魔法のあれこれ
”火よ、あれ”
”風よ、吹け”
快晴の空の元、ソレディア村の小さな教会の庭には子供達の元気な声が響いている。そこでは6歳から10歳くらいの子供達がそれぞれバラバラに広がり、魔法の練習をしているようだ。小さな火がついたり、そよ風が吹いたりしている。その様子を村の神父であるコルト神父が見守っており、時折子供達に近づき何かをアドバイスしているようだ。
アウイン王国では5歳から10歳の子供に教育を義務付けている。そしてその教育の役割を担っているのが教会だ。教会では布教と合わせ、簡単な読み書きや計算といった学問から魔法の基礎を子供達に教えているのである。その教育を受けたものの中で類い稀な才能を見せたものは王都にある学院の受験資格を得ることができ、才能の発掘という側面もあるらしい。
この世界において魔法という存在はごく身近なものである。
主に生活の中で使用され、火を起こすためや物を加工するため、怪我を治すためなど様々な場所使用されている、それだけでなく狩りや戦いでも使用される。
魔法とは魔力を対価にイメージを具現化するものである。ただし個人が持つ適性、つまり何属性の魔力を持つかによって使用できる魔法がかわってくる。
例えば火属性の適性魔力を持つ者は火魔法を使用でき、水属性の魔力を持つ者は水魔法を使用することができるといった形だ。
魔力の属性は大きく分けて7つであり、1つは誰でも使用することができる無属性。残りの6つは火・水・風・土・光・闇であり、人はこの6つの属性の内1〜3つの属性魔力を持っていると言われている。
魔法を使用するにあたって特に大事なことが3つある。1つ目はイメージの強さ、2つ目がそのイメージを実現させるために必要な魔力量、3つ目が魔法を発動させる意思である。
多くの人は魔法を使う際に詠唱を行う。ただし、詠唱は必ず必要なものではなく、魔法を発動させる上での補助的役割を果たしているのである。では何故詠唱を使う人が多いのかというと詠唱を口にすることで発動させる魔法のイメージし易くさせ、また魔法の発動の意思を強固なものにすることができるため多くの人が魔法を使う際に詠唱を学ぶのである。あとは2つ目にある魔法を発動させるのに必要な魔力を練り上げる魔力操作を身につければ生活に必要な最低限の魔法が使用できるようになる。
こうしてある程度の魔法が使えるようになれば、生活で使われる魔道具を使えるようになる。魔道具は自分の魔力を注ぐことで使用できるので子供は10歳までに最低でも自分の属性魔法の発動と身体強化ができる無属性魔法が使えるようになれば村で生きていくには十分なのである。…普通の村ならね。
”土よ、立ちはだかりて我を守りし盾となれ、アースシールド”
”火よ、我が敵を焼き尽くす槍となりて敵を貫け、ファイアジャペリン”
子供の背丈ほどの土の壁が地面から生え、火の槍が的として用意されていた土壁を焦がす。
この村だと最低でもゴブリンを追い払う程度の魔法を10歳までに身につける必要があるだけでなく、自衛のための身体強化魔法を用いた武術を身につける必要があるのだ。武術は午後に教会の広場で村の自警団の若手が教えたくれる。ちなみに普通の村では子供達みんなに武術を教えていたりはしないらしい。この間来ていた巡礼の神父様はこの村の魔法の練習と武術の訓練を観て目を丸くしていた。
「……こうして人々は手を取り合い、協力することで強大な魔獣ゼルフィトを封じたのです。そうして協力し合った様々な種族の者たちが作り上げたのがこの国です。ですからあなた達もお互いの違いを受け入れ、手を取り合いお互いを助け合うのですよ。」
『は〜い!』
どうやらやっと長ったらしい話が終わったようだ。やれやれ毎度同じ話を聞かされると飽きてしまよな。つい外でやっている魔法の練習に目がいっちゃうよ。早く俺も魔法訓練したいなぁ。そしたらコソコソしないで魔法の練習ができるのに。
「ゼルフィトって怖いね〜。」
「大丈夫! またでたらみんなで倒せばいいんだよ!」
「倒せるかな〜?」
「俺の父ちゃんのが強いもん! それに俺だって剣持って戦うし!」
「あたしは魔法! すっごいの使えるようになるんだ〜!
「じゃあ練習しないとね!」
きゃっきゃと楽しげに子供達は口々に先ほどの物語について話している。
今日は俺たちの住むアウイン王国の成り立ちの物語だった。強大な魔物ゼルフィトを封じるために人間や獣人、エルフやドワーフといった種族が一つになって立ち向かい、そして魔物を封じた後にこの国を立ち上げたらしい。
だから他の国と違って差別意識やら何やらが薄いみたいだ。こういう国はあまりないのかもしれない。国教となっている宗教もこの国独自のものらしいしね。
俺たち3歳から5歳の子供達は年長の子供達が魔法の授業を受けている時間はシスターによるお話を聞く時間となっているのだ。布教目的の神話や国の歴史や教訓を伝える話といったものを教えてくれる。
「フィル君? ちゃんと聞いていましたか?」
「う、うん。」
「視線が外にいっていたようですが?」
「……。」
「は〜、…次からはちゃんと聞くんですよ?」
「は〜い。」
この教会のシスターであるハンナさんに注意されてしまった。ハンナさんは赤茶色の長い髪を紐で括りポニーテールにした17歳の女性(彼氏募集中)である。
ちっ、隣のジョージなんて寝てたのに何故俺だけ注意するんだ。
「や〜い、フィル〜! 怒られてやんの!」
「む…。」
ジョージが笑いながら俺を指差してくる。おい? お前だって寝てたよな?
ジョージは話を聞いているメンバーの中では年長の5歳で熊人族の獣人だ。もこもこのクマ耳と小ちゃな尻尾がとっても気になる。
「フィル? お話、大事よ?」
「…はい。」
リリィちゃんにまで叱られてしまった。黙って頷くしかないなこれは。ただ、ジョージが腹を抑えてゲラゲラ笑ってるのが気に食わないがな。ちくしょう、その耳モフモフっすぞ?
するとハンナさんがジョージに目を向けた。
「ジョージ? あなたも人のこと笑える立場なのかしら? あなたお話の最中に寝ていたでしょう? 私が気づいていないと思った?」
「え? いやあのそれは…。」
「ジョージ?」
「うっ、ごめんなさい!」
「まったく、年長者がしっかりしてくれないと小さい子たちが真似ちゃうでしょ?」
「は〜い。」
誤りはしたもののジョージの反省の色は薄いようだ。シュンとした様子をしているが耳がパタパタしてるからあまり反省してないことが丸わかりだ。反省していると耳をパタッと閉じるからね。本人は気づいてないようだけど。
「次からしっかりしなさいとヤーナさんに言いつけるわよ? いいわね?」
「え!? それはズルイよ?」
ハンナさんはそう捨て台詞を残して他の小さな子供達の面倒を見にいく。ジョージは耳をピンとさせ、驚愕の表情をしている。
ヤーナさんとはジョージの母親の恰幅のいいおばさんで、まぁあのおばさんにゲンコツでもされたらちょっとシャレにならないよね。そんなことを考えているとジョージが俺を睨み、文句を言ってくる。
「フィルの所為で怒られたじゃん!」
「いや、僕関係ある?」
「ある!」
「え〜?」
「フィル関係ないよ〜。ジョージ、ダメよ?」
「ゔ〜。」
は〜、面倒だな。何故涙目になってるか。俺関係なくね?
「ほら、ジョージもそろそろ魔法の訓練でしょ? 行かなくていいの?」
「あっ、いけね!」
はっとした顔でジョージは5歳児たちが集まっている輪の方に目を向ける。5歳からはお話のあとは魔力を感じる訓練の時間なのだ。俺はもう感じるどころか見えるから興味はないがね。
『ドン!!』
教会の外から一際大きな音がしてみんなが外を見る。すると8歳くらいの金髪の少年の前にある的として作られた土壁が粉々になっているのが見えた。あれ結構硬いらしいんだけどな。粉々になった土は黒く焦げており黒いの煙が上がっている。
「すっげ〜!」
「わ〜!」
「カッコイイ!」
「素敵!」
教会の外中関係なく子供達が歓声をあげる。
「すっげ〜っな! あれお前の兄ちゃんだろ?」
「うん。すごいよね。」
いやほんとキース兄さんが凄すぎて全然追いつける気がしないんだけど…。
「こら、ジョージ! 早く集まりなさい!」
「やっべ!」
キース兄さんの魔法に気をとられだべってしまったジョージを呼ぶ声がし、ジョージは急いで5歳児達の集まっているところへ走っていく。
「兄ちゃん、すごいね〜! リリィもあれやる! あれやりたい!」
「うん、危ないからやめとこうね〜。」
リリィちゃんは目をキラキラさせて兄がいる方を指差している。実は俺がこっそり魔法の練習をしているところをリリィちゃんに見られてしまったので、たまに一緒に魔法の練習をしているのだ。だからリリィちゃんも実は既に魔法が使えたりする。周りには絶対内緒にするように言っているがリリィちゃんがいつポロっと喋ってしまうかヒヤヒヤしている。
と、いうかだ周りが凄すぎて俺なんかまだまだなんだなぁと痛感していますよ、ほんとね。まぁ、生まれ変わっても俺は俺ということか…。地道にやっていくとしますかね。
今回も読んでいただきありがとうございました。
昨日には書き上げる予定だったのですが…なかなかうまくいきませんね。




