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風のまにまに 〜異世界ぶらり旅〜  作者: 東雲 紫雲
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証拠を隠滅しよう

「う〜ん、ちょっとこの汚れはなかなか落ちないかもしれないなぁ」


 困った顔をしたキール兄さんが汚れたリリィちゃんの洋服を広げている。食事の片付けが済んだあと、ため井戸の水で浸け置いた洗濯物をキース兄さんが手洗いしてくれているのだ。元々白い布ではなくクリーム色に近い色なのだが汚れている箇所がわかってしまう。キース兄さんの言葉を聞いたリリィちゃんがしょぼんとする。


「ママ、怒るかな〜…」


 いや〜これは想定外でしたね。でも考えてみればそうだよな。こんだけ汚れれば手洗いじゃなかなか落ちないに決まっている。泥汚れはしつこいからね。

 しかしここで諦めたら男が廃る。だってリリィちゃんにレナさんが怒らないと言ったのは俺だから、その言葉には責任を持たなくてはならないだろう。


 やれるだけ頑張ってみようではないか。まず汚れを落としやすい状態にすることから始めよう。

 さて、ここで役に立つのが昼食でも食べたルカオだ。ただし昼食で食べた皮がオレンジ色で熟されたものと違ってまだ青く熟していないルカオを使う。熟していないルカオは甘みより圧倒的に酸味が強くとてもじゃないがそのまま食べるのはちょっと辛い。しかし、桶に溜めた水に絞ったルカオの果汁を混ぜた水は汚れを落としやすくするし、柑橘系のいい香りが残るので掃除や洗濯に大活躍なのだ。ちなみにこの前の祝福の日に屋台で食べた串焼きの肉にかかっていた果物もおそらく熟していないルカオの果汁だろう。

 一応浸け置きしていた水にも入っているが今回はこのルカオの果汁を汚れている箇所にピンポイントに振りかけときましょう。漂白剤とか洗剤を直で汚れの箇所にかけると落ちやすいってなんかでやってたしもしかしたら効果あるかもしれない。というわけでルカオを調達せねば。俺はシスターのハンナさんのとこへ行きルカオを貰いに行く。


「ハンナさん、ルカオ頂戴!」

「あら? ご飯足りなかった?」


 いえいえ、ご飯は足りてますよ。ルカオも熟されててとても美味しかったです。ちょっと言い方が悪かったかな? 俺は首を振って否定する。


「違うよ。青いのが欲しいの。洗濯に使うんだ」

「え? でももう水に溶かしてあるわよ?」

「知ってるよ。でも別に使うんだ」


 ハンナさん、その変な子ね? とでも言いたそうな目は辞めてくれないかな。まぁとりあえず追加でルカオのみを半分に切ったものをくれたからよしとしておこう。俺が何をするのか気になったのかハンナさんが俺の後を付けてくる。む、大人の目があるのは好ましくないがこの際は仕方ないだろう。


 次に温度だ。汚れを落としやすくするにはお湯で洗濯した方がいいと何かで聞いた。あんまり高温だと洋服の繊維がダメになっちゃいそうだから人肌くらいの温度がいいかな? というわけでキース兄さんの出番です。


「キース兄さん、ちょっと手伝って」

「ん? 何だいフィル?」

「お湯が欲しいんだ、そこまで熱くないやつでいいんだけど」

「お湯?」

「洗濯に使うのかい?」

「うん」


 さすがはキース兄さん、察しがいいね。


「ん〜、わかったよ。フィルに考えがあるみたいだし、お湯を用意するね」

「ありがとう!」


 木桶をもう一つ用意しましてそこに井戸水を組んでもらいます。そしてキース兄さんに用意した水にお湯にしてもらいます。


「どのくらいの熱さがいいの?」

「えっとね、手で触れるくらいがいいな〜」

「うん、わかったよ」


 ”火よ、あれ”


 キース兄さんが詠唱し魔法を発動させる。すると拳大の小さな火が発現し木桶の中央部に上空から水に触れ、水を温めた。しばらくしてから魔法で発現させた火を消したキース兄さんがお湯に触れた後俺に確認するように聞く。


「これでいいかい、フィル?」


 キース兄さんに問われた俺は木桶に近づいた。湯気が出ていてお湯になっていることがわかる。軽く触れてみるとちょっと熱いがちゃんと触れるくらいの温度だ。

 グッジョブだ! さすがキース兄さんだね。今の魔法簡単に使ってたけど実際細かい出力調整とかは結構難しいらしい。エミリー母さんとかは火魔法では着火くらいまでしかしない。じゃないと火力調節を間違えてしまうからだとか。


「うん、大丈夫。キース兄さんこのお湯をこっちの木桶に少しづつ入れってって」

「わかった」


 さらにキース兄さんに頼んで浸け置きに使用していた木桶の水に足してってもらう。俺は水を手でかき混ぜながら温度が人肌くらいの温度になるのを確認し、キース兄さんにお湯を入れるのを止めてもらった。


 さて、次は俺の出番か。正直まだ魔法を披露する気は無かったなんだけどなぁ。しかも理由がこれって…まぁ、俺らしいか。キース兄さんもハンナさんもリリィちゃんも俺が何をやるか興味津々に見ている。仕方ない、必要なことだから我慢しよう。俺は先ほど取り除いておいた汚れた衣服の汚れとれない箇所に手で絞ったルカオの果汁を振りかける。そして木桶に入れた後、木桶に両手をかざす。


 ”水よ、洗い流せ、ウォッシュ”


 魔法を発動させると桶に溜めてある水が桶の中を回るように揺するように動き始め、衣服を洗い始めた。魔力を制御して強く揺すったり、弱く揺するようにしてみる。人目があるから詠唱破棄はせずに魔法を使った。まぁイメージ通りかな? 前世で洗濯機で洗濯しているところを見てたときこんな動きしてたと思う。


「わっ! フィルって水魔法も使えるようになってたんだ!」

「え、こっこれって水魔法?」

「ふわ〜、フィルすご〜い! お水がくるくるしてる〜」


 あれ? キース兄さんのこの反応はもしかして魔法が使えることバレてた? つまり、他の家族も知ってるってことだよね? ってことは俺が隠してたり、使いたいけど自重してた意味って…。いやまぁこれから自由に使えると考えれば悪くないよね?

 しかし…む〜、これだけじゃ心もとない気がするなぁ。洗い続ける木桶を見てるがこれだけで落ちるのか微妙な気がしてきた。よし、念には念を入れておくとしようか。


 ”水よ、泡となれ、バブル”


 追加で魔法を発動すると洗濯が行われている木桶の水の中に小さな泡が沢山現れる。確か泡は汚れを落としやすいっていうよね。揺するように水を操作する”ウォッシュ”の魔法と併用することで効果は倍になるはずだ。おー、すごいすごい

 ウンウンと俺は頷きながら洋服が洗濯されるのを見ている。


「わ〜、フィルすごいな〜! こんなことできたの?」

「え? どういうことなの? 水魔法を同時に2個使用しているの?」

「泡泡だ〜。ね、ね、触っていい?」


 あれ? なんかまずった? いやでもキース兄さんがこの間の訓練で火魔法と土魔法同時に使用してたから、そこまで珍しくないよね? 土魔法で壁作りながら火魔法で的当てができるなんてすごいよね。

 あとリリィちゃん、洗濯中は触っちゃダメだよ?


 15分ほど魔法で洗濯したあと魔法を止め、洗濯を終了する。いつのまにか周りに他の子たちやシスターそしてコル爺まで来ていた。まぁ注目を集めてしまったのは仕方ないだろう。魔法で洗濯するところなんて俺も見たことないし、するのもこれが初めてだからなぁ。


 洗濯を終え、木桶から慎重にリリィちゃんの衣服を取り出す。広げてみると嬉しいことに泥汚れがしっかり落ちている。いや〜これで一安心だね。うん、これならレナさんは怒らないだろうさ。もちろん、俺の服も汚れはしっかり落ちてるからエミリー母さんに怒られることはないだろうしね! 安心安心!


「わ〜! ありがとうフィル!」

「うん!」


 リリィちゃんの笑顔が今回の一番の報酬です。ええ、決して自分もエミリー母さんに怒られるのではないかと危惧していたからやったわけではないですよ?





 何故だ? このあと他の子たちの服まで洗濯させられる俺であった。…解せぬ。



 ♢



「コル爺、フィル君のあの魔法はご存知ですか?」

「いえ、私も初めて見た魔法ですね。あの歳でもう魔法を作り出せるとは…。そもそも王都ですらあそこまで器用に水魔法を使う人は見たことがないです」

「ですよねぇ。確かに才能ある子なら3歳でも魔法を発現させてもおかしくないですが。発現させるどころかちゃんと操作して使ってますし…」


 水魔法とは他の魔法より細かい操作が難しいとされているがフィルは2つ同時に魔法を使用し、なおかつ問題なく操作していたのだから二人は驚いている。


「ええ、何れにしても将来有望で微笑ましい限りですね」






「はっ、そうだ! 教会の洗濯物はこれからフィル君に手伝ってもらうことにしましょう!」

「ああ、それはいい考えですね〜。でも無理やりはダメですからね、ハンナ?」

「は〜い」

読んでくださりありがとうございました。


GWですね、頑張って書いていきたいと思います。

め、目指せブックマーク20! 

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