団欒
「いない…いない…ばぁ!!」
「きゃ!きゃ!」
「おう〜!」
俺は驚きの声を上げる。
シュールだ…シュールすぎる。
イケメンエルフが変顔しとる…。やめて! イメージが崩壊するわ!
このイケメンエルフはジェドさんといってレナさんの父親、つまりリリィちゃんのおじいちゃんである。
髪と目の色はリリィさんと同じ、金髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。髪型はオールバックで、肩ぐらいの長さまである。歳の頃は30代くらいに見え、レナさんと同じく端正だけど柔らかい印象を受ける。
柔らかい印象を受ける原因は目の形かな?二重まぶたで目が大きい。そういえばレナさんとリリィちゃんも二重まぶただ。でもそれだけではなく纏っている雰囲気がどこか穏やかで暖かな印象を抱かせるのだ。…普段は。
「べろべろばあ!」
「きゃう!あい!」
「…あう〜。」
リリィちゃんはジェドさんの変顔がたいそうお気に入りで、ジェドさんが表情を変えるたびに腕を大きく振りながら嬉しそうな声を上げる。
まぁ、ジェドさんも孫が可愛くて仕方がないのだろう。俺もリリィちゃんが娘だったら同じようになってただろうしな。
気持ちはわかる、よ〜くわかる。とはいえ、物語に出てくるようなイケメンエルフのデレっとした顔を見ると何ともいえない感情が湧き出てくるのは仕方ないのではないだろうか。
そんな感情が表情に出てしまっていたのか俺を見たジェドさんは腕を組んで少し困った顔をした。
「ん〜、フィルはお気に召さないようだな。リリィは喜んでくれるんだがなぁ。」
すみません、普通の子は喜ぶと思いますよ。ただ俺の場合先入観が…ね。
「よしっ。」
そんな声を上げたジェドさんが再度俺を笑わそうと変顔にチャレンジしようとする。
「ジェドさ〜ん、ハースたちを呼んできてくれる? そろそろ夕食にしましょう。」
ちょうどその時、台所からエミリー母さんから声が掛かる。
ふ〜助かった。ありがとう母さん。笑うに笑えない状況っていうのはなかなか辛いんだよね。
「ああ、もうそんな時間かい? わかった、呼んでこよう。」
ジェドさんはそう返事をして、ハース父さんとキール兄さんを呼ぶため家を出ていった。
そして代わりに台所から出てきたレナさんが俺たちに近づいてきた。
レナさんは俺とリリィちゃんの前で少し屈んで目線を合わせニコッと笑って言った。
「じゃあ、二人は先にお食事にしようね? 今準備するから少し待っててね?」
「きゃい!」
「あう!」
俺とリリィちゃんは仲良く返事した。
♢
「キール、リーキもしっかり食べなさい。そんなことじゃ大きくなれないぞ?」
今我が家は夕食の時間だ。
キールが苦手な野菜を避けて食べているのを見とがめたハースがキールに注意している。ちなみにリーキというのはネギみたいな野菜だ。
「う〜、でも美味しくないんだもん。それに噛むとジャリジャリしてて変な感じだし…。」
キール兄さんは木製のフォークに刺したリーキを涙目で見ながら唸っている。
あ〜、野菜とかで食感が苦手だから食べられないっていう人結構いるよね。トマトとかナスも食感が苦手で食べれないっていう人いたけど俺はむしろ食感が好きだったな〜。それに今は代わり映えのしない味の薄い離乳食しか食べていないので普通の野菜ですらご馳走に見えるぜ。羨ましい。
「ほ〜らキール? ちゃんと食べれるようにならないとおっきくなったフィルとリリィちゃんに笑われちゃうわよ?」
「うっ。」
エミリー母さんにそう言われるとキール兄さんは自分のフォークに刺さったリーキと俺とリリィちゃんのいる方を交互に見た後、リーキを憎々しげに睨みつけたのち”はむっ”と一思いに食べた。いやいやそうな顔をしているもののしっかりよく噛んで食べている。うむうむ、感心感心。
「あら、偉いわねキール君。キール君なら立派なお兄ちゃんになれるわ。」
「ああ、偉いなキールは。しっかり食べて大きくなりなさい。」
「うん!」
キール兄さんはレナさんとジェドさんに褒められ嬉しそうに返事をした。その様子を両親は微笑ましげに見つめている。
我が家の夕食は賑やかだ。
見てわかる通り俺の家族とリリィちゃんの家族は夜は一緒に食事をとるからだ。
それは単に隣の家だからということだけでなく、エミリー母さんとレナさん仲が非常に良ろしいことからきている。それに魔法があるとはいえこの時代の炊事は大変だ。二人で炊事した方が効率も良いのだろう。
家族の食事を観察するに朝はそれぞれの家で取る。食事の内容は軽めでパンとスープ、それとたまに果物が出るといったところだ。
昼は各自バラバラにとることが多い、昼ご飯はパンだけのことが多いようだ。
そして夕食は炊事場の広い我が家で取るのが常だ。食卓にはパンとスープに肉などを使ったおかずが2、3品目は並んでいる。
食事の内容はすごく気になるが今はまだ食べれない。食生活は思ったより悪くなさそうなので食べれるようになるのが楽しみだ。食事は大切だよね。美味しい食事は人を幸せにする。これは俺の持論だ。
夕食を取りながら今日1日村であったとやキール兄さんが教会で学んだこと今年の収穫の状況など話題は豊富だ。食事をしながら皆にこやかに会話している。これが我が家のいつもの夕食の風景だ。うん、微笑ましいね。ここに生まれてよかったと思えるよ。
♢
夕食が終わり、今は食後のティータイムだ。
キールはフィルとリリィの二人の面倒を見ている。
大人たちはお茶を飲みながら今日ジェナから聞いたことについて話している。
「全く、ジェナさんったら全然教えてくれなかったんだから!フィル君に何かあってからじゃ遅いっていうのに…。」
「全くだ。あの女ときたら、そういうことはしっかりしないといかんといつも言ってるのだがな。」
レナが心配そうにそしてジェドはやや憤慨したように言った。
「はは、ジェナさんらしいわね。」
「そうだな。」
それに対しエミリーとハースは苦笑いしながら言った。
それを見たレナは二人に注意するように言った。
「もう二人とも? 笑い事じゃないのよ? フィル君が危なかったのかもしれないのよ?」
「まぁ、フィルもうちの子だ。丈夫にできてるし、問題ないならいいんじゃないか?」
「そうね、うちの子だもの。それくらいじゃないとね。」
対してうちの両親は朗らかに笑っている。
二人の様子を見たレナはため息をついて言った。
「はぁ…、ジェナさんといいみんな危機感がなさ過ぎるわ。」
ジェドは少し考えるように腕を組み目を閉じたのち、目を開きハースとエミリーを見ながら切りだした。
「それにしても、精霊視もしくは魔力視か…。二人ともわかっているとは思うがどちらにしても注意していかないといけない力だ。」
その言葉にハースとエミリーは頷き答える。
「はい、わかっています。どちらも使い方を誤れば大変なことになる力です。」
「ええ、ですから私たちがしっかりと身を守る力を授けるわ。フィル自身のことはもちろん、リリィちゃんも守れるように。」
「それにキールも魔法の才能は目を見張るものがあります。二人を守れるよう鍛えていくつもりです。」
そう言ってハースとエミリーは目を合わせ頷いた。
「ごめんなさいね。リリィのこと。私がずっとついていられればいいのだけれど…。」
「ああ、エルフの血を引き継ぎながら火の精霊の加護を得てしまうとは…。この村だけならまだいいが精霊の加護持ちいともなればそうはいかないだろう。最低でも王都の学園には通わせなくてはならなくなるだろう。」
レナとジェドは申し訳なさそうに言った。
「何言ってるの! リリィちゃんは私たちの娘のようなものよ? 守るのは当然だわ!」
「ああ、そう心配しなくても大丈夫です。キールもフィルも俺の子です。俺たちがついていられない分は二人がいます。」
「ええ、私たちの子供だもの。心配はいらないわ!」
四人は視界を子供たちの方へ移す。その視線は期待と不安が入り混じっていた。
”ドンドン!”
とそこへ突然家の扉が強く叩かれた。




