屋台巡り1
ふむ? 混ざり者とな?
ん〜、なんか面倒そうな話が聞こえてしまったなぁ。
こういうこともあるんだね。
俺はエルフ一家の出ていった教会の出入り口から視線を戻し、リリィちゃんの顔をまじまじと見る。
サラサラの金髪を肩まで伸ばし、髪の隙間からピョコッと飛び出た尖った長めの耳に透き通った白い肌、ルビーのように赤く美しい瞳、プニプニの頬っぺた。
祝福の日ということで新調したレナさんお手製の黒のワンピースと赤いリボンを髪につけおめかしをしている。
うん! とっても可愛いね! 流石はうちのお姫様だ! 着こなしバッチリ!
あれ? 何を考えてたんだっけ?
ああ、エルフとの違いについてだっけか…。
よく見るとさっきのエルフの家族の子供である男の子より心なしか耳が短いような気がする…かな。混ざり者っていうからには人間とのハーフとかそういうのなんだろうか?
でもエルフとの明確な差なんて言ったらリリィちゃんと比べるよりレナさんと比べた方がわかりやすい気がする。
何たってあの圧倒的なる胸囲! まさしくエルフの女性にとっての脅威と言っても過言ではないだろう。村に住むエルフの男達が揃って見惚れるぐらいだしなぁ。…わかるよその気持ち。だって男の子だもん!
いやさ、レナさん以外のエルフも皆んな目の覚めるような美人だけど…どこがとは言えないが皆んなスレンダーだよね。どこがとは言えないけど。
「う〜? フィル? 」
「んーん、何でもない。」
どうかしたの? というような目線でリリィちゃんに覗き込まれたので俺は首を振って答えた。
どうやら今の会話が聴こえたのは俺だけのようだな。
♢
しばらく待っているとレナさんとハース父さんがやって来た。どうやら話が終わったようだ。
「ごめんなさいね。待たせてしまって。」
「うぅ〜、ママおしょいよ〜。」
戻って来たレナさんにリリィちゃんが涙目で空腹を訴える。
流石に俺もお腹減ったよ。こんないい香りを嗅がされた状態で待機とか何の拷問だ。
「あらあら、ごめんねリリィ。お腹すいちゃった?」
「うん。」
レナさんはしゃがんでリリィちゃんに目線を合わせて聞くとリリィは頷いた。さっきまで変なことを考えてたせいか膝を抱えてしゃがむことで強調される胸の谷間に目線が吸い寄せられてしまう。イカンイカン! 俺は鋼の意志をもって目線を外す。
「レナ、私たちも今日のお昼ご飯は屋台で済ませちゃいましょうよ。うちの子達ももう耐えられないみたいだし。ね?」
エミリー母さんがレナさんに声をかけた。
キース兄さんも外の屋台の香りでそわそわしている。
「ふふっ、じゃあそうしましょうか。キース君、フィル君、待たせちゃってごんね。屋台に行きましょう。」
「「うん!」」
教会の出口に向かっている最中後ろの方でジェドさんとハース父さんのしている会話を俺はひっそり聞き耳を立て聞いていた。
「すまないね、ハース君。レナに付き添ってもらってしまって。」
「いえ、ああいう方の対応は私の方が慣れてますので。」
「それで…、リリィは今後どうなるか教えて欲しい。」
深刻そうな顔をしてジェドさんはハース父さんに尋ねる。
「ええ、ひとまずは今まで通りこの村で暮らしていていいとのことです。」
「本当かい!? それは良かった!」
ジェドさんは安堵し、喜んだ。
だがハースは神妙な顔をして事の続きを話す。
「ただ…いずれは王都の学校へ来るように取り計らうとのことです。」
「そうか…。やはりそれは避けられないだろうな。まぁ予想通りの展開ではあるね。」
「はい、しかしリリィちゃんが生まれたのがこの国でよかったですね。他の国ではこの歳でも親元から離される可能性もありますから。」
「あぁ、そうだね。初代の王妃様に感謝しなくてはならないね。」
初代王妃様…か。この国では有名な初代王妃をモチーフとした精霊使いの物語を思い出す。
あの話、実は引っかかるところが結構あるんだよなぁ。
「それにフィルも王都へ行くことになりそうですから。心配することはないですよ。」
「ふふっ、そうだな。しかし、やはりフィル君の話も出たか。」
ん? 俺も確定なのか?
まぁ? あの魔力の輝きを見ればそりゃあね〜。
ふっふっふ、流石俺だな!
「ええ、水属性の魔力の持ち主ですからね。」
え? そっち?
♢
教会を出るとまるでお祭りのような賑やかな声が聴こえて来る。
いや、むしろお祭りか。もともとが冒険者の集まりからできた村ということもあってみんなお祭りごとが大好きなようでここぞとばかり盛り上がっている。様々な料理の屋台が立ち並び芳しい香りが漂い、楽器で演奏しているらしくどこからか陽気な音楽が聴こえてる。
祝福の日は子供の成長を祝う、村全体のお祭りといっていいだろう。生まれた子が全員無事に育つわけではないのだ。この世界には魔法という非科学的な治療法はあるが魔法で完璧に治療できるわけではない。リナさんが薬師であるように薬での治療も行われているのだ。この村は食糧が豊富なため飢えで死ぬことはそうそうないが幼い子供が病気で命を落とすことはあるのが現状だ。正直なところ医学に関しては大して知識は持っていない俺だがせめてこの村の衛生環境くらいは整えていきたいと考えている。
「わ〜!」
リリィちゃんが目をキラキラと輝かせきょろきょろと屋台を見て楽しげな声を上がった。
「あれ! リリィね! あれ食べたい!」
「はいはい、リリィはお肉好きね〜。」
「うん! 好き〜!」
リリィちゃんが食べたいと言っているのはどうやらホーンラビットの串焼きのようだ。ホーンラビットという兎型の魔物の肉を串に刺して塩で味付けしているようだ。肉の焼ける香ばしい香りが食欲をそそる。
「キース、フィルもあれ食べる?」
「うん!」
「食べたい!」
エミリー母さんに聞かれ、キース兄さんと俺は返事をした。
食べたいとも! 炭火でじっくり焼かれて実に美味しそうだ。
色々な屋台があるのでまずは1人あたり1本の串焼きを買った。
「ん〜! おいひぃ!」
早速リリィちゃんが齧り付いている。焼きたてで熱いのかハフハフ言いながら食べているのが可愛らしい。
おっと俺も冷める前に食べなくては! こういうのは熱々のうちに齧り付くのがいいんだよね〜。
「あふあふ!」
あっち〜! けどうんまい! 鶏肉のような食感で噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる。味付けは塩だけでなくレモンのように酸味のある果実の絞り汁がかけられているようでさっぱりとした後味だ。
「うん、うまいな!」
「あぁ、実に酒に合う!」
大人達はいつの間にかに買ってきたエールを片手に串焼きを頬張っている。くっ、ずるいな!
異世界のお酒か〜、俺も早く飲んでみたいものだ。
読んでいただきありがとうございます。




