<53> ジンとカイトの昔話
私は昔、エジプトでピラミッド作成に従事していた。ピラミッド作成がどれほど難しいかご存知であろうか。それこそ、現代の科学力をもってしても作成は困難なほどなのだ。
そんなピラミッドを作るのに、研究の中心となっていたのが私だ。実際のところ、ジンの協力なしにピラミッドが作れたとは思えない。私は、ジンの存在を天使だと知っていながら、妖魔だとか魔人だとか、とにかく天使と認めるような言動を一切しなかった。ジンのほうも、天使だと思ってもらうことを既に諦めている様子だった。
なぜ、天使であるジンに対して、天使だと認めてあげなかったか。それは、天使だと認めてしまうと、ジンと自分の関係が変わってしまうような気がしたからだ。でも、仕方がないと思う。ジンのことを天使だとわかったのは、私が五十歳を過ぎてからであり、若いうちはジンのことを幽霊か妖魔だと思っていたのだから。
だから、ジンの存在に対して、私は友達のように接していた。そしてジンも自分に対しては悪い感情は持っていなかったようだ。私たちは四千六百年前から今まで持ちつ持たれつの関係である。
「ジン、今度王様のお墓を作ることになった。石を切り出す技術と運ぶ技術が必要だ。ヒントをくれないだろうか」
『どうせ作るなら、未来の人たちが驚くようなのを作ったらどうだろう。カイト、王様が納得する程度のものを作るなんて、つまらないと思わないか』
「未来の人が驚くようなものか。ジン、それは協力してくれるってことか?」
『この時代の技術では絶対に作れない、未来の人たちも作成困難な、そんな精密かつ巨大なものを作るんだ』
それを聞いた私は、人生をかけて投入すべきものを見つけたと思った。とにかくジンに教えてもらった技術は、どれもすばらしいものだった。この当時は、ジンも人間の責任ということに対して、あまり問題視しなかった。ともかく、ジンが協力してくれれば、それは魔法のような技術をもたらしてくれた。
それから、さらに、未来の人々が驚くような仕掛けをたくさん作ることにした。黄金比や円周率など、現代でこそ知られている知識が込められた。ピラミッドの位置、重さ、方向など、すべて意味を持たせた。
そして、巨大かつ緻密な構造物は実現した。
昔は、天使が人間に関与することは珍しくなかった。関与しなくなったのは、二千年前のイエス・キリストの誕生以降である。その理由は、ジンは教えてくれない。人間が悟らないといけないらしい。
ひとつだけ、ヒントとして教えてくれたのは、そのとき人間は大きな失敗をしたのだそうだ。そのたとえの聖句がある。
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「家の主人がぶどう園を作り、垣を巡らし、その中に搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たちに貸して旅に出た。さて、収穫の時が近づいたとき、収穫を受け取るために、僕たちを農夫たちのところへ送った。
だが、農夫たちはこの僕たちを捕まえ、一人を袋だたきにし、一人を殺し、一人を石で打ち殺した。また、他の僕たちを前よりも多く送ったが、農夫たちは同じ目に遭わせた。
そこで最後に、
『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』
と言って、主人は自分の息子を送った。農夫たちは、その息子を見て話し合った。
『これは跡取りだ。さあ、殺して、彼の相続財産を我々のものにしよう。』
そして、息子を捕まえ、ぶどう園の外にほうり出して殺してしまった。
さて、ぶどう園の主人が帰って来たら、この農夫たちをどうするだろうか。」
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「わたしの息子」はイエス様である。また、「農夫たち」は、イエス様を殺せと言った群集たち、「主人」は神様だ。それぐらいはわかる。すると見えてくるのは、イエス様は殺されずに受け入れられれば、人類は大きな恵みを受けていた。大きな失敗とは、神の子を敬い受け入れなかったこと。
自分にわかるのはそこまでである。
つまり、イエス・キリストはキリスト教徒が信じているように殺されるために生まれたのではない。
当時の人々に受け入れられるために生まれた。しかし、それが失敗したのだ。でも、こんなことを言えば、キリスト教徒たちには異端視されるであろう。
私は、死後、来るべき未来のために、仲間を集めることにした。この世の悪と戦う準備を長い年月をかけて行うのだ。イエス様が生まれる前までは、ジンも協力してくれていた。イエス様が殺されるまでは、ジンは相談に乗ってくれた。
でも、イエス様が死んだら、ジンはなかなか協力してくれなくなった。協力したくてもできないのだそうだ。聖書を見ても、イエス様誕生以前はたくさん天使の存在を確認できる。
その意味は、私にはまだわからない。ただ、太郎とリサがこの状況を大きく変えてくれるような予感がするのだ。だから、私にとって彼らは特別な存在である。これからどうなるか、まったくわからないのだが。




