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<83> 地獄の白神家の先祖に協力を求める

 地獄に来るのは久しぶりだ。カイトに言われて来たものの、ここはかなり苦痛を感じる。


 極寒、灼熱、悪臭、暗黒、時間感覚喪失、殺気、憎悪、孤独、様々な辛さが襲って来る。


 さっさと用事を済ませて戻りたい。


 キャサリンに無理してもらい、目的の人物のいる場所は知っている。キャサリンはしばらく休む必要がある。能力を使いすぎて衰弱しているからだ。


 俺もこの仕事を終えたら休ませて貰おうかな。


 ……わかってる。休んでいる暇はない。ちょっと思っただけだ。


 どのぐらいの時間が経過したか全くわからない。時間感覚を失っているからだ。キャサリンに教えられた順路を急ぐ。


 早くしないと手遅れになるかもしれない。


 その思いが、俺を動かしている。


 地獄の階層を下に行くと、悪臭がさらにひどくなった。より暗く、そこにいる人は人の形になっていない者が多い。ここに、目的の人物がいる。


 俺は、その人の名前を叫んだ。


禄朗ロクロウ!白神禄朗。お前の縁者が今大変なことになっている。お前を酷い目に合わせた黒川一族の末裔がお前の縁者を殺そうとしているんだ。お前はそれでいいのか?お前が呪った3兄弟が、怨みを晴らすために動き始めたんだぞ。禄朗出てこい!」


 しかし、反応が返ってこない。怨みを晴らすことで地獄での生活を受け入れたのにも関わらず、黒川一族の末裔が仕返しをしてくることを許せるはずがない。それは許されないはずだ。だから、奴は現れないとおかしい。


 俺は、それから何度も叫んだ。禄朗を呼んだ。どのぐらい時間が経過したかもわからない。とにかく現れることを信じていた。


 すると女の声が聞こえた。


『あなたは誰?』


 もちろん禄朗は女ではない。だから、別の人物だろう。しかし、禄朗と関係がある人物に違いない。


『俺は、白神家の子孫の白神響子と関係がある者だ。その子を助けるために来た。そのためには禄朗の力が必要だ。だから探しに来た』


『嘘ではないようですね。……わかりました。禄朗に伝えましょう』


 話が通じたようだ。俺は、その場で待った。時間の感覚がない世界なので、どのぐらい待っているかもわからないが、ともかく待った。すると、声が聞こえた。男の声だ。


『お前は、俺の縁者を知っているのか』


『ああ、白神響子の生まれ変わりでリサという名前だ。そいつが黒川三兄弟に殺されようとしている。お前が怨みを晴らすために犠牲になったやつらが、今、リサを殺そうとしている。俺は、それを止められるのはお前しかいないと思っている。力を貸してくれ』


 俺は、そう言ったあと、禄朗の姿を見た。


 体のあちこちが、溶けているように見える。霊力を復活させるには、一度地上に出る必要がある。ここは地獄だから、自力では出られない。だから、俺が手を貸せば地上に出ることができるはずだ。


『ここから出るのを協力するから、リサを助けてくれないか?』


『本当に出してくれるのか?正直なところ、もうここにいるのは嫌だ。出してくれるなら、なんでもしよう』


『それは願ってもないことだ。早速出よう』


『それと、さっきここに来た女がいたろう? そいつも一緒に出してくれないか?』


『いいとも。出してやる』


 そうして、俺は2人を地獄から出すことになった。女は、禄朗の妻だった人だそうだ。


 キャサリンが調べた白神家の怨みとは、以下の通りである。


 白神家は黒川家にお金を貸していた。そのお金を返してくれるということで妻が行ったら殺された。妻が帰って来ないのを不審に思い、禄朗が黒川家に行ったら禄朗も殺されてしまった。結局、お金を返すのが嫌になった黒川家の人たちに三人がかりで殺されたのだった。


 白神家の子供たちは、親を殺したのが黒川家の人たちだと思ったものの、悔しい思いをしながら対応ができずにいたそうだ。三人子供がいたが子供たちは十五歳と十三歳と十一歳だった。親の後を継ぎ、黒川家への怨みを晴らすべく何代にもわたりその話を子孫に伝えたのだった。


 復讐の機会は、七代目にして訪れた。多くの人に高利貸しをして怨みを買っている商人がいた。その商人がある白神家とも黒川家とも全く関係ない人物により殺害された。


 その事件の犯人を黒川家の三兄弟に押し付けたのである。さまざまな証拠を偽造して申告した。白神家と商人を殺害した犯人は協力して黒川家を陥れたのだ。その結果、三兄弟は死罪となった。


 その結果を見て満足した禄朗と奥さんは、地獄に堕ちた。


 事情を知らない三兄弟は白神家を怨んだ。しかも白神家の一人が商人を殺害したと誤解しているのだ。


 誤解した理由は、アル・カポネの部下による情報操作が原因だ。


 情報操作に対抗するには、さらなる情報操作が必要だ。だから、俺は白神家の先祖であり、怨みの連鎖の根本である人物の力を必要としている。


 地上に出ると、二人の姿はドロドロの状態から普通の人に戻った。若々しい男女の姿になっている。霊という存在は、たとえ百歳で死んでも二十歳の姿に若返るものだ。ただし地獄を除く。


 俺は、カイトのいるところに急いだ。今後の作戦を再確認するためである。時間があまりないのだ。太郎とリサが手遅れにならないうちに、次の手を打たなければならない。

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