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風のまにまに 〜異世界ぶらり旅〜  作者: 東雲 紫雲
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転生のススメ

「あれ?」


 ふと気がつくと見慣れた自分の部屋だった。うたた寝でもしていたのだろうか? 頭がぼんやりしている。俺は自分の部屋の座椅子に座っていた。目の前にあるテーブルにはスマートフォンとお気に入りのマグカップが置いてある。マグカップにはコーヒーが入っていた。手に取って、少し啜ってみるとコーヒーは冷め切っていた。


 改めて自分の部屋を見渡してみると六畳一間の一室にはベッドとテーブル、本棚くらいしかない。あとはもう飾りとかしてしまった大学時代にやっていたギターが装飾品として立てかけられている。以前は休日になると弾いていたのだが今ではすっかりホコリをかぶってしまっている。

 見慣れた景観、確かにここは自分の部屋である。それは間違いないはずだ。おかしなところも何もない。でも何だろうか、どこか違和感が拭えない。いつもよりどこか味気ないというか、なんとなく色あせているというか。

 まぁ、もともと殺風景で何も面白みのない部屋なのだが…。


 いつもこうして座椅子に座ってコーヒーを飲みながらスマホを見たり、本を読んだりしている。なんてことのない俺の日常だ。拭えない違和感を振り払うようにスマートフォンを手に取った。ボタンを押して画面を表示させると普段見ないようなレイアウトの画面が表示された。

 スマホの画面に表示されている文章を読まずにさっとスクロールしたところ”同意”というボタンが最後にあった。なんの同意なのだろうか? 急いでスクロールし、トップ画面を確認してみるとそこにはこう記されていた。


『転生のススメ』


 そこに書かれた文字にますます頭が混乱する。ゲームか何かのタイトルだろうか? 転生と言われて思い浮かべるのはライトノベルのような空想の物語のことくらいだ。ではさっき下の画面にあった同意ボタンはなんの意味があるのだろうか? 気を取り直して下の文章を読んでみる。するとそこにはこのようなことが書かれていた。


『運命の理より外れた現象で君たちは命を落としてしまった。此度は特例として巻き込まれた者たちに転生の処置を実施する。転生場所は君たちの世界とは別の理を持った世界である。』


「命を…落とした?」


 そう呟いた瞬間、一気に記憶が蘇ってきた。


「…そうだ。俺は飛行機に乗っていたはずだ」


 そう、俺は飛行機に乗っていたはずだ。久々の有給をとって金土日とひとり旅に出かけ、美味いものを食べた。そしてひとり旅のメインイベントであるスーパームーン。スーパームーンを見るために俺が乗った飛行機が原因不明の制御不能になり、落ちてしまったのだ。いや? 本当に落ちたのだろうか? 少なくとも飛行機が墜落した際の記憶はない。

 あの慌ただしくただただ恐怖しかなかった時間を思い出し寒気に身を震わせた。


 とはいえ…


「綺麗な月だったな…」


 恐怖の中、飛行機で最後に見た月はそれでも美しかった。それだけは今でもしっかり思い出せるほどに目に焼き付いている。


 気を取り直してスマホの画面をスクロールしてトップ画面に戻り確認して見る。


「転生…ね」


 そう簡単には割り切れないがあの状況では助からなかったのだろう。それだけは理解できてしまった。だからと言って転生と言われてもピンとこない。

 そこにはこんなことが記されていた。


『君たちにはささやかながら特典を授けよう。君たちが選択したスキルをプレゼントする。スキルは100ポイントを各自に与えるのでポイントと引き換えに自分にあったスキルを取得したまえ。ただし一度スキルを選択すると訂正は不可能なので気を付けるように。制限時間は下記の”同意”を押してから30分だ。でそれでは良き旅路を。』


「え〜…言いたいことは色々あるし、聞きたいこともたくさんあるんだが…」


 流石にこれだけの説明で終わらすとは思わなかったなぁ。俺は空いているてで頭をガシガシとかいた。


「まぁこれを書いた相手とはコミュニケーションを図る方法がなさそうだしコミュニケーションを取る気もないのはなんとなくわかった。嘆いてても何も始まらない…な。それに異世界転生…ね。」


 ちょっといいなと思ってしまった自分がいる。…否定できない! てか”同意”ボタン押すしか選択肢がないとか…、せめて地球の輪廻の輪に戻すとかないの? いや、選ばんけどね。


「はぁ〜」


 なんか許容量を超えてもうため息しか出ないなぁ。うじうじ悩んでても仕方ない。こうなったら思い切ってやるしかないよな。


「同意っと」


 声とともにボタンを押すと画面が切り替わった。


 <オススメ>

 アイテムボックス(小) 10ポイント

 アイテムボックス(中) 15ポイント

 アイテムボックス(大) 20ポイント



 腕力補正 5ポイント

 脚力補正 5ポイント

 持久力補正 5ポイント

 瞬発力補正 5ポイント

 魔力量補正 10ポイント

 火魔法適正 10ポイント

 水魔法適正 10ポイント

 風魔法適正 10ポイント

 土魔法適正 10ポイント

 光魔法適正 20ポイント

 闇魔法適正 20ポイント

 ・

 ・

 ・


「魔法!」


 ずらっと並んでるスキルリストを見るとワクワクする単語が載っていたのでテンションが上がってしまった。だって魔法だぜ? アリポタの世界が今ここに!

 タイマーが画面の右上に表示されている。なるほど、これで時間は確認しろということか。



 **************************



 リストに載っているをザッと確認していく。ん〜、剣術とか槍術といった武器スキルがないな。それに鑑定といったこういう異世界転生の定番ってものない気がする。鑑定に類似するスキルは識別力補正くらいなものか?

 聖剣適正とか聖槍適正とかなんかすごそうなのもあるけど、必要ポイント50は高すぎるな…。誰がこんなのとるのだろうか? それにスキルの詳細がわからない。下手に名前だけで選ぶのはまずい気がする。

 スキル名の右側にあるフリック選択をNoからYesにするとスキルが取得できるのか。これは誤操作しないよう気を付けないとな。


 おっとイカンイカン! 30分なんてあっというまに過ぎてしまう!急いで選ばねば! まずはオススメに指定されているアイテムボックスだろう。

 てかオススメがあるのね。まぁ便利そうだよね見るからに。こういうところは親切なんだなぁ。


 アイテムボックス(小) 10ポイント

 アイテムボックス(中) 15ポイント

 アイテムボックス(大) 20ポイント


 ん〜、大は小を兼ねると言うし大を取りたいところだが…。

 なんかやな予感がするんだよなぁ。この嫌な感じは以前証券会社一押しの株を買おうとした時に似てる。

 あの時は今日じゃなくてもいいと保留したら次の日から株価が下落してた。そして俺は株にはもう手を出さないと誓った。

 ん、よし決めた! ここは中にしとこう。いつの間にかかいていた手汗を拭ってから勢いよく選択をフリックしてNoからYesにする。するとポップアップが出て残りスキルポイント(100→90)と表示される。


 !?

 あれ?中は15ポイントだったような…


「え! 待て待て!」


 画面を確認するとアイテムボックス(小)がYesになっている。


「Oh....」


 思わず頭を抱える。…しまった、やらかした。気を付けなきゃと思ってたのに!


「てか、取り消し不可って何だよ〜。それに行間狭すぎだろ…」

 気を取り直して画面を再度確認すると


 アイテムボックス(小) 取得済み

 追加機能

 魔力消費量軽減 5ポイント

 保温 5ポイント

 時間停止 10ポイント


「抱き合わせ商法か!? てか後出しはずるいだろ!」


 …何はともあれ、ポジィティブに考えるとしよう。ビークール、ポジティブシンキングだポジティブシンキング。アイテムボックスの追加機能の内容はどれも魅力的だ。他のスキルにポイント回せるしな。ん〜魔力消費軽減と時間停止は欲しいな。時間停止…ちょっとポイント高いな。保温にしとこうか…いやしかし、ここでケチるのは良くない気がする。


 今度は細心の注意を払って取得する。まさかアイテムボックスだけで25ポイント、合計100ポイントの1/4も持っていかれるとは…


 タイマーを見ると制限時間も残り15分、ここまでに時間を使いすぎた。残りを早く決めないと。


 スキルの取得候補をコピー用紙にシャーペンで書いて見る。


 脚力補正 5ポイント

 魔力量補正 10ポイント

 火属性適正 10ポイント

 風属性適正 10ポイント

 魔力制御 10ポイント

 魔力感知 5ポイント

 反射神経補正 5ポイント

 自然治癒力補正 15ポイント

 気配察知 5ポイント

 隠密 5ポイント

 視力補正 5ポイント

 聴力補正 5ポイント

 音感補正 5ポイント

 リズム感補正 5ポイント

 味覚補正 5ポイント

 識別補正 5ポイント


 多少趣味が混じっている感が否めない。異世界ファンタジーならもっといいのあるだろって思わなくもないが、説明にあった”自分にあった”スキルってのが気にかかってるんだよな。それにアイテムボックスの例もあるし、実際選択したら強化度合いとか出てきそう

 やばいな、時間も残り僅かだし、あとは直感で決めるか。


 **************************


[取得スキル]

 アイテムボックス(小) 10ポイント

 追加機能

 魔力消費量軽減 5ポイント

 時間停止 10ポイント

 脚力補正 5ポイント

 魔力量補正  10ポイント

 風属性適正 10ポイント

 魔力制御 10ポイント

 魔力感知 5ポイント

 気配察知 5ポイント

 隠密 5ポイント

 聴力補正 5ポイント

 音感補正 5ポイント

 リズム感補正 5ポイント

 味覚補正 5ポイント

 識別補正 5ポイント


 何とか制限時間の2分前にスキルを選び終えることができた。

 スキルを取得する際、アイテムボックスの時のような追加の選択肢は出てこなかったので想定より多くのスキルを取得することができた。この選択がどう転ぶかはわからないがひとまず一息入れることができる。


「果たしてどうなることやら…」


 スマホに表示されていたタイマーが0になると画面が切り替わった。


『これから君は君の思うがままに生きるといい。どう生きようが君の、君たちの自由だ。私たちは干渉したりしない。最後に私から特別に一人一つふさわしいであろうスキル授けよう。』


「ふさわしいスキル…ね」


『それではよき来世を』


 飛行機に乗っている時の浮遊感にも似た感覚の後、視界が暗転した。

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