目を瞑る
教会の庭から建物に入るための出入り口に子供達は並べられ、泥遊びで汚れた服を脱がされた年少の子供達の汚れをシスターや年長の子供達が水で洗い流されている。シスターにたっぷり叱られた子供達は泣き疲れてぐったりしている。特に遊んでいた中では年長だった5歳児達は念入りに叱られたらしくジョージは未だ涙目の状態でゲンコツをもらった頭を抑えて熊耳を閉じてシュンとさせている。まったく! しっかりしてもらわないと困りますね! 年少の子達は体を洗われた後シスターや年長の子達がタオルで拭いてくれるのを大人しく受け入れされるがままになっている。俺とリリィちゃんはキース兄さんが面倒をみてくれており今はキース兄さんがリリィちゃんの体を拭いている。俺は自分で吹けるのでタオルを受け取ったあとは自分で体を拭いている。
「う゛〜!フィル、パチャパチャやっても怒られないって言った〜」
キース兄さんに髪をタオルで拭かれながらリリィちゃんが恨めしげに俺を見つめて言ってくる。それに対して俺は髪を拭き終わった後のタオルを頭に被り、そっぽを向いて答える。
「シスターに怒られないとは言ってないもん」
「あっ、…む〜」
はっと気づいたかのような顔をした後リリィちゃんは頬っぺたを膨らませて抗議の声を上げる。ふっ、そんな顔したって怖くないよ。プニプニのほっぺを膨らました幼女はむしろ可愛らしいと思えるくらいだね。
「フィル? ダメだよ。悪いことしたらちゃんと謝らないと悪い子になっちゃうよ? お兄ちゃんそれは悲しいな」
む、ちょっと兄上それはズルイよ。そんな悲しそうな目で見られたら反論できないじゃないですか。
「…リリィちゃん、ごめんなさい」
俺は大人しく謝ることを選びリリィちゃんに謝罪する。するとリリィちゃんは途端に機嫌を直し笑顔になった。
「ううん! でも楽しかったね、フィル!」
二ヒヒっと笑ったリリィちゃんはとても可愛らしい。ただ、さっきまで泣いてたせいで鼻水垂れてますよお嬢さん? 仕方なく、頭にかけられていたタオルでリリィちゃんの鼻を拭ってあげながら俺は答えた。
「うん、楽しかったね!」
リリィちゃんを真似して二ヒヒっと笑って返した。するとその様子を微笑ましく見ていたキース兄さんだが最後に俺たちに注意するように言う。
「こ〜ら! もうやっちゃダメだからね!」
「「は〜い、ごめんなさ〜い」」
♢
こんなこともあろうかと教会に備えられている衣服に着替えた俺たちは大きな木製のテーブの周りに座った。
取り敢えず用意してくれた料理が冷める前に昼食にすることになったのだ。汚れた服は水につけ置きしてあり、食事の後に洗う予定だ。天気は快晴だし、干せばすぐ乾くだろう。
年少の子達は大人しく床に座りシスターと年長の子達が木製のテーブルに料理を配膳していくのを眺めている。ふむふむ、今日の献立はパンとスープとルカオか。スープの具材は今朝とれたての野菜と干し肉のスープでルカオとはグレープフルーツみたいな見た目の果物で味はどことなく居酒屋で飲んだシークワサーのサワーを思い出す。そういえばシークワサーなんて食べたことないな。この時期は果物がよく取れるから食卓が豊かで嬉しい限りだね。
配膳が終わりみんなが席に着くことを確認したこの村の教会の神父であるコル爺ことコルネーロ神父が食事の挨拶をする。神父様だから普通は神父様だのコルネーロ神父と呼ぶのが正しいのだろうけど本人がコル爺と呼んでくれと言っているので村のみんなはコル爺と呼んでいる。見た目はまだ40後半ぐらいなので俺としては爺と呼ぶには若すぎる感があるんだけれどね。
「それではみんな、手を合わせて…恵みに感謝を」
『恵みに感謝を』
手を合わせて挨拶を言うと一斉に食べ始める。食事の挨拶の仕方がなんだか日本に似ていて落ち着くんだよね。俺はパンをちぎりスープに浸して食べる。うん、スープに干し肉と野菜の旨みがしっかり溶け出しており、十分に美味しいね。パンは硬いけどナンみたいに伸ばして薄焼きにしてあるから硬すぎると言うことはない。もちろんいずれは改善したいと思っているが今すぐ改善しないと辛いというほどじゃないので助かる。まだ3歳児だから改善したくと行動に移すのがなかなか大変だからね。変なことしてるとすぐ見つかってしまうのだ。…両親や兄弟より先にリリィちゃんにね。問いただされるとなかなか返答に困るのよね。
「うっ、これにぎゃい…」
俺の隣に座っているリリィちゃんが苦手な野菜があったらしく下を顔をしかめている。それに気づいたキース兄さんがリリィちゃんに言う。
「好き嫌いはダメだよ? しっかり食べて栄養を取らないとね」
「は〜い」
「なんだなんだ? リリィは苦手な野菜があるのか? だっせ〜なぁ」
「む!」
話を近くの席で聞いていたジョージがニヤニヤ笑いながらリリィちゃんに揶揄うように言う。こらこらジョージ、俺は覚えてるぞ?
「へ〜、ジョージがそれ言うんだ? じゃあ今度ピメントン出たらハンナさんにジョージが好きだって言っとくね?」
ピメントンはピーマンみたいな苦味の強い野菜だ。ジョージはこないだハンナさんに叱られて泣きながら食べてたっていうのにもう忘れたのだろうか。
「う゛! あんなの食べ物じゃねーもん! ハンナさんには言うんじゃねーぞ! 言ったら酷いからな!」
ジョージはそう言ってそっぽを向いて自分の食事に戻った。
リリィちゃんも食事を再開し、苦手な野菜を我慢しながらゆっくりスープを食べ始める。キース兄さんは苦笑しながら俺に聞いてくる。
「そういえばフィルはいつも特に好き嫌いなく食べてるみたいだけど嫌いなものってあるの?」
俺は質問を受けスプーンを止め、「う〜ん」と唸った。嫌いなもの…嫌いなもの…ね。よく考えてみるとこの世界に転生してからまだ嫌いなものには出会っていないかもしれないな。前世ではウニが苦手なくらいだったかなぁ。あの生臭さがどうも苦手でね。まぁこの世界の野菜はまだ日本みたいに品種改良が進んでるわけじゃないから苦味が強いものが多くて味に敏感な子供の下には苦いかなとは思うものの前世ではコーヒーを愛飲していたくらいだから問題ないくらいの苦さに感じている。
「特にないかなぁ」
「え!?」
リリィちゃんがギョッとした顔で俺を見てくる。どうしたリリィちゃん? もともと大きな目を見開いてるからこぼれそうなくらいになっててちょっと怖いよ?
「フィル、嫌いな食べ物ないの?」
「うん、まぁ」
「アピウムも?」
アピウムとはさっきリリィちゃんが嫌がっていた野菜だね。確かに独特の苦味がするから嫌いな子が多いかもしれないな。俺はむしろ好きな味だね。ピクルスにしたりしたらより美味しく食べられると思うよ。
「うん、大丈夫だよ。むしろ割と好きかな」
「え〜!?」
「ははは、フィルは偉いなぁ」
リリィちゃんは驚愕の声を上げスプーンにすくったアピウムと俺の顔を交互に見比べている。そしてキース兄さんは笑顔でよしよしと頭を撫でて褒めてくれた。ふふふ、まぁね!
「キース兄さんも好き嫌いないよね?」
「うん、まぁ今はね。前は苦手な野菜もあったよ? リーキとか苦手だったかな」
そういえばと俺がキース兄さんに聞くとキース兄さんは思い出すように宙を見上げた後答えてくれた。
「兄ちゃん、リーキ苦手だったの? なんで? リーキ美味しいよ? 苦くも変な味もしないし」
そういえばリリィちゃんは前にリーキを好んで食べてたっけかな。
「ふふっ、そうだね。味は問題なかったんだけどね。あの食感がどうにも苦手だったんだよ。でも、今は美味しく食べられるよ」
「ふ〜ん、そうなんだ〜」
キース兄さんがリリィちゃんの問いに苦笑した後答えている。そんな中俺はそういえばなんかそんなやりとりをしていたのを見ていた気がするな〜と記憶を探りながら食事を再開した。すると二人も食事を再開し、スープを啜る。
やれやれ…時折キース兄さんの目を盗んで俺のスープ皿に運ばれてくるアピウムを今日だけは見逃してやろうではないかと俺は思うのだった。
読んでいただきありがとうございます。
頑張れたら4月中にあと1話更新したいと思っています。
ええ、思っています。




