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風のまにまに 〜異世界ぶらり旅〜  作者: 東雲 紫雲
24/29

認めたくない

だいぶ間が空いたようですみません。

 いい加減認めるしかないのだろうか?


 俺は朝の日差しに目を細め、一つため息をついた。

 今日は昨日の大雨が嘘のような快晴だ。

 太陽の光が燦々と大地を照らしつけている。地面に残った水たまりだけが昨日の雨を証明している。


 この世界、この村での暮らしも慣れてきた。住めば都とはよくいったもので慣れればこの生活もなかなか悪くないと思えている。もちろん日本で暮らしていた時よりないものの方が圧倒的に多いため不満を感じることがないわけではない。娯楽は少ないし、存在する調理器具も限られているし、調味料は少ないし。まぁそれでも魔法はあるし未知の食べ物もたくさん存在する。

 前世ではスマートフォンが手放せないような日常を送っていた。朝はスマホのアラームで叩き起こされ、通勤時間やお昼休みはスマホでゲーム・ネットで時間を潰し、仕事ではスマホで連絡を取り、夜はスマホで動画サイトを流し見る、そんなおはようからお休みまで一緒にいた存在がいなくなっても割と大丈夫なんだから割とどうにでもなるのだろう。


 ただ一つどうしようもなく真実から目を背けていたことがある。

 信じられない。いや、信じたくはなかったといのが正しいか。

 なぜなら俺はこの世界に転生した当初からその存在があることを疑わずにいたからだ。でもいい加減認めるしかないのだろう…


 ”ステータスが見れない”


 ねぇ? ちょっとどういうことよ? 選択したスキルがわかんないんですけど? 神様だかなんだか知らないけどそれっていいんですか? スキル選択とかいうゲームみたいなものさせたくせに確認できないなんて…!

 生まれたての頃はまだだいたいこんなスキル取ってたとか記憶してたけどもうしっかりとは覚えてないよ。だって赤子の頃にメモができるわけないじゃないですか。

 キース兄さんに自分の才能が見れる魔道具が存在するかこっそり聞いてみたら「ふふっ、フィルは面白いこと考えるね〜」って頭を撫でられながら言われてしまった。そりゃそうだよね、そういうのがないから祝福の日なんて大掛かりな儀式で魔力測定してるんだもんね…。いや、わかってたよわかってたけれどね。スキル一覧にステータス確認ができそうなスキルは存在しなかった。…そのはずだ、見落としてさえいなければだが。あれ? もしかして本当に俺が見落としていただけ? 多くの人はとっているとかそんなまさかね…。いいや、もう考えないようにしよう。


「フィル〜! 兄ちゃん! おはよ!」


 女の子の元気な声が聞こえる方向を見るとレナさんに抱っこされたリリィちゃんがこっちに手を振っていた。レナさんが優しく微笑みながら近づいてくる。


「リリィちゃんおはよう! レナさんもおはようございます!」


 うん、キース兄さんの挨拶は実に元気があってよろしいね。ちなみにキース兄さんはぼうっと突っ立って待っていた俺とは違って、雨が降ったあと玄関の掃除をしていた。


「おはよ〜ございます」


 俺もしっかり挨拶をする。挨拶は大事だよね。


「二人ともおはよう。待たせちゃったかな?」


 教会には俺たちの家の方が近いから家の前でキース兄さんと俺がリリィちゃんが来るのを待っていたのだ。


「ううん、待ってないよ」


 教会への行きはキース兄さんの、帰りはだいたいエミリー母さんかレナさんが迎えにきてくれる。午後はキース兄さんは武器を使った稽古の時間なのだ。教会は午後も子供達の面倒を見てくれるがうちはだいたい午後は家で過ごす。

 家の扉を開けてエミリー母さんを呼ぶ。


「リリィちゃんたち来たよ〜!」

「は〜い、今いくわ」


 掃除を切り上げたエミリー母さんがこっちへやってくる。


「気をつけてな」


 本を読んでいたハース父さんが顔をあげ、にこやかに見送りの言葉を言う。字を読むことはだいたいできるようになったけれどハース父さんが読んでいる本は難し過ぎてまだついていけないんだよなぁ。


「うん、いってきま〜す」




 教会までの道はあまり整備されていなく、ぬかるんでいたり、大きな水溜りがあったりして憂鬱な気持ちにさせられる。まぁ家から教会までは徒歩で3,40分くらいの距離があるので3歳児の体力ではとても無理なので母におんぶされているから道の状況なんて俺には関係ないのだがね。エミリー母さんの背で暇を持て余した俺がなんとなく鼻歌を歌っているとエミリー母さんに尋ねられた。


「フィル、その歌はなあに? 自分で考えたの?」

「ん〜? うん」


 そういえば自然と日本の歌を歌ってしまっていた。鼻歌だからまだいいものの知らない歌を歌ってたら変だろうか? いや、子供はよくオリジナルソングを歌ってるから大丈夫だろう。


「いいリズムね〜、なんて歌なの?」

「名前? う〜ん、雨の歌…かな」

「へ〜」


 雨雨降れ降れ母さんの〜って歌詞はだいたい覚えているがそういえば曲名なんだったけか? う〜ん、思い出せない。そんなこと考えてると歌詞にあるじゃのめってなんだよって疑問が湧いてくる。じゃのめでお迎えってじゃのめとお迎えにどう関連性があるんだ? …畜生、ネットがないとこういう時調べられないから不便だよな。だいたい日本の歌だからここではもう調べようがないしね。

 いや、俺と同じ転生者に聞くという手段が残っているか…。ってこんなこと今更聞いてどうするんだよって返されそうだな。ん〜、転生者か…他の人たちは今世をどう過ごしてるんだろうか。まぁ、何にせよ俺はあまり関わり合いになりたくないな。あ、でも醤油とか味噌とかそういうの発明してくれたらありがたいな〜。発酵食品とか難しくて自分では作れる気がしないからな〜。家で食べられるパンもスープにつけなきゃ固すぎて食べれないし、薄焼きにしたガレット生地はいい硬さだけどね。イースト菌はちょっと厳しいからフルーツ酵母でもそのうち作るかな。あれなら割と簡単だしね。フルーツは森にたくさん生ってるし、瓶は土魔法で作ってもらえばいいしね。



 エミリー母さんの肩越しに教会が見えてきた。30分なんて時間は話していると割とすぐ過ぎてしまう。まぁ俺は途中からずっと考え事していたんだがね。


「リリィ、足元にはしっかり気をつけるのよ? ぱちゃぱちゃやっちゃダメだからね?」

「うん!」

 レナさんに降ろされたリリィちゃんが底が木で作られたサンダルでぬかるんだ地面を踏みつけ足元を確かめながら返事をしている。俺もエミリー母さんの背から降り、キース兄さんと一緒にエミリー母さんに別れの言葉を交わす。


「キース、二人をよろしくね? あとしっかり学んでくるのよ?」

「うん!」


 うんうん、よろしく頼むよ兄上。そしてしっかり勉学を学ぶのだ少年よ。


「フィル? ちゃ〜んとお話聞くのよ? ぼけっとしてちゃダメだからね?」

「…は〜い」


 エミリー母さんや? なんだか俺に対する言葉が困ったちゃんへのしつけの言葉に聞こえるのは何故なんだね? そんな躾けるように目を合わせて頭を撫でてこなくてもこちとら30にも届く精神年齢してるんだから人の話を聞かないなんてそんなこと…するわけないじゃないですか。ちょっと目線をそらしたのはなんの意味もないからね?


「それじゃあキース君、リリィをお願いね。フィル君も気をつけていってらっしゃいね」

「はい!」

「は〜い」

「リリィちゃん、お友達と仲良くね? あとフィルのことよろしくね」

「は〜い!」


 リリィちゃんが手を上げてエミリー母さんに元気に返事を返す。…解せぬ。


「フィル! 手!」


 リリィちゃんが手を繋ぐのを催促してきたので仕方なく、手を差し出す。するとしっかりリリィちゃんが手を握ってきた。柔らくて暖かい御手手ですね。そして二ヒヒっと俺に向かって笑ってくる。うん、可愛いな〜。


「「「行ってきま〜す」」」

「いってらっしゃ〜い」

 レナさんとエミリー母さんが手を振り送り出してくれる中、俺たちは教会へ向かっていった。

読んでいただきありがとうございました。

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