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風のまにまに 〜異世界ぶらり旅〜  作者: 東雲 紫雲
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ソレディア村の神童

ご無沙汰しています。

 ここソレディア村には神童と呼ばれている子供がいる。その子供は魔法の才能に溢れ、さらに魔術に関しても造詣が深い。それだけでなく武術に関しても抜きん出ており、まだ9歳という歳にして大人たちに混ざって訓練をしているくらいだ。先日村を訪れた神父には特待生として入学すること間違いなと太鼓判を押されていた。


 アウイン王国では10歳まで各村、街に設置された教会で教育を受ける。そしてそこで才能を見出された(みいだされた)ものは王都の学院の受験資格を得る。各村から毎年2、3人程度が選出され受験を受けに王都へ出向いているのだ。そこで試験に合格し、学院へ入学を許可された子供の家族には税の免除や報奨金が送られるため、田舎の働き手となる年齢の子供でも入学できる可能性があるなら入学させたいと思っている親が多いようだ。国としては優秀な人材の発掘はもちろん、しっかりと教育を受けた子供が村に帰り、村の発展に寄与することで国を発展させるという狙いがある。



 教会の裏にある広場でサラサラの金髪に整った顔立ちをした、幼いながらに凛々しい表情を浮かべる少年が右手を前に突き出した。


 “炎よ、槍となりて貫け、フレイムジャペリン”


 少年が呪文を唱えると槍の形状をした猛る炎が土壁の的に突き刺さり『ドォン!』という音と共に粉々に砕け散った。あたりには焼け焦げた土の塊が飛び散り、黒い煙が立ち上った。


『きゃ〜〜!』という黄色い歓声や『すっげ〜!』といった賞賛の声があちこちで上がる。どうやらその様子を多くの子供たちが見守っていたようだ。現在は昼休み明けの自主訓練の時間で魔法をしている子や武術の訓練をしている子、そしてその様子を遠目から見学している年少の子たちがいる。


「すごい! 詠唱省略してフレイムジャペリンを使ってるよ!」

「流石は私のキース君ね!」

「ちょっとキース君はあんたのものじゃないわ!」

「あれで俺より槍もうまいとか…」


 その中でも憧れの的として注目を集めているのが何を隠そう我が兄であるキース兄さんだ。自分の魔法で作った土壁の的に火の攻撃魔法を練習していたようだ。このソレディア村は魔の森とも呼ばれるフォーラスの森が近くに存在するため、多くの魔物が村の近辺に出現することもあり、子供であっても武術・魔法がある程度使えないと生きていけない過酷な環境である。


 そんな環境であるからして子供達の中でも武術・魔法共に抜きん出た実力を有しているキース兄さんは人気ものだ。しかも周囲の目を引きつけてやまないほどのイケメンでもあるからして、村の女性たちのアイドルといっても過言ではないだろう。


 そんなキース兄さんは村では神童と呼ばれ、次代の村を引っ張っていく存在として村中で期待されているのだ。だからもうすぐ始まる王都の学園の入学試験のため、王都に出向くことが決まっている。入学が決まればそのまま王都に留まって学校に通うことになるため、実は別れの日が近いのだ。ソレディア村から王都までは馬車を用いても5日ほどかかる距離がある上、ソレディア村周辺は魔物が多いため注意しながら移動する必要があるため、実際には馬車を用いても1週間は掛かる。


 キース兄さんが入学試験で落ちることは想像できないのでもう少しで、しばらくの別れがくるということを思うと少し寂しい。…寂しい反面あの優れた容姿やら何やらと比べられる頻度が減るのではないかという期待も少しあったりする。


「う〜ん、やっぱりまだまだだな」


 キース兄さんが小首を傾げている様子からしてまだまだ自分の実力に納得がいっていないのがわかる。


「フィルは魔法名だけでちゃんと発動できてるのに…、イメージが弱いのかな? それとも魔力の収縮が甘いのかな? あとでフィルに相談してみよう」


 現状に甘んじることなく、常に上を目指す姿勢。見習わないといけないが、そら恐ろしいものがあるな。魔術の勉強をキース兄さんにたまに教えてもらっているが正直ここまで難しいものだとは思わなかった。前世の知識があれば解読できるはず! なんて悠長に構えていたがぜんぜん違う。あれは俺には無理だ。他のことを頑張ろうとキース兄さんが魔術を楽しげに語るのを見てそう俺は決意したのだ。


 何はともあれ、キース兄さんが近く王都へ行くのは確実であり、なんとその試験には家族も同伴して行こうということになっているので俺も王都へ行くことが決まっている。つまり、生まれて初めての異世界の旅だ。正直楽しみでならないわけだがリリィちゃんが旅に自分がついていけないとわかるや泣くわ泣くわで説得するのが大変だった。たくさんお土産を買ってくることで最終的には落ち着いたがリリィちゃんが満足いく品を買ってこないとならないわけで…今から胃を痛めている。…こういう時って名物のお菓子買うくらいしか思いつかないのだが大丈夫だろうか…。


 現在、リリィちゃんは魔法を使えることを暴露してしまったのでアースメイクでおもちゃを作りながら、他の年少の子と一緒に年長の子たちの訓練を見学している。遠目からも楽しそうにしているのが見えて一安心だ。

 え? じゃあ俺は何をしてるのかって?


「フィル君、次はこっちお願いね〜」

「…は〜い」


 “バブルウォッシュ”


 そう俺が唱えるとハンナさんが指差していた木桶の中の洗濯物がぐるぐると回り始め、水と泡でバシャバシャと音を立てながら洗われ始めた。世知辛い世の中だ。もうわかるだろうけど、俺は今みんなが楽しそうにしているのを横目にこの教会のシスターであるハンナさんに洗濯のお手伝いを命じられ、しぶしぶ魔法でみんなの洗濯物を洗っているわけだ。


「ありがとうね〜フィル君! ほんと助かるわ〜!」

「…うん」


 洗濯は大変だからね。致し方ないような。でもさ、朝も昼も洗濯物を一手に引き受けることになろうとは想像していなかったよ。あれ? おかしくない? 水魔法って結構重要なんじゃないのかい?


 キース兄さんはもてはやされているというのに俺はまるで便利な道具扱い…俺はさながら人間洗濯機…いいさ、いいんだけどさ。

 虚しいぜコンチクショウ!!


 早く旅に出たいと願う今日この頃。

読んでいただきありがとうございました。


やっと旅……まぁ家族旅行みたいなものですが。

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