兄弟
「フィル、リリィ、お土産だよ」
そう言って目の前の美少年は優しく微笑みながら綺麗な青色の花を差し出してくる。なんて絵になるんだろう。
歳の頃は5,6歳と言ったところだろうか。母親譲りの銀髪は思わず触りたくなるほどさらさらで、父親譲りのやや青みがかった灰色の瞳はどこか温かみのある色合いで見ていると安心する。そんな前世で見たこともないような美少年は今世の自分の兄であるキール君だ。
ちなみに俺の髪の色は父親と同じダークブロンドだ。瞳の色は鏡を見たことがないからまだわからない。
「ほら、どうぞ〜」
そう言って俺とリリィに一輪づつ花を手渡してくる。
キール君は面倒見のいい少年で、よく俺やリリィの世話をしてくれているので俺もリリィも兄のことが大好きだ。特にリリィちゃんののしかかりを止めてくれる兄には感謝してやまない。いつもありがとう!助かってます!
貰った花は鮮やかな青色、花の形は昔爺ちゃんに甘いから吸ってみな渡されたサルビアによく似ている。鼻に近づけるとほんのり甘い香りがする。
「きゃぅ〜!」
リリィちゃんがめっちゃ喜んでる。あっでもそんなに振り回したらお花が可哀想だよ。
「ミシェナの花はね、吸うと甘いんだよ」
兄がニコニコと笑いながら教えてくる。守りたい、この笑顔。本当に絵になる。
吸うと甘い…か。それだけでは判断つかないがこの植物はやっぱりサルビアの仲間なんだろうか。
それにしてもキール君、美少年過ぎる。前に兄のさらさらヘアーが気になって駄々こねて触らせて貰ったんだが柔らかくて気持ちいい手触りだった。その時にリリィちゃんが俺の真似をして兄の髪の毛に手を伸ばして引っ張っちゃったんだが涙目で『ダメだよ、リリィちゃん。痛いからね、離そう、ね?』って言ってる姿はやばっかた。
危ないお姉さんに連れ去られそうで俺は心配だよ。マジで。
それからしばらく俺とリリィは兄に遊んで貰う。時刻は3時頃だろうか。お昼ねも終わって俺もリリィも体力が有り余っているのである。そんな俺たちに根気よく付き合ってくれる兄、なんていい奴だ。前世で俺が兄と同じ年頃の時は鼻水垂らしながら昆虫採取に夢中だったな〜。いや、鼻水は垂らしていなかったか。うん、ただ無邪気にはしゃぎ回ってただけだ。うん、間違いない。
兄は午前中は村の小さな教会に預けられている。なんでも村の子供達全員を集めて、勉強会のようなものを行っているらしい。まだ中世ヨーロッパ感のあるこの時代に一般人向けの教育があるなんて思わなかった。勉学だけでなく魔法もここで教えてくれるらしいから通うのが今から楽しみだ。
今も兄がそこで習った魔法を見せてくれている。兄が布に包んで持ってきた土を床に広げてある。
”土よ、象れ、『アースメイク』”
詠唱の後、土が手の平サイズのデフォルメされた犬のような形になる。すごい、魔法凄い!
俺も試してみたいけど未だこの口はアウアウキャウキャウ言うのが精一杯なんだ。もどかしい!
リリィちゃんが兄が作った犬の人形に手を伸ばす。すると兄が笑顔でリリィちゃんに人形を手渡しながら自慢してくる。
「どう? 同い年でちゃんと魔法が使えるの僕だけなんだよ。」
「あう」
「きゃ〜ぅ!」
ほう。
「神父様もね。僕の歳でもうちゃんと魔法が使えるのはすごいって褒めてくれたんだ! 普通ならあと3年はかかるだろうって!」
「あ〜う!」
「きゃぅ!きゃぅ!」
そりゃすごいな。イケメンで魔術の才能があって、…うん、主人公は君だ!
「火の魔法もね。もう使えるようになったんだよ?でも危ないから家で使っちゃダメだよって言われてるからまた今度見せてあげるね?」
「あう!」
「うぅ〜」
ぜひ!ぜひ見たいです!…って、痛い!痛いよリリィちゃん!君ってば少し暴力的過ぎやしませんかね?
俺と兄が会話に夢中になっているのに見かねたリリィちゃんが兄にもらった犬人形で叩いてきた。
「あっ!ダメだよ〜、リリィちゃん?そういうことしちゃダメ!痛いんだからね?わかった?」
「うゅ〜」
兄がリリィちゃんから人形を取り上げ、注意する。
ありがとう! マイブラザー! 頼りになるね!
「はい、今度はあんなことしたらダメだからね?」
人形を取り上げられて涙目になっていたリリィちゃんに兄が優しい笑顔で嗜めながら人形を返す。
「た〜い!」
人形を返してもらって喜ぶリリィちゃん。
…甘いよ兄ちゃん。絶対反省してないからね。
「キール君、面倒みていてくれてありがとうね。おばさん助かったわ。」
声の方を見ると薬剤の調合が終わったらしいリリィさんがにこやかに近づいてきた。
「ううん! 大丈夫!」
兄が笑顔で返す。
今日兄が面倒を見てくれていたのはリリィさんが先日採取した薬草がいい塩梅に乾燥してきたので薬を調合していたからだ。
「あら? そのお人形もしかしてキール君が魔法で作ったの?」
「うん! そうだよ!僕の歳で魔法が使えるのはすごいって神父様に褒められたんだ〜」
「ええ、すごいわキール君。今度私にも見せてね。」
「うん!いいよ!」
兄は褒められて嬉しそうだ。
「そうだ!アローネの実があるから、おやつにしましょっ!お手伝いしてくれたお礼よ!」
アローネの実というのは桃に似た見た目の果実だ。
「うわ〜! ありがとう!」
「今お茶を入れるから、ちょっと待っててね」
「うん!」
そう言ってレナさんはキッチン向かって行った。
異世界の食べ物、気になります!でも今はまだ茹でた芋を潰したやパン粥といった離乳食…味も素材の味そのもの。…虚しい。まだまだこれからだよね。
レナさんがお茶を入れて戻ってくる頃には遊び疲れた俺とリリィはぐっすり眠っているのであった。
読んでいただきありがとうございます。