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風のまにまに 〜異世界ぶらり旅〜  作者: 東雲 紫雲
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魔力熱

 息苦しさを覚え目が覚める。


(体が重い…)


 何か体に負荷がかかっていて少しの動作をするのも正直なところ億劫だ。


 でも何が起きているのか知りたくて瞼を開ける。


 視界に赤い光がチラつく。


 突然のことに頭の理解が進まない。


 家が燃えている。


 木製の柱に火がつきパチパチと音を立て燃え上がっている。


 火はだんだんと強くなり、天井を焦がす。


 部屋の外からは魔物らしき動物のような唸り声と人の悲鳴が聴こえる。


 聴こえてくる音に心臓が握りつぶされるような感覚を覚える。


 いつのまにこんなことになったのだろうか。


 部屋の中は赤く燃える火と立ち込める黒い煙で視界がおぼつかない。


(息苦しい…)


 煙が立ち込めているせいなのか胸を圧迫されるような感覚があるせいで息をするのが辛い。


 なんでこんなことになっているんだ。


 そうだ。家族は無事なのか?


 両親、キール兄さん、レナさん、ジェドさん、それに村の皆んなは…


『あぅ…、うぅ…』


 隣からリリィの弱々しい鳴き声が隣から聴こえる。


 煙の所為で声がかすれているようだ。


 重い体を必死で動かし声の方へ顔を向ける。


 リリィは苦しそうな顔をして目には涙を浮かべている。


 状況ははっきり言って最悪だろう。


(熱い…)


 火が先ほどより近づいてきているきがする。


 逃げ出したい。


 でもこの手と足では立ち上がることすらままならない。


 ハイハイでは扉すら開けることができない。


 それに床にも火が回っているためベッドから降りることすらできない。


 何よりこの隣にいる存在を放置していくことはできない。


 こんな状況でも隣にこの子がいるだけで心が落ち着く自分がいる。


 リリィがこちらに弱々しく手を伸ばす。


 俺もリリィに力を振り絞って震える手を伸ばす。


 部屋の外からは荒々しい声と騒々しい足音が聴こえる。


 だんだん足音が近づいてくる。


 扉が叩かれ、ギシギシ軋んでいる。


(…怖い)


 俺とリリィの手が合わさり握り合う。


 小さな手から確かな温もりと血の鼓動を感じる。


 生きている…


 自分もリリィもきっと家族の皆んなも。


 恐怖心に負けそうな心を奮い立たせる。


(…守らないと)


 リリィと手を繋いでいない方の手でシーツをぎゅっと掴む。


 思った以上の力が出ているきがする。


 そうだ! 俺には力があるはずだ!


 こんな時に神頼みなんて正直通じる気はしない。


 あんな一方的に力を与える存在が神とは思いたくもない。


 それでも! 可能性がゼロじゃないなら…抗ってやる!


 力をくれたんだろう?


 それが何かはわからなかったが役立てるなら今だろう?


 まだ半年、とはいえ半年だ。


 前世より密度が高く感じている。


(…許さない)


 この愛しき日常を奪おうとする存在を。


 たとえそれがなんであろうと。


 魔物? 盗賊? 相手が何であろうと知ったことか!!


 1度目はなす術もなく奪われた。


 2度目も同じく震えていろってか?


 そうはいかない!


 力を寄越せ。


 エミリー母さんの優しい温もり、心安らぐ子守唄。


 現状に抗う力を。


 ハース父さんの力強い手、慈しむように頭を撫でる感触。


 力を寄越せ。


 キース兄さんのわんぱくな笑顔、俺とリリィを懸命にあやす微笑ましい姿。


 理不尽を無にするだけの力を。


 レナさんの陽だまりのような笑顔、俺の中ではもう一人の母さんだと思っている。


 力を寄越せ。


 ジェドさんの温かな笑顔、なんとも言えない変顔……でも伝わる愛情。


 大事な人たちを守る力を。


 リリィちゃんの無垢な笑顔、溢れる行動力、大きな鳴き声、右手から感じる温もり、弱々しい力。


(何もしないで諦めるなんてもう俺には許されない!)


 神にだってすがってやる。


 なんだっていい。


 力をくれないならそれでもいい。


 例えなんの力もなくったってこの赤ん坊の体と力だけだとしても。


 簡単に諦めてなんかやらない。


 赤ん坊だからってなめるなよ?


 魔力をぶつけるくらいなら今でもできる。


 効果があるかはわからないが。


 例え弱々しい力であったとしても最後まで抗ってやる。


 見てろクソ野郎。


 扉の軋む音が強くなる。もうすぐ破られるだろう。


 リリィと繋いだ右手を離し、握りしめる。


 普段より力強く握れている気がする。


 今なら立ち上がることもできる気がしてきた。


 待ってろ雑魚が。


 俺から大切なもの奪おうとしてタダで済むと思うなよ?


 扉を睨みつける。


 何度も叩きつけられ大きく軋んだ扉がついにメシメシと音をたて破られる。


 それに対して俺は…





 ♢




 はっと寝苦しさを感じて目が覚めた。

 息が苦しい。

 無意識に右手を突き上げていた。

 部屋を見渡してみる明かりは消され暗い。

 扉から漏れる火の光がゆらゆらと揺れている。

 しかし、それはいつもと変わらぬ風景だ。


 なんだ夢か…。

 夢…か、夢…ね。

 俺は”はぁ…”と一息ついて安心した。

 所在無く上げた右腕をそっと下げる。

 ちょっと恥ずかしいです。


 魔物という得体の知れないものに心のどこかで恐怖していたのかも知れない。

 両親は本当に大丈夫だろうか。

 今もどこか体が重い。

 何故だろうどこか懐かしさを感じる圧迫感だ。

 風邪でも引いてしまったのだろうか。


 それにしても夢とはいえどこか現実を突きつけられたような感じがする。

 俺の今の行動範囲は狭い、自分では部屋の中の移動しかできない。

 エミリー母さんやレナさんといった人たちが連れ出してくれるところも村の中、それも限られたエリアだ。

 知り合いの家や川辺といったところが精々。あぁ早く歩けるようになりたい。


 そして…何より本当の力を手に入れなければならない。

 この体で半年しか過ごしていなくてもわかる。この世界は甘くはない。

 転生だなんだと浮かれている場合ではない。技術を身につけ、力を身につけ、生きていかなければならないのだ。

 選択したスキルがどこまで反映されるかわからない。

 未だにステータスを見ることすらできないし、本当に今世に反映されているのかわからない。

 でも確かに魔力は存在して、それを感知し操作することができる自分がいる。

 今できることを着実に伸ばしていかなくてはならない。

 神頼みなんて正直気に食わないが俺たちを転生させた存在が最後に寄こした俺にあったスキルというのに期待をしている。

 願わくば俺の大切なものを守れる力であってほしい。



(………)


 それにしても憂鬱な気分だ。

 そろそろ現実逃避は辞めてレナさんに知らせなくては…。


 気が重いな〜。え? 何がって? いやいや聞かなくてもわかるでしょ?

 ちょっとぐっしょり濡れた部分がね…。

 まだ心と体が馴染んでないんですよ。

 怖い思いしたり、力んだりするとつい…ね。

 みんなも覚えがあるでしょ? でしょう?

 それにそもそも今の体じゃ最初からどうにもできないことだしさ。

 わかってるんだ!それでも…俺は…!


「あぅ…、うぅ…」


 隣から弱々しい声が聴こえる。

 リリィちゃんも風邪を引いちゃったのだろうか。

 一人芝居をして悶えていたのが恥ずかしい…見てないよね?

 体をリリィちゃんの方に向け様子を伺うと顔を少し赤くして辛そうに歪めているリリィちゃんがいた。


 変なことを考えている場合じゃない。

 明らかに体調が悪そうだ。

 そして何よりリリィちゃんから漏れ出る光が眩しい。


 ん? 眩しい…だと?

 おかしいな最近魔力の制御はバッチリになり普段は見えなくなるくらいに制御できていたはずだ。

 風邪を引いたせいで制御が緩んだのかとも思ったがそうではないようだ。

 自分の体内に巡る魔力に意識を向け調べた感じだと問題はない。いつもと同じくらいの制御ができている。


 だというのに何故? 考えを巡らそうとしてすぐに気づいた。

 さっきから感じるこの息苦しさ。どこか懐かしさすら感じる圧力?


 魔力を制御し、より詳しくリリィちゃんの状態を観察する。

 先ほどより魔力を見れる状態にした視界は光の眩しさを強く感じる。

 明らかに…明らかにいつもより大きな魔力がリリィから溢れ出している。

 それはいつものようにリリィちゃんから垂れ流されている魔力の量とは比べるまでもない。

 例えるならばいつもはゆるりと流れる川の水。足を入れると確かな流れる感触を感じる。

 それが今は大雨の後の氾濫した川の水のような状態。とても近寄りがたい水量が轟々と流れている。

 魔力に慣れ抵抗する力を身につけた今だから昔に感じた程度の圧力に感じるが、この状態は明らかにおかしいだろう。


 リリィちゃんはさっきより苦しそうな顔をしている。

 考えている暇はない。


 俺は大きな声で泣いた。

 レナさんに知らせるために。

 今俺ができる精一杯の声を上げ泣いた。

 知らせることしかできないもどかしさを感じながら。


勢いで書いた部分があるので後ほど訂正するかもしれません。

次話を投稿してから見直します。

次話は今月中に投稿させていただきます。


拙い文章ですがお付き合いいただきありがとうございました。

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