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お客様の中にお薬屋さんはいらっしゃいませんか(錯乱)!

「あふぅ……二度寝しよ」


 小鳥のさえずりを目覚まし代わりに、窓から差し込む朝日は一晩経った事を教えてくれた。あくびついでに口から零れる吐息は何ともはや寝ても覚めない現実を自分自身に叩き込んでくる。哀しみのあまり二度寝を決意するのもむべなるかな。


 多分さわやかな朝日に快適な気温、湖のほとりで幻想的な家屋の中豪華なベッドで二度寝できる(なお身体に関しては元のままではない)生活なんて、一年どころか2日前の自分に言ったところで信じられないだろう。深夜に飛び起きた時は酷かった。


 第一声は始発ぅ仕事ぉ! であり、寝ぼけた状態でベッドの脇に佇む謎の大男(前日自分で生み出したパワードスーツ的鎧)にビビり、逃げようと後退りしようとしてベッドの柔らかさに溺れかけるというまるでコントのような醜態を晒したのは朝日が昇る前。


 こうして落ち着ける環境になってわかるが、どう考えても人間の生活というか、文明的な生活じゃなかったというか、むしろ最先端すぎたというか、ドリルの先端じみた酷使具合だったよね。あれでまだ最底辺じゃなかったとか……


 前世(死んだ記憶は無いので前の世界を略してるだけ)の闇の深さに背筋が凍ったので、いそいそと暖かさの中に潜り込む。今となっては関係のない世界の話である。ぼかぁこのお布団ちゃんと添い遂げるぞ! ぐへへぇ。


 そんな自堕落な生活を送ろうとしたのが悪かったのだろうか、ドンドンと家の壁を叩く音が聞こえて来る。慌てて飛び起きて外に出……る前に鎧を装備する。まあ着るというよりは完全に乗り込む形になっているのだが。


 まほうの力(原理不明)によって内部を快適に保たれた謎空間、視界は直接鎧の目線が頭に叩き込まれるし、間接の構造的に本当なら色々と中身が大変になりそうな挙動も問題なし、ただ動こうと思うだけでダイレクトにコントロールできるシステム!


 そんな鎧が今ならたったの……などとふざけている間にノック(控えめな表現)の音が大きくなっていたのでさっさと応対することにした。幸いにもノックされている地点はドアのすぐ近くだったため開けて顔を出しただけであいさつができる。


「はい、どちらさまですか?」

「のわっ! そこが扉だったのか……あ、あんたが昨日小僧に薬を渡したっていう人か?」


 怪訝そうにこちらを窺うのは昨日の少年の知り合いだろうか、同じような文明レベルを感じさせる簡素な衣服(オブラート)を着たおっさんであった。ただしちんけなナイフではなく槍で武装しているが。しかも先端はこちらに向いているが。


「えぇ、そうですが。しかしまあ、その物騒なものをこちらに向けないでもらえませんか?」


 実際渡したことは渡したわけだし、否定する理由も無いので答える。どうやら容姿に関しては知らなかったらしいし、このまま鎧姿の男性だと思っていただこう。以降ここに住んでるのはいつも鎧のお兄さんなのである。


 ついでに槍をこちらに向けないようお願いする。鎧と言っているだけあってイメージ的には槍でも鉄砲でもはじき返すぜな、なんなら槍よりも物騒な兵器をノータイムで全方位にばら撒ける代物を着込んで(にのって)はいるものの、脅される事に対する恐怖心は別である。


「く、薬だ! まだ有るんだろ!」


 こちらが内心ビビっていることに気が付いたのか、あるいは余裕がないだけか。槍を突き付けるようにしてこちらに凄んでくる。有るかと言われれば無いのだが、貰えないかと言われれば渡せないことも無いわけで。


 かといって脅されれば言われるがままにほいほい何でも出すと思われれば、これから先ずっと奴隷のように物を生み出し続けなきゃいけない可能性もあるわけで。それは嫌だ。せっかく労働しなくても良くなったのに、またこき使われるなんて糞くらえだ!


「あの薬はあの子に渡した分以外はありませんよ」

「そ、そんな「ですが」」


 薬が無いといった瞬間の、何と言ったらいいかわからない表情の変化。悲しいとか、不甲斐ないだとか、後悔だとか、そういった感情をミックスしたような、絶望という名前が一番合う表情に、罪悪感が刺激されたせいか。気が付けばこんなことを言っていた。


「どうして薬が必要なのかお教えいただければ、何とかできるかもしれませんよ?」


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