モンゴリアン・デスワームその③
これは10年前の物語
3
「はい、皆さんこんばんわ」
「「こんばんわー」」
真夜中の由羽魔高校にヒカルと平泉を招集した風鬼は、どこぞの幼稚園の園長先生のような声を発した。
「元気が無いなぁ。もう一度、こんばんはぁ!」
「こんばん・・・」
ヒカルは挨拶を返そうとして踏みとどまった。
「って、何してんだぁっ!」
「ふぎやぁっ!!」
電撃を放ち、風鬼を感電させる。
黒焦げになった風鬼は、口から黒い煙を吐いて、グラウンドの上に倒れ込んだ。
「・・・、さすがだヒカル。もう能力を使いこなし始めているな」
「え、私認められたの?」
「ボク、電撃食らって黒焦げになる人初めて見ました。うる星やつらの中の世界だと思ってましたよ」
気を取り直し、風鬼は二人を真夜中の学校に招集した理由を説明し始めた。
「単純明快、モンゴリアン・デスワームをおびき寄せるためさ」
「おびき寄せるって・・・」
ヒカルは闇夜の静けさが舞い降りているグラウンドを見渡した。特別変わった様子はない。
まるで、釣りの餌になっているようで、気分の悪い話だった。
「こんなので、本当に来るの?」
「来るさ。まず、被害者の死亡時刻が真夜中だからな」
「そんなので・・・」
「それだけじゃない。モンゴリアン・デスワームは、地中を移動するからな。こうやって、土がある場所に立っておくんだよ」
やはり自分たちは餌か。
ヒカルは胸の奥底から不安がせり上がってくるのを抑えられなかった。
不安は、ヒカルの頬から冷や汗を流させた。
不安は、ヒカルの呼吸を荒くさせた。
不安は、ヒカルの心音を高鳴らせた。
それ以上、風鬼や平泉が口を開くことはなかった。
集中しているのだ。いつ、モンゴリアン・デスワームがこの地面を突き破って襲撃してくるか。
足元に伝う微弱な振動を感じとり、反応する。
そのための沈黙が、ヒカルにとって苦痛だった。
(みんな、凄いな・・・)
自分は学校の成績が悪いという訳では無い。とりあえず、上位には入るようにしている。
だが、この時間は、学力も知性も、かけ離れたところに立っている気分だ。
いつ襲ってくるからわからない謎のUMAと戦うための、「勇気」が必要となる時間だった。
「・・・」
ヒカルが緊張の唾を飲み込んだ時、それは唐突に起きた。
足元の地面が、微弱に揺れたのだ。
「っ!?」
来た。
そう、本能的に感じ取った、次瞬間
「ヒカルっ!!」
「くっ!」
ヒカルは力を脹脛に集中させ、その場から一気に跳躍することを試みた。
土を押し破って上がってくるUMAの方が早い。
ドンッ!!
地面の土が巻き上げられ、真夜中の闇を切り裂くように、やつは現れた。
「こいつは!!」
風鬼が言っていた通り、そこに現れたのは、超巨大ミミズだった。
「分析します!!」
平泉が、能力を発動させて、UMAの分析を開始した。
「こいつは、モンゴリアン・デスワームですよ!!」
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UMA図鑑【モンゴリアン・デスワーム】
ランク【C】
体長【二メートル】
体重【二百六十四キロ】
ミミズが突然変異によって巨大化したUMA。体内で毒煙を生成して吐き出す。神経性の毒なので、吸うのは危険。さらに、唾液には、砂を岩に変化させる作用がある。
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「気持ち悪!!」
ヒカルは背を向けて逃げ出すと、風鬼の背中に隠れた。
「おい、戦うぞ!」
「無理無理!! あんな気持ち悪いバケモン!!」
目も無いのに、こちらの居場所を探知して攻撃してきたし、体が筋肉のせいで、表面が波打つように動くのが気持ち悪い。あと、口のような場所から垂れている唾液のようなものも。
「大丈夫だ。やつは毒煙に気をつければなんとかなる!」
風鬼は拳を握り、関節をバキッ!!と鳴らした。
「行くぜ、UMAハントだ!!」
第3話に続く
3話に続く