<6> ジン(天使)の独り言
俺はジン。人間世界では少しは知られた存在ではあるが、天使だと分かってくれる人がいなくて困る。
まあ、実際のところ天使にも色々いて、俺みたいな天使も少なくないんだけど、ミカエルとかガブリエルなんかが、天使としては有名すぎて、あのイメージが天使らしいイメージとして定着している。
自分としては、ごく普通の天使だと思っている。
俺は天使という立場上、リサや太郎に言えないことが多い。
響子と俺は友達だった。響子は十二歳で死ぬ運命だった。だから、死んだのは仕方がない。ただ、死んだ理由が納得いかない。なにしろ殺されたのが死因になるところだったからだ。
本来なら、事故で死ぬか病気で死ぬことになると思っていた。まあ、病気で衰弱しながら死ぬよりは、事故で苦しまずに死んだほうがよかったかもしれないが、とにかく、生まれた時から寿命が決まっていた。これは、先祖の行いがよくなかったから、仕方がないことだ。それはよくわかってる。
でも、殺されたとなると話が違う。殺したその人にまた業の報いがあるからだ。それでは罪の清算としてはプラスマイナス0にならない。殺人の罪は重いからな。
だから、殺人にならないよう、転生できないか神様に相談したんだ。まあ、響子じゃなければそんなことをお願いしないけどな。
人生は一度きりって言うだろ。あれは本来本当のことだ。生まれ変わりなんて本当はなくて、死んだものの行く世界はあるんだ。でも、ちょっとした裏技で、稀に必要があって転生させることがある。響子の場合がそれだ。
いや、それでもほとんどの場合は、殺人が原因で転生なんてないんだよ。転生させたのは、響子が俺の友達だったからだ。天使の声が聞こえる人なんて殆どいないし、姿が見える人なんてまずいない。でも、響子は俺の姿が見えて、普通に会話ができたんだ。俺はうれしくなって、毎日響子と遊んだ。
もちろん響子以外に俺の姿が見えるものはいなかったし、声も聞こえないわけだから、響子と俺が話をしているところを他の人に見られるのはまずい。
そこで、誰もいないのを確認しながら響子と遊ぶしかなかった。だから響子には自分以外の友達はいなかった。誰の目にも響子は『いつも一人で行動する女の子』に見えただろう。
そんな中で、太郎は響子に好意を持っているのを感じてはいた。でも転生するまでは教えなかったけどね。教えて仲良くなっても十二歳までしか生きられないとわかってるんだ。教えられるわけがない。
さて、俺は響子に嘘をついていることが一つある。天使が嘘をつくことはある。人間だって必要に応じて嘘をつくだろう?
転生の説明で、太郎が俺に響子の転生をお願いしたことにしている。本当は俺が響子を転生させたくて太郎に頼んだんだ。太郎も記憶を無くしてるから、このことに関しては問題ないと思う。ただ、100ポイントを太郎の意志ではなく、俺の意志で使わせてしまったことは俺にとっては問題なんだ。
でも、太郎がいくら響子のことを好きだったからって、ただの転移ではなく、異世界転移能力を得る必要があったのか。そして、そのために記憶と自分の人生を一時的にでも犠牲にする必要があったのか。俺にはわからない。俺ならそんなことは絶対にしない。
十五年もの間、不幸続きなんて精神的に耐えられるはずがない。でも、太郎は耐えたんだよな。
さて、そろそろ話は終わりだ。今はリサに転生して寿命も普通に長くなっているから、リサには太郎の好意を伝えた。リサも太郎のことが好きになったらしい。今では太郎と幸せになって欲しいと心から望んでいる。まあ、あの二人なら大丈夫だろう。