男。

 いや、男か、それとも人間なのかさえわからない。


 マントは艶々で、遠くからでも上等な毛皮だとわかった。

 自分の店でも扱ってるのを見たことがない、街の中心街の高級店で飾ってそうなマントだ。

 もしかすると、深層から帰って来た名のある冒険者かも知れない……。


 ただ、それにしては小柄で、フードに付いた可愛らしい耳も相まって、どこか親近感が湧く。

 警戒するに越したことはないが、レイナは興味の方が勝っていた。


 フードマンは何かを探しているようだった。

 もし、高レベル冒険者なら、何かヒントが聞けるかも知れない。

 そう思ったレイナは、思い切って岩陰から出て、フードマンの視界に入ってみた。


 不思議なことに、フードマンはレイナを見ると、一瞬ビクッと身体を震わせたが、何事もなかったように近くの岩に座った。

 まるで見学に来た生徒のように、じっとレイナを見つめている。


 恐る恐る、レイナはフードマンに声を掛けてみた。


「あの……、何か?」


 すると、フードマンは「え⁉」と声を上げ飛び上がった。

 狼狽し、オロオロと周りを見ている。


「具合でも悪いんですか……?」


 フードマンは「あ」とか「え」とか「うぅ……」と声を漏らした後、

「い、いえ、元気です」と返事をした。


 どうやら、この目の前にいるフードマンは、人間のようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やってしまった・・・ でもこのトラブルはどうなるかとても興味が
[一言] 効いてないですね・・・w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ