<43> オルガの生活
ようやく、新人だと思っていたあいつらにお客様対応を任せられるようになった。俺は、問題が発生した時だけ呼ぶように言ってあるが、ここは高級店なのでお客様から苦情を受けるようなこともない。
社員教育も、専門家を雇って行ったので今となっては俺よりも対応が上手だ。だから俺の仕事は殆どなくなった。それで、今度は外国への販売をより活発にするための宣伝を行うことにした。外国に販売すると、それが国の利益になる。ルカナンが前年に比べて明らかに豊かになった。鏡の販売に成功したので、その売り上げを店主である伯爵を通して王様に献上するが、王様はそれを国民のために還元してくれている。
道が広くなり、川の水を畑に効率よく運ぶための水路を作った。今までお金がなくて山積みになっていた国策が、次々と行われた。
王様の人気は急上昇である。
また、不正を働く貴族がいなくなったこともあり、その費用で軍事力を整えた。世界最強と言われたラゼルも今は軍隊にいる。なぜかラゼルはタロウには絶対逆らうなと仲間に忠告しているそうだ。それから裏の仕事は完全にやめているらしい。
そういえば、今はタロウはリサと恋人同士と聞いた。今更何をと思った。最初からそうだったろう? あの雰囲気は好きなもの同士ってばればれだったぞ。どうでもいいけど。
トントンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「ゲイリーです。オルガ店長はいらっしゃいますか?」
「入れ!」
なにか困ったことでもあったのだろうか。少し心配になった。
「失礼します。実は、鏡のうちの一つを割ってしまった従業員がいまして、それについて処罰をどうするか、取り決めをしておりませんでしたので、ご相談です」
そういえば、鏡って割れやすいんだった。忘れていた。
「割れてしまったものは仕方がない。処罰は不要だ。それより、割れた鏡を治せる魔法を使えるものを雇う」
「……? ……おっしゃることがよく理解できないんですが」
「実は、このことは遅かれ早かれ、解決しないといけない問題だったんだ」
俺は、タロウに言われていた事を忘れていたわけだが、思い出すきっかけとなり、むしろ助かったぐらいだった。だから、本来なら従業員ではなく、俺が処罰を受けなければならないところだ。処罰されるのは嫌なので言わないが。
「だから、これをきっかけに今後は修理も有料で受けつける。そんな商売を始めることにする」
「ようやくわかりました。これを商売にしてしまうとは、さすがオルガ店長。凄い。私もそこまでは考えておりませんでした。早速修理コーナーを作りましょう。
それから、修理担当者を募集したところ、男性二名と女性一名が希望した。修理をさせてみると女性の一人は実力が不足し魔法で割れた鏡が直せなかったが、他の二人は割れた鏡も復活させることができた。
今回は、三人とも採用した。
なぜ、鏡を直せない人まで採用したかというと、実力が不足しただけで、素質はあったので、ここで鍛えて魔法で直せるようになってもらうつもりだ。まだ若くて可愛かったからではない。
修理コーナーでは採用した三人のうち女性が受付をしてもらい、先に修理費を貰う。あとの二人は受け付けた鏡をその場で直して商品をお客様に渡す。という流れだ。
出張も行う。男性二人のうち、一名が出張費を貰った家に訪問し、鏡を直す。
修理を始めたところ、お客様の来店が絶えず、大忙しだった。結構割ってしまう人も多いんだね。高級品なのに。
商売繁盛しているところで、タロウとリサが久しぶりに俺に会いに来た。
「久しぶりだな……、いや悪い、店の倉庫には毎日来ているよな。会ってないのは俺の怠慢か」
「オルガは忙しいから仕方ないよ。……それにしても、修理コーナー繁盛してるね」
俺は、従業員が鏡を割ったことで、修理コーナーが必要だとタロウに言われていたことを思い出し、対応するに至ったが、従業員が誤って鏡を割らなかったらと考え、今度、その従業員に食事でもおごろうと思った。
「タロウのアドバイス通りにやったら、大成功だ。お客も喜んでいる人ばかりだ」
リサが受付の女の子を見て言った。
「あの子、あんなに忙しそうなのに、笑顔で対応していて凄いね。私にはあんなの無理」
「実は俺も、採用した時は他の従業員に反対されたんだ。魔法で鏡も直せないのに、どうして採用するんだって。……でも、素質はあると思って採用した。今は直せなくても、将来はと。
でも、むしろ今となっては、彼女が受付をしっかりやってくれるので助かっている。名前はユーリだ。彼女なしでは、修理コーナーは成り立たない」
照れながらも、俺はそう言った後、リサは俺に言ったのだった。
「オルガ……ユーリをデートに誘ったら?」
俺は、確かに独身だけど、あんな可愛い子と俺が?いや、ちょっと無理だろう。と思っていたところタロウが言った。
「たしかに……。ほら、俺ってリサと年齢としては15歳違いになるんだけど、ユーリとオルガもそのぐらいの年齢差だよね」
そう言われて、確かにそうだと思った。俺もそろそろ結婚とか考えないと時期的にもまずいし、以前と違ってお金もそれなりにあるから、考えていないわけではなかったが、……悪くないな。
「ありがとう。考えてみる」
なんでも、今日来たのはジンという天使が店に行くと面白いものが見られると教えてくれたからだそうだ。……面白いってなんだよ。全く。
でも、タロウとリサがそう言うのであれば、俺も頑張ってみようかな。少しずつ。
その後、まずは鏡を割った従業員(男性)を呼び、一緒に食事をした。鏡を割った従業員は処罰されるどころか食事を奢ってもらい感動していたようだ。いや、助かったの俺のほうなんだけどね。言えないけど。
その後、なぜか俺の評判が良くなった。
良くなるようなことをした覚えはないけどな。
それから、勇気を振り絞り、ユーリを食事に誘ったのだった。
ユーリは、俺が食事に誘ったことに驚いていたが、嫌そうではなかった。むしろ、かなり喜んでいた。というか舞い上がっている? 喜んでくれるのは嬉しい。
その後、たびたび食事に誘い、デートをし、付き合うようになった。
タロウとリサのおかげだ。……面白いものが見られると言ったジンにも感謝しないと。ジンがそう言わなかったらタロウもリサも来なかっただろうから、ジンは言い方が悪くて誤解されやすいが、今回の件はジンなりの配慮だ。そう思い誰もいない部屋で俺はジンに向けて言った。
「ジン……ありがとう。おかげでユーリと仲良くなれた」
俺の言ったことをジンが聞いているかどうか知らないが、何でもお見通しなジンのことだから、きっと気持ちは伝わるだろう。




