モンゴリアン・デスワームその②
これは10年前の物語
2
「次に狙うべきUMA!?」
風鬼の言葉を聞いて、ヒカルはパイプ椅子を倒して立ち上がり、机をバンっと叩いた。
「またやるの!?」
思い出すのは、先日の大蛇との戦い。あの戦いで、ヒカルは一度死にかけている。あのような化け物と戦うなんて、背筋がゾッとする。
UMAハンターになったものの、心の準備というものができていなかった。
「で、今回狙うUMAは・・・」
ヒカルを無視して、風鬼はホワイトボードにペンを走らせた。
「【モンゴリアン・デスワーム】だ」
「何その長い名前・・・」
まあ、前回のタッツェルヴルムも十分長くて言い難い名前ではあったが。
平泉が、牛乳瓶の底のようなメガネを押し上げ、ドン引きした声で言った。
「ヒカルさん、【モンゴリアン・デスワーム】を知らないんですか?」
「知らないわよ」
「UMAマニアの中では有名なUMAなのに」
「いや、私UMAマニアじゃないから」
首を傾げるヒカルのために、風鬼はモンゴリアン・デスワームについての説明を始めた。
「一週間程、ある怪死事件が起こっているんだ」
「怪死?」
前回のタッツェルヴルムのような行方不明事件と同じような類だろうか。
「この町の近くだぜ。死者は全部で14人。殺害現場は、深夜の公園。深夜の学校のグラウンド。あと、深夜の畑だ」
そう言って、風鬼はホワイトボードに数十枚の写真を貼り始めた。
全て、死体の写真だった。
ヒカルは吐き気を覚えた。
「なんで死体の写真を持ってんの?」
「警察に貰った。『今回の事件は、警察の手に負えない』って」
「警察と、UMAハンターって繋がってんの?」
「ああ。極秘だけどな」
ヒカルは意を決して、風鬼がホワイトボードに貼った写真を見た。
別に、「怪死」というほどではなかった。皆、地面の上に仰向けに倒れ、目を閉じているだけだ。
首が飛んだり、腕が千切れたりの外傷は見受けられない。下手すれば、「眠っている」ようにも見える。
「これのどこが怪死なの?」
その質問には、平泉が答えた。
「外傷が無いのがおかしいんですよ。襲われたのは、公園で屯していた高校生。農作業をしていたご老人。さらに、グラウンド整備をしていた野球部。どれも、【なんのダメージも受けずに死んでいる】」
風鬼がホワイトボードを叩いた。
「だから、これはUMAの仕業ということだ」
「何その、【妖怪のせい】みたいな言い方・・・」
「その証拠もあるぞ」
風鬼はさらに数枚の写真をホワイトボードに貼り付けた。
今度は死体の写真では無い。
地面を撮った写真だ。
「これは・・・、穴?」
「ああ、被害者の事件現場には、穴が掘ってあったんだ。そこからUMAが出入りしたということは一目瞭然」
「つまり、【地中を移動】して、【外傷無く人を殺す毒ガス】を有するUMAは、【モンゴリアン・デスワーム】しかいないという結論に至ったわけですよ 」
風鬼の言葉を横取りした平泉は、何故かしてやったり顔だった。
ヒカルは脳内で【モンゴリアン・デスワーム】の姿を想像した。
デスワームというくらいだから、【巨大ミミズ】ということだろう。
「ううっ!」
ゾクッとした。
「無理無理! ミミズなんかと戦えないもん!!」
自慢じゃないが、ヒカルはミミズを触ることが出来ないのだ。
風鬼は「何を今更」とため息をついた。
「いいか、ヒカル。これはお前がUMAハンターになってからの最初のミッションだ。気を引き締めて行くぞ!」
「おお!」と、平泉が拳を挙げる。
ヒカルは全力で首を横に振った。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
「ただでさえうちの班は人数不足なんだ。お前が居ないと、戦力ガタ落ちなんだぞ!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」
全力で拒否しているヒカルを見て、非戦闘要員の平泉でさえ呆れた。
「ほら風鬼さん。ヒカルさんにはもう少し戦闘経験を積ませてからじゃないと・・・」
「そんなこと言っている場合じゃないだろ。もう少ししたら、アメリカから【アクア】がやって来るんだ。それまでは戦力を保持しとかないと・・・」
その夜、ヒカルは無理やり学校のグラウンドに駆り出されることとなる。
ヒカルの初めての任務は、超巨大ミミズとの戦闘ということになった。
その③に続く
その③に続く