祝福の日
お待たせしてすみません。
ここは山間にある小さな村、名をソレディアという。
多くの植物が青々と茂っており、木々は逞しく育っている。自然豊かで澄んだ水に澄んだ空気、多くの動物たちが住まう土地である。
それだけを聞けばなんていい土地なんだと思うだろうが現実はそう甘くない。
なぜなら魔の森とも称される”フォーラスの森”と面しているからである。
魔力に富んだこの森はその大きな魔力を持って雄大な自然を築き上げている。しかし、それと同時にその魔力が多くの魔物を引き寄せているのだ。フォーラスの森に生息する魔物達は周辺地域の魔物に比べ強大な力を持っていることで知られており、更には森の魔力に魅せられ、別の地からその森を目指してやってくる魔物がいるくらいである。
とてもではないが人が安寧として暮らしていける場所とは言えないだろう。
されどもこの地に生息する魔物の素材や貴重な薬草などを求めるものはあとを立たないのだ。
ソレディア村の起りはそんな冒険者たちがフォーラスの森へ入る前の拠点として作った小さな空き地である。そこに人々が訪れる度に設備が拡充されていき、仮設のテントだけでなく小屋や竃ができ、しまいにはこの地を気に入った奇特な冒険者達が住み着き始めたことにより今に至るというわけだ。
そんなソレディア村は今日特別な賑わいを見せている。
それもそうだろう、なんといっても今日は3年に一度のイベントが行われる日なのだから。
そのイベントは村にある教会で行われるため、普段は主に子供たちの学び舎兼保育場として役割を果たしている教会の大広間は片付けられ、祭壇と参加者が座るための椅子が設置されている。
祭壇の設置らせれている壇上には巡礼できている神父と村に常駐している神父の二人と一人の補佐官、壇上の下には護衛の騎士が5名、そして設置されている椅子には複数の親子が座っている。その椅子の後ろには多くの村人たちが詰め寄せ、大賑わいとなっている。
また、協会の外には簡易な屋台が立ち並びお祭のような熱気を感じさせる。
今日は”祝福の日”と呼ばれる恒例の儀式が行われるのである。
”祝福の日”とはソレディア村が所属するアウイン王国が国を挙げて行なっている選別の儀式であり、村の子供達の魔力の素質を見るものである。
アウイン王国では全ての町や村でこの儀式を行うため、3年かけて全ての町や村で儀式を執り行うので年毎に儀式が行われる場所が変わるのである。結果として町や村では3年毎に実施されるイベンントとなっているのである。
それは未来ある子供達の成長を促すためでもあるがもう一つ大事な使命を持っているのだが今はそれは置いておこう。
なるべく早く自分の魔力属性を知ることが大切とされ1歳から3歳の子供が対象となっている。
教会の大広間に設置された壇上には机が一つ置かれており、机の上には木製の板が置いてある。その木製の板には魔術回路が彫り込まれている。また円になるように6つの石が、そしてその円の中央にも1つの石がはめ込まれている。
円状にはめ込まれた6つの石の色は赤・青・緑・茶・白・黒と異なる色をしており、赤は火属性・青は水属性・緑は風属性・茶は土属性・白は光属性・黒は闇属性を表している。これは木の板に彫られている魔術回路と円の中央にはめ込まれた透明な石を介して対象人物の持つ魔力の属性を測定する装置である。この装置は主に魔力属性を測定するものではあるが大まかに魔力量も測れるため、巡回用に使用されているが他にも魔力量を細かく測定する測定器や属性の適正値を細かく測定することができる測定器も存在するのだ。
「神の祝福は誰もに等しく注がれます。子供達が今日という日を迎えることができたことは非常に喜ばしいことです。子供たちの健やかな成長とこのソレディア村、ひいてはアウイン王国を背負って立つ人材となる将来を祝福しようではありませんか。………」
巡礼できている神父であるが祭壇の上での祝辞が朗々と語っている。
30代後半の少し細い目と涼しげな風貌と巡礼で様々な場所を訪れるだけありガッチリとした体格をしている。
その隣には白い髪を綺麗にまとめ、温和な雰囲気を漂わせた初老の村の神父と村の子供達の測定記録を残すための巡礼に着いてきている20代の補佐官がいる。
祝辞を終えた巡礼の神父の元へ村の神父が歩み寄りお礼を告げた。
「レオル神父、村の者たちへのお言葉ありがとうございました。」
「いえ、若輩者が長々と語ってしまいすみません。」
「いやいや、大変素晴らしい祝辞でしたよ。それではこれより私が儀式の進行を行わせていただきますので測定器のご準備をお願いします。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
レオル神父と呼ばれた巡礼の神父は測定器にはまった石を白く綺麗な布で丁寧に拭いた後、魔力回路に魔力を流し込み測定器を入念にチェックし始めた。代わりに村の神父が前に歩み出、村人たちに伝える。
「それではこれより儀式を執り行います。名前を呼ばれたものは返事をし、親とともに壇上に上がり、レオル神父の指示に従ってください。」
村の神父は胸元から今回の儀式の対象者の名前が書かれた紙を取り出した。
「さて、最初はノエル・グランデ!」
「はい!」
右手を大きく上げた元気な少女が返事をした。
村の神父の呼び声に返事をした少女とその両親が壇上に向かう。
「それでは手をこのクリスタルの上においてください。」
神父は測定器の中央にはまっている透明な石を指差した。
神父の指示を聞いた少女は父親に抱き抱えられ装置の中央にはめられている透明な石に手を置いた。娘を抱える父親のては緊張からか小刻みに震えている。
それを見た神父は一つ頷き、装置に手を置き魔力を流し込み唱えた。
『導きの光を』
すると中央の透明な石が小さな光を放った後、円状に設置られている6つの石のうち緑と茶色の石の2つがうっすらと光を放った。それを見た父親の顔が笑顔に変わる。会場からも「おお」っといった感心の声が上がる。
「ノエル・グランデ、風と土の神に愛されし子よ。健やかなる成長を祝福しよう。」
「「ありがとうがざいます!」」
両親が娘の頭を下げさせながら神父に礼を言い。元いた席に戻っていった。
少女は意味がわかっていないのか首を傾げている。
「お石がね? ピカって光ったよ?」
「うん、そうだね。」
家族が席に着いたのを確認した神父は次の名前を呼んだ。
「ラウヴェル・ハウト!」
「あい?」
「はい!」
まだ1歳になったばかりの息子の代わりに父親がしっかりと返事をした。その息子は現在は母親に抱えられている。
そしてそのまま壇上へ上がっていった。
♢
儀式は恙無く進められ、残すところあとふたりの子供となった。
そして村の神父が次の子供の名前を呼ぶ。
「では次、フィル・ブライト!」
「は〜い!」
「こら!返事は伸ばさないの!」
「はい!」
ダークブロンドの髪と紫色の目をどこか眠そうに細めた少年が返事をした。しかしすぐに隣に座る母親にたしなめられ返事をし直す。そして少年は母親とは反対側に座る同い年と見られる少女に小さく手を振った後、両親は祭壇に一緒に上がっていった。
祭壇に登った後測定器を見た少年の目はさっきまでの眠たげな目は何処へやら、目をキラキラと輝かせ興味津々に測定器を見つめている。その様子に測定を行う神父は軽く微笑んだ後告げた。
「それでは手を置いて。」
父親に抱えられた少年は嬉々として装置にはめられた透明な石の上に右手を乗せた。それを見届けた神父は先ほどまでと同じように装置に魔力を流し込み唱えた。
『導きの光を』
すると少年が手を乗せている透明な石が大きく輝き、そして円状に設置された石のうち青と緑の色をした石が輝き出した。その光は少年が手を放すまで続き、澄んだ光があたりを照らした。
「おぉ〜!」
少年はその石の輝きに目を輝かせながら感嘆声を上げた。神父も両親も村人たちも驚きの声を上げた。
「なんと!」「これはまたすごいな。」「当然ね!」「あのふたりの子供なだけはある。」「ぼけっとしてる割にやりおるわ…。」「意外ね〜。」「わ! わ!」「あらあら!」
周囲の興奮が中々冷めないのを見かねた補佐官が「おほん!」と大きな席をすると徐々に静かになっていった。
「フィル・ブライト、風と水の神に愛されし子よ。健やかなる成長を祝福しよう。」
「「「ありがとうがざいます!」」」
少年とその両親はレオル神父と村の神父にお礼を述べた後、席に戻った。
少年と隣に座る少女が顔を見合わせ笑いあった。最後の子供の名前が呼ばれる。
「次で最後ですね。それでは…リリィ・アクロイド!」
「はい!」
元気一杯の返事を少女がした。サラサラの金髪を肩まで伸ばし、真っ赤なルビーのような瞳をした美しい少女は返事をしたあと隣の少年の手をぎゅっと握り一つ微笑み、手を離した。そして母親に手を引かれながら壇上に上がった。
「それでは手を置いて。」
母親に抱えられ少女は手を恐る恐る透明な石の上に置いた。
母親が固唾を飲んで見守っている中、神父は唱えた。
『導きの光を』
すると少年と同様に透明な石が大きく輝き、そして赤と茶色の石が強く輝き、白の石もうっすらと輝きを放った。それだけではなく、赤い石からはゆらりと幻想的な炎が立ち上った。
「ふあ…!」
「この子は…」
祝福の日におけるのもう一つの重要な使命。それは精霊の加護を受けし者を見つけること。
これはアウイン王国の聖母とも呼ばれた初代国王の妃が精霊の加護を受けし者だったことから定められたと言われている。精霊の加護を受けた者を守るために。
この選別の儀式に使われている測定器にはめられている属性を表す6つの石は精霊が宿る特殊な石が使われているのだ。つまり、精霊の加護を受けし者がこの測定器で測定されると精霊たちが反応を示すのである。精霊を見ることができるものは稀なためこの測定が行われている。
「火の精霊の加護を受けし者です!」
説明回みたいな感じになってしまいました。




