00:プロローグ
気がつくと俺は、真っ白い6畳くらいの小さな部屋にいた。
「ここは…どこだ…」
思い出した。俺は死んだんだ。
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俺の名前は佐々木空、高校2年生だ。
高校生っていうと青春を満喫してるってイメージがあるけど、俺はそうではなかった。
俺は年の離れた外科医の双子の兄と弁護士の父親の4人で暮らしていた。
兄さんたちは2人とも世間で「天才」と呼ばれるほど頭が良く、日本で一番の大学の医学部に入学、その後、最速で医師免許を取得し、俺が中学1年の時から大学病院で働き始めた。
父さんも、兄の様な天才ではなかったものの、頭が良く、俺が生まれる前には、敗訴になる可能性が限りなく100%に近いと呼ばれていた医療裁判で、勝訴を勝ち取ったこともあるほど優秀な弁護士だったそうだ。
母親はいないのかというと、いた。
俺が幼い頃には、兄さんたちは勉学、父さんは仕事に励んでいたので、家には俺と母さんしかいなかったから、母さんは俺の唯一の心の拠り所だった。
兄たちも父さんも母さんへ感謝をしていて、家族が全員集まれば、全員で食事に行ったりと、とても仲の良い家族だったと思う。
でも、母親は、俺が中学2年のときに亡くなった。
小学生6年の頃に母親のガンが発覚し、初期のガンだったから兄は2人とも「大丈夫だ」と言っていたが、中学2年に進級した途端に容体が急変し、桜が散りはじめた4月9日、
母は帰らぬ人となってしまった。
この日から、噛み合っていた家族の歯車は狂っていく。
兄さんたちは、自分たちは外科医であるのに、母親の体調の変化を読むことが出来ず、救えなかったことへの自責の念に苛まれ、性格が変わってしまった。
俺は兄たちのような頭脳を持ち合わせていなかったが、兄たちは面倒見が良く、就学前にとても優しく接してくれたことがあった。
だが、母の死後、無能な弟は要らないと、俺に当たってくる様になってしまった。
父も、仕事ばかりで、家庭のことを母に任せっきりにしてしまったことへの罪悪感からだろうか、あの日から仕事の電話以外で、声を聞くことがなかった。
俺もそう、中学2年のときは立ち直れず、学校に行くことが出来なかった。
中学2年の終わりごろ、母さんの俺宛の遺書を見つけた。そこには、
「私が死んでも、頑張って生きてね」
と書いてあった。
涙が出た。
義務教育だったから辛うじて進級でき、母の遺言通り頑張って生きる為、3年から学校に行き始めたが、母親を亡くしたとはいえ、丸1年休んだ俺に話しかけてくる同級生は1人もいなかった。
かける言葉が見つからなかったのか、それとも休んだ俺を軽蔑しているのか分からなかったが、とてもつらかった。
高校からは普通に生活できるように同じ中学校の同級生の居ない高校に行こうと思った。
猛勉強し、兄さんたちが卒業した進学校に入学することができた。
同級生がいなければどこでもよかったがそれでも進学校を目指した理由は、兄たちと父が少しでも喜んでくれるかと思ったからだ。
だが、そんなことはなかった。
兄さんたちに報告したら、
「そんなことがどうした」「俺らの弟なんだから当たり前だろう」
と言われ、父さんに報告すれば、
「そうか…」
としか返ってこなかった。
自分の無力さに腹が立った。
ああ、もうあの日々は戻らないのか……。
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高校に入学しても、何かが変わることはなかった。
クラスメイトとは必要最低限の会話しかしなかったし、身体能力が高かったわけでもないので、部活も入らなかった。
進学校の授業だったので、ついていくので精一杯で、成績は中の下くらい、無口だったこともあり、クラスの中での立場は居ても居なくても変わらないmobキャラ同然だった。
そんな学校生活も2年が過ぎようとしていた。
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1月末日。雪が降っていた。俺はいつも通り高校に行くところだった。
いつも通る交通量の多い交差点が見えてきて、その交差点を渡ろうとしている他校の女子高生がいた。
彼女に気づかずに曲がろうとしている大型のトラックが見えた。
急ブレーキ音が響く。
が、雪のせいで止まれていない。
彼女はイヤホンをしながらスマホを見ていて、トラックに気づいていない。
「危ない…!」
気がついたら彼女を突き飛ばしていた。
痛い。
周りの景色がゆっくりになる。
これが死ぬ前にゆっくりになる感覚なのか。
ああ、俺は死ぬんだな。
記憶が走馬灯のように蘇ってくる。
母も死ぬときはこんな気持ちだったのかな。
父と兄たちは俺の死を悲しんでくれるかな。
良い人生だったのかな。ただ、死に方としては男としてカッコよかったかな…。
こんな形で母さんのもとに行くことになると思わなかった。
父さんと兄さんたちとで一回でいいから笑って話したかっ……
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っ、眩しい…
俺は死んだんだよな?なんでワンルームみたいなとこにいるんだ?
ここが天国なのか?なんかしょぼくないか?
もっとこう…お花畑って感じだと思ったんだが…。
「何がどうしょぼいですって!?ここは一応天国だよっ!!」
「…!」
うわっ、なんだこいつ!急に出てきて叫んできやがった!
「うわっ、なんだこいつ!急に出てきて叫んできやがった!って思ってるでしょ!っもう、こいつって何よ!一応あんた客だからね!」
死んだと思ったら、白い部屋にいて、訳わかんない、羽衣を纏った背の小さい少女が幽霊みたいに現れた。
って、こいつ俺の心読んでない!?
「読んでるわよ?ってかなんで喋んないの?」
いや、死ぬ以外の驚きが押し寄せてきて声がでないんだが…
「そういうことね。まあ仕方がないわ」
「なんで俺はこんなとこにいるんだ?」
「私が聞きたいわよ!天国にくる予定だったのはあんたじゃないのよ!」
え?
「本当はあなたが助けたあの子がくるはずだったのよ!それをあなたが助けちゃうから!びっくりしちゃったわよ!」
助けちゃうって…助けるって悪いことなのか…?
「女神の立場からこんなこと言うのおかしいけど、転生の手続きってめんどくさいの!」
「はぁ!?女神!?お前が!?」
「なーんーで、そこだけ声が出るの!?女神を馬鹿にしてるの!?」
いや、女神要素が服だけじゃん!
「進学校に通ってたくせに無知で無能なあなたにめ、が、みの私が優しく説明してあげるわ。ここに正座しなさい?」
っ、この駄女神…
「なんか言った?」
笑顔で威圧的に聞いてきた。
…………すいません…。
俺は言われた通り正座した。
「まず、あなたじゃなくて、あなたの助けた女の子が異世界に転生する予定で、私はその手続きを進めてた。でも、あなたが助けちゃうからあなたが来ちゃった。それで手続きがめんどくさくなったから腹が立って、本当は神聖な教会で転生者を迎えるはずだけど、嫌がらせでワンルームにして…ってなんでも無い、今のは忘れて」
こ、こいつ今とんでもないこと言いやがった。
「ま、まあいいわ!これからあんたには、異世界にいってもらってとある領地を治めてもらうから!」
「は?異世界?」
「?そうよ?さっきから言ってるでしょ?ってことでまず異世界に送るね!」
足元に青白く光る魔方陣が現れる。
「ちょっ、ちょっと待「うるさい!」」
「イマドキの子はみんなラノベとかで異世界転生とかで予習してるでしょ!私は転生の手続きが終わって無いの!死んでも元進学校の生徒なんだから現地で頑張りなさい!じゃ、ササキソラさん!異世界での健闘をお祈りします!」
手を見ると、どんどん透けて光を出しながら消えていく。
「ふざけんな駄女神!もっとちゃんと説明しろ!」
「ばいばーい!」
視界が真っ白になった。
ラノベ…読んだことのないのに…!
あの駄女神…覚えておけよ…!
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次に気がつくと、中世のような町並みの中にいた。
「ま、まじで異世界かよ…」
俺、佐々木空は、異世界生活を始めます。
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