屋台巡り2
「キース君! あっちに美味しいスープを出すお店があるの! 私と一緒に行こう?」
「そのシチュー出してるのエマのお父さんでしょ? それよりあたしと向こうでビスケット食べましょう! はちみつたっぷりで甘いわよ! キース君甘いの好きでしょ? どう?」
「あ! そっちこそミィちゃんとこのおばさんが出してるお店じゃない! ずるいわよ!?」
……串焼き片手に皆んなで屋台を見回ろうとしたらキース兄さん目当ての女子達がやってきて、キース兄さん争奪戦が開幕されようとしていた。どんどんキース兄さんの歳に近い子達がやってきている。
「キース! あっちで輪投げあったぜ! 一緒に行かないか?」
「ドンガ焼きもあったよ! 食べに行こうよ!」
ふ〜む、異性にもてるだけでなく同性にも人気があるとは流石ですね。できる男は違うね!
キース兄さんは同世代の子供達の中で一番強いらしいしな。この村はどの子供も自衛のために小さいうちから武術を習う。その中でもずば抜けた槍のセンスを持っていると以前ハース父さんが自慢げに語っていた。
「ちょっと男子! 邪魔しないでよ!」
「そうよ! キース君はあたし達と遊ぶのよ!」
「なっ、何だよ!? 別にいいじゃないか、僕たちが誘ったて?」
「何よ! 文句あるの!?」
「なっ、ないです…。」
男子よっわ! え? 引き下がるの早くないですか? てかこの村の女の子達たくまし過ぎないか? おっさん連中もみんな奥さんの尻に敷かれている印象が強いよなぁ。
ということはいずれこの子達も……。ま、負けるな男の子!
しっかし流石キース兄さん、モテモテですな〜。まぁ、気持ちはわからないでもない。綺麗な銀髪のサラサラヘアーがどこか冷たい印象を与えるのだが温かみあるスカイグレーの瞳が人を惹きつける。おまけに性格良し、勤勉で努力家。
うん、非の打ち所がないとはこのことだね!
「みんな誘ってくれてありがとう! でもね、今日はフィルとリリィの祝福の日だから一緒に回りたいんだ。だからごめんね。」
キース兄さんが両手を合わせ申し訳なさそうに誘ってくれた子たちに断りを入れる。むむっ、キース兄さんに俺たちのためと言われるとなんだか嬉しいな。
「そう、それなら仕方ないわね…。」
「そうだよね。弟君たちの祝福の日だもの、キース君ならそう言うと私は思ってました!」
「キース君優しいね〜。」
「ね〜。」
「そう言えば今日は妹の祝福の日だったな。…僕も家族のとこ行こうかな。」
「あぁ、あたしんとこの悪ガキも…。まぁいっか〜。」
「ねぇ、ドンガ焼きどこで売ってるの?」
「え? ここをまっすぐいって右手側の屋台だよ。 正面に合う輪投げやさんを目印にするとわかりやすいよ。」
「くふふ、キース君…可愛いなぁ〜。」
「モリー…あんたまた…」
キース兄さんの友人達と別れ、串焼きを食べ終えた俺たちは屋台巡りを再開する。
俺を真ん中にしてキース兄さんとリリちゃんと手を繋ぎ歩いている。う〜む、真ん中じゃ屋台が見にくいな。
「ねぇ? 何で僕が真ん中なの?」
「フィルは目を離すとどっかいちゃうからね。」
「ね〜! フィルはすぐにいないいないしちゃうんだから! メ! だよ!」
どうしてこのポジショニングになったのか両サイドに問うと諭すような返答が帰ってきた。
心外です! 子供じゃあるまいしそんなことあるわけないじゃないか。こんな見た目でも前世の年齢足したら30超えちゃうんだぜ?
目線で訴えるも華麗にスルーされてしまった…。まぁいいそれより今は。
「ねぇ、僕ドンガ焼き食べたい!」
「あら、いいわね〜。お母さんも好きよドンガ焼き。」
「リリィも好き〜!」
「どこにあるのかしらね?」
「あっちにあるって言ってたよ!」
任せてください、情報収集はばっちしですよ。ちなみにドンガ焼きっていうのは肉と野菜を薄く焼いたそば粉の生地で包んだものだ。西洋のガレットに近い料理だが注目するのはそこではない。注目すべきはそのソースであるドンガソースだ。見た目はトマトケチャップのようなペースト状のものだが色が青い、味は甘辛くて日本人が好きそうな味だ。ドンガの実と呼ばれる果実を煮込んで調味料で味を整えたものらしいがこの村ではドンガの実が取れないため、商人が運んでくるソースを買うしか入手方法がないのだ。元々はドンガ焼きが有名になったことにより広まったソースだが今では様々な料理に使われるアウイン王国が誇る調味料だ。
こういう前世にはない調味料とかとっても心惹かれるよね。料理に使ってみたいし、いずれは自分好みの味付けで作ってみたいソースだ。
皆んなでドンガ焼きを売っている屋台へ行くとドンガ焼き特有のいい匂いがしてくる。く〜この何とも言えないフルーティーな香りが食欲をそそるんだよなぁ。リリィちゃんもキース兄さんも目をキラキラさせている。
「美味しい!」
「うん、美味しいね。」
「おいひぃ!」
買ってもらったドンガ焼きを齧り付いて食べると思わず美味しいと言ってしまった。シャキシャキの野菜と何の肉かは知らないが牛肉のようなジューシーなお肉の旨味をドンガソースの甘辛い味が引き立てていて素晴らしい。
リリィちゃんは豪快にキース兄さんは口を汚さないように少しずつ食べている。うん、リリィちゃんの口元についたソースの汚れが気になるな。だって青だもん。青なんだよ?
「リリィちゃん、ちょっと口元ふくよ。」
「ん。」
俺はそう言ってハンカチでリリィちゃんの口元を拭ってあげた。
「あらあら、ありがとうフィル君。…ほらリリィもお礼を言いなさい。」
「フィル! ありがと!」
「うん。」
「ふふっ、フィルは優しいね。」
するとレナさんとリリィにお礼を言われ、キース兄さんには慈愛の目で見られてしまった。やめて、照れてしまうじゃないか。俺はただ口元の青色のソースが気になっただけなんだ。
♢
ドンガ焼きを食べた後も色々な屋台を見て買って食べて回った。お菓子はあまりないがドライフルーツが入ったビスケットとか美味しかったな。雑貨屋とかもあったが色気より食い気って感じで今回はスルーした。
「ママ、抱っこ〜。」
家への帰り道、疲れたリリィちゃんがレナさんに抱っこをせがんでいる。気持ちはわかる。3歳児の体力はそうないからね。
「はいはい、疲れちゃった?」
「うん、足痛い。」
「ふふっ、でも楽しかったでしょ?」
「うん! 楽しかった〜!」
レナさんがリリィちゃんを抱き上げ、会話をしている。微笑ましい光景だ。
ただ一点きになるのはリリィちゃんがレナさんの豊満なバストに顔を埋め、その感触を楽しんでいることだ。…う、羨ましい!
「フィルも疲れちゃった?」
「うん。」
レナさんがリリィちゃんを抱っこしている姿を見ていので、エミリー母さんに疲れているのだと思われたようだ。まぁ実際のところ疲れていたわけだし問題はないのだが、ちょっとやましい思いがあったのでドッキっとしたのは内緒だ。
「ほら、こっち来なさい。フィルも抱っこしてあげるわ。」
「は〜い。」
そして俺はレナ母さんに抱っこされて家に帰った。
ふむ、まあこんなものか。何がとは言わないがこのぐらいも悪くないね。
読んでいただきありがとうございました。
おかげさまで週別ユニーク100超えました。
継続していけるよう頑張ります。




