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こ、これはただの万能薬じゃ!

 フリーズされていても仕方がないので、おそらく危険は無いだろうとベッドの上をよじよじと前進していく。考えてみれば自分も裸足だったので、少年側のベッドの淵にスリッパを出しておく。未だに固まったままの少年の前まで行くと、どことなくカタカタ震えているように見える。


「おーい、もしもーし」

「こ、こっこここっこ」

「こけこっこー?」

「ころさないでくださぁい!」


 それはそれは見事な五体投地であった。話しかけた時には既に銃口を向けていなかったにもかかわらず、というか固まった時は目と目が合った瞬間な気がするからそれは関係ないのではないだろうか。となると実は自分は自分が美少女に見えるだけの強面おっさんだった説が浮上してしまうのだが。


「少年、まさか僕が今にも人を殺しそうな怖ーいおじさんに見えるのかい?」

「いいいいいいえそんなことないです、びじんです、かわいいです、ころさないでください!」


 良かった、頭のおかしくなった可哀そうなおじさんは居なかったんだね。ではなく、そうなると何故ここまで怯えられるかが不明になった。可愛さにでも殺されそうになっているのだろうか。言ってて思うがもしそうならシュールすぎるんだが。


「殺さないよ、どうして殺されると思うんだい?」

「だ、だってまじょなんでしょ? ころさないで! おれはかあさまのためにやくそうをさがしにきただけなんです!」


 ふむ、話が見えてきた。詰まるところこの少年は此方を魔女だと思っていて、世間一般ではおそらく魔女=死みたいな感じなんだろうか。で、この少年はお母さんの為に薬草を取りに来たと。なんだこいつめっちゃいい子じゃないか。


 魔女とか聞くとやはり別の世界に来てしまった疑惑はどんどん濃くなっていくなぁ。主に自身の存在が理由な訳だけれども。しかしもしかしてこれって不味いのではないだろうか。魔女だと思われる=危険=排除するために何か来る、王道の流れだよね。


「いや、僕は魔女じゃないから、ほら頭を上げなさい」

「ほ、ほんとですか? ころさない?」


 毎回二言目にはそれってどれだけ恐ろしい生き物なんだよ魔女って。悪い子にしてると攫いに来るよどころか殺しに来るよとでも教えられていそうなレベルだぞ。ここはひとつ友好的で役に立つアピールで怖くないという事を示さねばなるまい。


 とはいえどうしたものかと思い、良い考えが思いつく。ファンタジーならよくある万能薬、それも怪我だろうが毒だろうが病気だろうが呪いだろうが一口でまるっと治るタイプの奴。少年の母親がどんな薬草を欲しがっているかはわからないが、本人が来ないという事はそういう事だろう。


 つまり今ぽんと出したこいつを渡してやればキャー素敵ぱねぇ、となる事間違いなしというわけだ。人間恩人ともなれば無下にすることもあるまい。完璧な理論すぎて自分が怖くなってくるぜ。ビバ安全の保たれた環境!


「少年、母親にこれを飲ませなさい」

「ど、どくですか?」

「馬鹿言え、どんな病気だって治すお薬だよ」

「くすり!? ほ、ほんとうに!?」

「本当だとも。何ならここで飲んで見せようか?」

「おねがいします!」


 あ、飲まなきゃいけないのね。とりあえず半分ほどグイっと一気に飲み下す。別にまずい味を想像していたわけでもなく、むしろシロップめいた甘味すら感じる優しさの塊である。なんなら丸ごと全部飲み干してもいい位だ。


「ほら。信用できないなら自分でも飲んでみたまえ」

「うん…………あれ? あまい!!!」


 目の前で飲んだにもかかわらずおっかなびっくり舐めるように確かめた少年は、その味に警戒心を無くした……訳でもないのか、とりあえず更に残りの半分ほど飲み干す。まあ最悪一滴でも効果はあるだろうから良いんだけどさぁ。


「……しなない」

「そりゃそうだ。お薬だからね」

「……えっと……その……まじょっていってごめんなさい!」


 おっとぉ? 凄い勢いで五体投地、この流れる様な動作はさっきも見たぞ? 才能すら感じるが、そこまでするほどの事なのだろうか。やっぱり魔女認定されるとおっかない連中がやってきそうな雰囲気がプンプンする。


「いいさ、まあ僕のことは内緒にして、早くお母さんに薬を飲ませてあげなさい」

「うんっ!」


 満面の笑みで走り出した少年は、先ほど出てきた茂みに飛び込む前に、ふとこちらに振り返り手を振る。


「ありがとー! おくすりのひとー!」

「その呼び方は誤解が生まれそうだね!」

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