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彼の王は成れの果てに  作者: 楢原波乱
第一章 白の首輪、枯れ木の男爵
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邂逅

誤字脱字はなるべく見つけるようにはしていますが、漏れがあると思います、ごめんなさい。

完走目指して頑張ります


 綺麗で整備された道はもう二十分ほど前に途切れ、ガタガタと悪路を馬車が進んでいく。乗っているのは背の低い小太りの男が一人、背の高い軽装の男が一人、そして小さな少女が一人。

「おい、きちんと見張っておけよ? 大事な大事な商品だ、逃げたりしたら大変だからな」

 小太りの男が背の高い男に言う。背の高い男は面倒そうに足元の鎖を持ち上げて軽く振る。じゃらじゃらと嫌な音を鳴らすその鎖はがっちりと少女の首と馬車の壁をつないでいた。

「大丈夫ですって、逃げようもないでしょ? こんなの俺だって千切れやしませんよ」

 男の言う通り鎖は装飾品などに使われるものとは比べ物にならないほど太く、仮にこの馬車の荷台と馬をこの鎖でつないだとて、千切れることはないだろう。まだあどけなさの残る少女には明らかに過度な拘束だ、その重さと冷たさは少女の心までも繋ぎ止めているようだった。

「いいか? 今日届ける方はかなりの金持ちと聞いている、一応今回が初めてらしいが、今後もカモになるかもしれないんだ。愛想よく、できるだけ丁寧に接するんだ、いいな?」

 へいへい、とこれまたやる気のない返事を返して男はあくびを一つした。ちらりと振り返って少女を見る。恨めしい目でもなく、かと言って絶望している目でもない。感情をできるだけ殺して限りなくゼロに近い目だ。その瞳に光が見えないのは馬車の屋根のせいで光が入ってないからだろうか? 吸い込まれそうでもあるが、逆に飲み込まれ存在ごとすり潰されそうにもなる。

 自分より遥かに若い少女を見ているはずなのに、男の背中を嫌な汗が一滴伝った。日差しも柔らかく、まだまだ決して暑くはないが、肝が冷えた気分だ。形容しがたい後ろめたさのようなものを感じて男は少女を見るのをやめた。



 コンコンと書斎のドアがノックされ、例のお客様です、とドアの向こうにいる執事から声がかかる。ああ、と短く返事をして机の上の書類をまとめた。量はそれほどでもなかったが、うんざりするその内容に軽い頭痛を覚えながら執事と共に玄関へ向かった。

 執事がドアを開けるとそこにはいやらしい笑みを浮かべる小太りの男と、どこか物憂げな筋肉質の背の高い男が立っていた。服装だけは小奇麗な背の低い男が一歩前へ出てくる。

「初めまして旦那様、私共しがない奴隷商をさせていただいている者です。旦那様の栄光の噂は聞いております。そんな素晴らしいお方と取引をさせていただき大変うれしゅうございます」

 手袋をしたまま差し出された右手に答える、手袋の布越しにも伝わるじっとりとした感触に、口の端が少しひくついた。

「口頭は良い、書類が溜まっているのでね、手短に頼む」

 こちらの冷たい反応に若干面食らった様子の奴隷商だったが、すぐに背の高い男に視線を飛ばし、再びこちらへ笑顔を向けた。相手のことを値踏みし、媚び諂い、隙あらばとりいってお零れに与りたい、そんな感情が透けて見える。見ているだけで不愉快になる笑みだ。しばらくして背の高い男が幼い少女を連れてきた。

「こちらの娘です。あまり愛想は良くないですが、健康で、反抗的なそぶりも見せない大人しい奴です。顔だちも悪くないですし、相応の美人になるとおもいますがね……ですが年が年ゆえにあちらの方の調教は全くで……」

 奴隷商の男の言葉に少女の方がピクリと反応した、『あちら』と表現はぼかしているものの、何が言いたいのかはわかるのだろう、横目で少女を見る奴隷商に嫌悪感が沸き上がる、なんという下卑た目つきだろう、そう思った。

「ほら、お前の御主人様になる方だ、きちんと挨拶せんか」

 少女は奴隷商の説明には耳も傾けず、私のことをじっと見つめている。数秒の間の後小さくお辞儀をし、平坦な声で少女はこう言った。

「初めまして、奴隷のミーシャと申します、この身この心どうぞ自由に……」

 私は反射的に手袋を取ると、少女の頬をはたいた。音こそ少し大きかったものの大して痛くもなかっただろう。しかし少女は面食らってぼおっと口を開けたまま混乱している。

「だ、旦那様私たちはこれにて失礼します。ど……どうぞ今後ともご贔屓に」

 不穏な空気を感じ取ったのか、私の機嫌を何か損ねてしまったと思ったのか。奴隷商は矢継ぎ早に告げるとそそくさと帰って行った。



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