水魔法の正しい使い方
アウイン王国で水魔法が重要視されている。そのため水魔法の適正が見られる子供の多くは王都で教育を受けることになっているのだ。水魔法が重要視されている理由は大きく分けると3つになる。
まず一つ目は水魔法の適性がある人の少なさだ。この国では魔力適正者が多い順に属性を並べると火・土・風・水・光・闇となる。こうやって並べてみると一見そこそこの人数がいてそこまで希少ではないように思えるだろう。むしろ光や闇の魔力属性を持ったものの方が少なく希少であるように思える。確かに比率で言えば光や闇の方が少ないのは間違いない。ただし需要を見るとそうは言えないのだ。
水は生きていく上で欠かせない存在だ。人も動物も水を摂取しなくては生きられないし、農作物も水を与えなければ育たない。だから水魔法と言うのはこの世界ではとても重要視されている。水を魔法で作り出すことはもちろんのこと、すでにある水を精製し不純物を取り除くことで飲み水に変えることができるのだ。だから田舎の村から王都まで水魔法の使い手の需要はとても高い。そのため需要からするととても適正者が少ないと言えるのだ。
二つ目、それは消費魔力の高さだ。水魔法は魔力の消費が他の魔法に比べて多い。特に水を作るのには大量の魔力が求められる。一般的な水魔法使いが一日に生成できる水の量は精々水瓶一つ分、約20ℓくらいなのである。これでは人家族分すらままならないのでどちらかというと精製の魔法が求められている。精製できる水量は魔力で作る量の約10倍、200ℓもの水を精製することができるのだ。だから水魔法の適正者でも一定以上の魔力を保持していないと簡単な水魔法を使うことすら難しいのである。
そして最後の理由である三つ目の理由は水魔法の制御の難しさだ。飲める水に清めるための精製や水流操作など魔力制御がよっぽど得意でない限り上手く発動しない。その上魔力制御をある程度身につけていない限り、魔法を発動させるために無駄な魔力をロスしてしまうのだ。ただでさえ必要魔力量が多く求められる水魔法にとってそのロスは大きい。だから水魔法の適性がある者は学院で最低限の魔力操作を身につけさせられるのである。
これらの理由により有望な水魔法適正者は王都で教育を受けで水魔法を使用できるようになったのちそのまま王都で就職についたり、自分の故郷に帰りその能力を役立てるのが一般的な流れとなっている。多くの魔力を保持するものは例え平民だったとしても良い待遇を受けられるし、そうでなくても田舎の村では貴重な人材であることには変わらないからだ。だから水魔術士になれたものは将来職にあぶれることがないとても重要な存在なのである。
「いや〜、フィルがいてくれて助かるわ♪」
「ええ、本当に。お洗濯がこんなに楽に済んじゃうなんて信じられないわ〜♪ ありがとう、フィル君」
「うん、お役に立ててよかったよ」
エミリー母さんとレナさんにお礼を言われた俺は疲れ切った目で答える。清々しく晴れた天気で外で遊ぶにはもってこいな天候なのだが今俺に求められているのは違う。今日は朝から洗濯の手伝いのため、川に来ているのだ。いや、今日もと言った方が正しいな。魔法を披露してからというものの洗濯に付き合わされるようになった。
くっ、どうして俺はこの展開が予測できなかったのだ? 前世の学校の授業で三種の神器と教わったというのに忘れていたとは情けない。そう、洗濯機っといえば三種の神器と称された家電のうちもっとも主婦に貢献した名高いアイテムではないか! てか今俺って人間洗濯機扱いされてないかい?
「フィル君〜、こっちもお願〜い」
「そっち終わったらうちんとこもよろしくね〜」
「…は〜い」
チクショウ、本当にこの村の女性はたくましいよなぁ。使えるとなったら3歳児でも容赦ないなんてさ…。この展開は流石の俺も予想外だったよ。リリィちゃんは川沿いから魚の様子を伺うのに夢中なようだ。俺もそっちがいいなぁ。
実は魔法が使えることに対して家族はあまり驚かなかった。何でもリリィちゃんが家でうっかり前に使ってしまっていたらしい。俺との約束を思い出したリリィちゃんが「フィルと内緒したから言わないでぇ」と涙目で訴えたらしく、俺には伝わらないようみんなで秘密にしていたとのことです、はい。
”バブルウォッシュ”
俺は頑張って残りの洗濯物に取り掛かる。詠唱すら面倒になった俺は魔法名しか唱えなくなっていた。最近、最初は遠慮してた人たちがだんだん遠慮がなくなって来て同じタイミングで洗濯に来た人のほとんどの洗濯物を魔法で洗ってあげているせいか水魔法がどんどん上達している気がするんだよね。”ウォッシュ”と”バブル”に分かれていた魔法も統合させちゃったし。最初はみんな驚いていたが驚きよりも楽したいという気持ちが勝ったのだろう。今じゃ誰も驚いてくれない。
”バブルウォッシュ”
”バブルウォッシュ”
最大で3つは一緒に洗濯魔法を使えるようになったしね。今じゃ桶の中の水の動きを見なくても水を零さない程度のスピードで洗える自信もあるくらいだ。魔法が上達して嬉しいけどなんか成長の仕方が虚しく感じるんだよね〜。
ソレディア村は水源豊かだし、飲み水としては森の美味しい湧き水があるから普段は別に水魔法が必要ってわけじゃないから他のことに使えるなら使っちゃえ〜って感じでいざという時のために魔力保持をって考えもないしね。他の村ではこんな扱いはされないだろうにってこないだハース父さんが苦笑してエミリー母さんに言ってたの聞いちゃったんだよなぁ。
「ねぇお母さん! 終わったから早く帰ろーよ!?」
やっとの思いで今いる人達の洗濯物を終えた俺は遅れてやってくる人の追加注文を恐れ、母たちを急かして早く帰ろうとする。これ以上仕事を増やされてたまるものか! エミリー母さんとレナさんはご近所の奥様方との交流中で本当は割って入りたくはないのだが俺の仕事が増えるのは勘弁なので勇気を持って声をかけたのだ。
「あら? もう終わったのフィル? そうね〜、じゃあ帰りましょうか」
「お疲れ様フィル君。リリィ〜! 帰るからおいで〜!」
俺の訴えに答えてくれたエミリー母さんとレナさんが帰り支度をする。すると近所に住んでいるミンばあちゃんが俺に近寄って来た。ミンばあちゃんは70代くらいの人間の女性でとっても優しいおばあちゃんだ。でも70代とは思えないくらパワフルで背筋もピンとしている。
「フィル君、いつもありがとうね。ほらこれ家で取れたベリーだよ。リリィちゃんと分けてお食べ」
「うん、ありがとうミンばあちゃん!」
ミンばあちゃんは少ししゃがんで俺の背に目線を合わせると手にベリーをもたせてくれた。ラッキー! ミンばあちゃんがくれたベリーはラズベリーみたいな見た目をしていて甘酸っぱくて美味しいんだよね。
「たっだいま〜!」
リリィちゃんが元気な声をあげて川辺から戻って来た。俺はリリィちゃんに「お帰り」と言ったあとベリーをおすそ分けしてあげる。
「わ〜! ベリーだ! ありがとうフィル!」
リリィちゃんもベリーが大好きだからとても嬉しそうにしている。
「ミンばあちゃんがくれたんだ。リリィちゃんもお礼を言ってね」
「うん! ミンばあちゃんありがとう!」
俺がリリィちゃんに告げると眩しい笑顔のままミンばあちゃんの方を向いたあとお礼を言った。うんうん、偉い偉い。ミンばあちゃんはリリィちゃんのその言葉にニッコリと笑った。
「ミンさん、ありがとうね」
「ミンさん、ありがとうございます」
「いいんだよ〜。こっちこそ助けられちゃってるからねぇ、いつもありがとうねぇ」
エミリー母さんもレナさんもミンばあちゃんにお礼を言い、ミンばあちゃんも返すようにお礼を言う。
「じゃあ、皆さんまたね」
「失礼しますね」
エミリー母さんとレナさんが奥様方に別れの挨拶を告げ家路に帰る。
「はい、またね〜」
「気をつけて帰ってください」
「フィル君またよろしくね〜」
「リリィちゃん足元気を付けて帰ってね〜」
「キース君によろしくね!」
「はーい!」
「…は〜い」
俺とリリィちゃんは手を軽く振りながら答えるのであった。
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