黄金の鳥
つい先日、ダンジョンの階層が拡がった。
今までは365階層だったタチカワダンジョンも、今や999階層。
思えば遠くに来たものだ。
僕はテーブルに着き、朝食のエッグサンドと紅茶をいただく。
今日はちょっと上品な気分……。
「ピオ、ケチャップもあるよ」
「え! ちょうだい!」
マーゴからケチャップソースを受け取り、エッグサンドに少し乗せてから齧りついた。
う~んかきくケタスのシャキッとした歯ごたえと、ほんのり甘い半熟卵が相性抜群だ。
これは間違いないね……。
「それにしても、一気に999階層とは素晴らしいね」
「へへへ……ありがとう」
毎日コツコツと供給した甲斐がある。
よーし、今日もたっぷりと供給して……。
その時、フンゴ・オンゴが足下に寄ってきた。
「ん、そうだった。君にもあげないとね」
僕はエッグサンドを咥えたまま、ジョウロを取って来てフンゴ・オンゴに魔力水をかけてあげた。
フンゴ・オンゴは嬉しそうに飛び跳ねている。
「ほーら、大きくなるんだよー」
「ピオ、お行儀が悪いよ? 水をやるのか食べるのか、どっちかにしないと」
そう言って、マーゴは紅茶に口を付けた。
「あ、ごめん、もう終わったから……あはは」
朝食を済ませ、食器を片付けてからモニタールームの椅子に腰を下ろした。
「ふぅ~、さてさて、始めますか」
モノリスビジョンの扱いも慣れたもので、僕は999階層のフロアを素早くチェックしていく。
「ん~、特に異常はなさそうだな……」
あ! あの子だ!
ダンジョンの入り口から、見習い剣士のレイナが入ってきた。
入り口から射す陽の光に、金色の髪がキラキラと輝いている。
思わず見とれてしまった。
レイナは相変わらず低層で腕を磨いているようだった。
だが、レベルの方は殆ど変わっていない。
こんなに頑張っているのに……むぅ。
何かしてあげたいけど、助けるなって言われてるしなぁ。
ん? 助ける?
よくよく考えてみると、助けたと判断される境界線がわからない。
「はい、お茶とおせんべい持って来たよー」
マーゴはトレイをサイドテーブルに置き、香ばしい匂いを漂わせながら、隣の席に座った。
「うわ! 美味しそう!」
「お塩で味付けしてあるからね」
そう言って、マーゴはパリパリとせんべいを囓り始めた。
「ねぇ、冒険者とお話するのは禁止なのかな?」
「んー、禁止ではない、かな。あくまで『助ける』のが禁じられているね」
「その助けるって、例えばレベル上げに協力するのは助けることになるの?」
「そりゃなるよ。手助けしてるんだから」
マーゴは当然でしょと口をモゴモゴさせている。
「そっか、そうだよねぇ」
やっぱり助けることはできないのか……。
僕は必死に戦うレイナを見て、自分の無力さを痛感した。
*
「ふむ……」
僕はマスター・マジック・マニュアル大全を閉じた。
ここマスタールームにある魔術書は完全に頭に入った。
そろそろ、ご褒美であるバベルに行く準備が出来たかな。
至高の存在からもらった、バベルへの入館・閲覧の権利。
本当はすぐにでも行きたかったんだけど、どうしてもマスタールームにある魔術書を理解してからにしたかった。
いきなり難しい魔術が使えないように、知識もまた基礎から理解していく必要があるからだ。
「よし、やるぞ!」
僕は椅子でうたた寝しているマーゴに話しかけた。
「マーゴ、マーゴ……」
「ん? どうしたの?」
「マーゴ、僕、バベルに行きたいんだけど……」
「ふわぁ……。うん、至高の存在から鍵を預かってるよ」
マーゴは半分目を閉じたままヨロヨロと席を立ち、壁に吊してあったサコッシュから、古びた鍵を取り出した。
「いいかい? この鍵を持って、ベッドに横になったら目を閉じる。そうしたら、迎えが来るから」
「わ……わかった」
鍵を僕に渡すと、マーゴはまた椅子に座って居眠りを始めた。
寝室に向かい、僕はマーゴに言われた通り、鍵を握ったままベッドに横になって目を閉じた。
バベルって……どんなところなんだろう。
少しドキドキしながら待っていると、闇の中、ふいに一枚の紙が、ひらひらと舞い降りてくるイメージが思い浮かんだ。
紙は黄金色に輝いていて、僕の目の前まで来ると絨毯のように大きくなった。
迎えって……このことかな?
恐る恐る、僕はその紙に乗ってみた。
すると、紙は宙に浮き、スゥーっと空高く上がっていく。
辺りは黒一色、何も見えない。
でも、不思議と暗く感じることはなかった。
ゆっくりと螺旋を描きながら、僕を乗せた紙は次第に一羽の黄金の鳥に姿を変えた。
そして、気付けば何十、何百、いや、幾万の鳥の群れが連なり、僕は巨大な螺旋の一部となった。
「うわぁ……」
僕は見た。
バベル、それは天を貫く巨大な白磁の塔。
黄金の螺旋に囲まれたその姿は、圧倒的な存在感があった。
「これがバベル……」
刹那、閃光にも似た光に包まれた!
「うわっ!」
そして、次の瞬間――、僕は巨大な書庫の中に立っていた。
次回も明日のお昼12時に更新します!
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