診察2
”バンッ!”
家の扉が勢いよく開けられる。
「大丈夫!?二人とも!?」
焦った声のレナさんの声が部屋に響く。
俺はその声で我に帰り、声がした方を見ると心配そうなレナさんの顔が見えた。さらにその隣には興味深かそうな目でこちらを見ているジェナさんがいた。
レナさんは俺たちに向かって駆け寄ってきた後、俺たちの無事を確認し、安堵のため息を漏らした。
そして不思議そうに辺りを見渡し、再度俺たちを見つめる。
「は〜、よかった〜」
「あ、あう」
俺は気まずげに目をそらす。やっちまった。
幸い俺もリリィちゃんも怪我はない。炎は俺たちに危害を加えるでも部屋の調度品を燃やすわけでもなく、
先ほどの現象はなんだったのだろうか。爆発(?)なのかよく分からないが魔力で押し退けようとしたら俺の魔力と接触した光から一瞬とはいえ炎が立ち上ったのだ。火の魔法的な何かなのだろうか?
興味は尽きないのだが、今はそれより…気まずさが優っている。
いや〜、ね、何が気まずいって調子に乗って何やら危険なことをしてしまったこともそうなんだがさっきからお股のあたりが気持ち悪いのだ。し、仕方ないじゃないか!ちょっと、ちょ〜っと驚いてしまっただけとはいえこの体だ。そう制御が効かないのだよ。だからチビったってしゃ〜ないやろ?
(そうです。炎に驚いてピャッて言ったのは俺です。はいはい間違いありませんよ!)
「きゃう!た〜いた〜い!」
リリィちゃんの方を見るとキラキラしたお目目でこちらを見ながら、もう一度! もう一度! とせがむようにバシバシと床を叩いている。
え〜っと、この差は何でしょうかね? もしかしなくても、リリィさんあなた喜んでますか? 炎だよ炎、害はなかったようだけど結構近い距離だったよ? 精神年齢大人な俺でもいきなり近距離で火を見たらさすがにこわ…、驚くくらいのことだよ? なぜだろう、負けた気分だ。
ごめんよリリィちゃん、もう一度はさすがにできないよ。
決して怖いからじゃないよ? ほら、何事も安全第一じゃないとね。だって次に同じことやってリリィちゃんに怪我でもさせてしまったら大変でしょ? ね? 決して俺がびびってるわけじゃないんだからね?
俺は少し涙目になっているとレナさんに持ち上げられ、抱っこされた。
「よしよし、大丈夫? 怖かった?フィル君……あら?」
あ゛、あ゛〜、そりゃ気づきますよね!
し、仕方な(以下略)
♢
(しばらくお待ちください)
♢
ふ〜、スッキリした。
え? 何がって? 野暮だよ君! 聞いちゃダメだよそんなこと!
レナさんが「スッキリしたね〜」って俺の顔見て言うのが辛い、正直いつものことだけどなれません。
「それにしてもさっきの音は何だったのかしら?」
レナさんがそう言い、首を傾げる。
「レナ、どうやらさっきのは火の精霊の仕業みたいだね」
ジェナさんがリリィちゃんの周りをしげしげと見ながら言う。
あれ? ジェナさんも見えてるの? なんだやっぱり特別な力とかじゃないんだな。
ちょっとだけ残念な気持ちになる。やっと制御して見えるようになったんだがな〜。
「では、先ほどの音はリリィが原因で起きたと言うことですか?」
レナさんが不安そうにジェナさんに聞く。
…すみません、俺です。罪悪感で胸がズキズキ痛む。
「いや、恐らくはそっちの坊主が原因だろう? 何をしたのかわからないがね」
「え? フィル君ですか?」
ジェナさんは視線をリリィちゃんから俺に移し、興味深かそうに俺を覗き込みながらこう言った。
「この坊主はおそらく見えてるよ」
俺はその言葉にドキッとした。そして恐る恐るジェナさんを見ると、その目ははっきりと確信を持って言っているのがわかった。
それにジェナさんの周りには水色の光が無数に舞っているのが見える。さっきやらかしたばかりだからあまり近づかれると今度は水が吹き出たりしそうで嫌だ。そう、嫌なだけで怖いわけじゃないよ?
「精霊か、もしかしたら魔力が見えているのかもしれないね」
「そんな、まだ一歳にもなっていないのにそんなことありえるんですか?」
「まぁ、珍しいっちゃ珍しい…ね。だがないわけじゃないよ」
「それに精霊が見えるならまだしも魔力なんて…、話には見える人もいると聞いたことはありますがそれこそおとぎ話の賢者様や…それこそ白星竜のような存在だけだと…」
やべ〜、話が難しくなって今の俺の言語力じゃついていけない。まだ日常会話は何とかわかるけど専門用語は結びついてないんだ。ただなんか面倒くさそうな展開になっている気がビンビンする。ちょっとやめて二人とも! そんなに俺を見ないで!
「そう、その白星竜と呼ばれる竜は魔力の感知・行使において右に出るものはいないと呼ばれる存在だ。それこそ、人の魔術を使用できてしまうほどにね。人の使用した魔術を見るだけ真似して使用できるということはだ。構築した魔術式を読み取る、つまり目には見えないはずの魔力を見ているということだからね。
昔、ある国がその力に目を付け白星竜の卵を盗み、一匹の白星竜を育てたが確かに優れた魔力感知能力を持ってはいたが人の魔法を使用できるほどにはならなかったらしい。そこで種族だけでなく、環境も重要なのではないかと論議されたのさ。
白星竜の住処は一つ。光源洞窟、そこは光の精霊に祝福された場所、つまり濃密な魔力と精霊達が住まう場所だ」
そしてジェナさんは左の手のひらを上にあげ、首を振った後付け足すように言った。
「まぁ、そういった研究はされていたが結果が出なっかったみたいだからはっきりとしたことは言えないがね。
それにその国はもうないしね。星振るように現れた当時は白竜と呼ばれた白星竜の群によって滅ぼされてしまったからね。白星竜は普段は温厚だから、それ以来誰も手を出さないようになったと言われているわ」
「へぇ、そんな話があったのね。でもなぜフィル君が魔力を見れるかもしれないと思ったの?」
ジェナはレナの質問にニヤリと笑ったあとこう答えた。
「だってその坊主、火の精霊や水の精霊に時々目線を配ってるように見えるのに火の精霊が自分に対して敵意むき出しでいるってのにそんな状況で平然としてるんだから。相当鈍感なのか、もしくはそこまで見えていないのかのどちらかだろうと思ってね」
「なるほどね〜」
「まぁまだ可能性の域をでないがね。あんたの嬢ちゃんが垂れ流してる濃密な魔力と火の精霊の加護による寵愛。そして坊主の持っていた素質がうまく噛み合ったらそう言う可能性もあるってこったね。
にしてもこんな赤ん坊がこんな濃密な魔力に当てられずに済んでたんだから大したもんだと思ってはいたんだがここまでとはね〜」
レナはジェナの言葉に疑問を覚えた。
「え?ちょっとジェナさん、それどういうこと?」
「どういうことって何がだい?」
「赤ちゃんが魔力に当てられるって話…」
「ああ、それかい? そりゃ当たり前でしょうが。 普通生まれたばかりの赤ん坊は魔力に慣れてないんだから強い魔力は時に毒となる」
「!? じゃあ何で!?」
「そりゃ、その子が普通にしてたからさ。
生まれた後にあんたらの家に産後の経過を見に行ったら一緒のベットで普通に眠ってるんだから。こりゃもう大丈夫なんだなってね。まぁちょっと驚いたがあいつらの子なら問題ないだろうってね」
レナは左手を頬に添え、残念な子を見るような目でジェナを見た後言った。
「は〜、全くもう。ジェナさんとお父さんはそういうとこ似てるわよね。その大丈夫そうだから伝えなくていいいかって考え」
「む、あたしとあいつを一緒にするんじゃないよ!失礼な!」
そしてジェナさんが俺の方を見た後、だんだんと俺の方に向かって近寄ってきた。
退避〜! 総員撤退だ! 危うい気配を感じ、俺は慌てて全力のハイハイで逃げ出そうとする。
ところがジェナさんは俺を手馴れた様子で抱き上げ、目線を俺に合わせた。ちょっとお姉様、美しいお顔が近いですよ? でもそれより、それよりその目! そのギラギラした肉食獣のような目は何ですか!? 笑顔が怖いよ!
「ふふっ、あんたは面白くなりそうだね」
ならない! ならないよ!? だからやめて? そんな目で見ないで?
ジタバタして逃れたいけど体が震えて力がでない。
これは何だ? そうか、これが恐怖か。
…これは、俺がこの世界に生まれて初めて感じる恐怖だった。
「全く、ほどほどにしてくださいね!」
「う〜! たー! あぅ!」
いつのまにかにリリィを抱っこしたレナさんがジェナさんと俺の近くにきていた。
そして、リリィちゃんはジェナさんの周りにいる水色の光が珍しいのか必死に手を伸ばしている。
その様子を見たジェナさんは目を細め、ほうと息を漏らした。
そして再び俺の目を見たジェナさんの目はランランと輝いていた。それはもう先ほどの恐怖なんて目じゃないほどに。
「ふっ、あんたじゃなくて、あんた達・だったみたいだね」
そしてニッコリ笑った。その笑顔に俺は、俺は…
「ん、なんか臭いわね?」
「あらあら、もうジェナさんがフィル君を怖がらせるからよ?」
やめて! 俺のライフはもうゼロよ!
遅くなりました。
遅筆ですみません。
楽しんでいただけたら幸いです。




