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<42> ファミルの初仕事

 ナンシーは凄い。私はナンシーと一緒に活動するようになったが、私の知らないことを何でも知っている。


 だから、私はナンシーに全面的に任せることにした。戦闘時だけは、私が中心になって活動することになっているが、ナンシーが私の体を使い戦闘訓練をしている様子を見たら、私の身体能力を上手に引き出して全く問題のない動きをしていた。


 だから、戦闘においてもナンシーで問題ないと思う。私が直接戦闘しないといけないとすれば、タロウの持っていた武器と同じレベルのもので二人同時に攻撃された時ぐらいだ。


「ナンシー、今日も全面的にお任せしていい?」


『いいけど、あなたはそれでいいの?』


 私は、むしろナンシーがそれでいいのか聞きたいぐらいだ。私の体だが、私が仕事をせずとも利益を得られるなら、楽な方がよい。


「うん。私はそれでいい。」


『わかった。では任されたわよ。』


 ナンシーと私はうまくやっていると思う。


 私は、給料というものを貰える立場となった。最初は月に百万円だったが、今は二百万円に上がった。ルカナンの一千万Gとだいたい同じらしい。それ以外に、現場で仕事をすれば特別ボーナスが出ると説明されている。仕事に応じて出るらしいのだが、私たちに割り振られる仕事は少なくとも五千万円は貰える仕事だそうだ。ルカナンの価値では、……ええっと。多すぎてよくわからない。まあいいや。


 それはともかく、私たちに初仕事が来た。テレビ出演を前に、どうしても私たちでないと難しい仕事だそうで、報酬は一億だそうだ。億ってなんだ?と思って聞いてみたら一億は五千万円が二回分? 五千万円でもよくわからないのに、もう意味がわからない。


 人物名はセキュリティ上の問題で明かせないが、ある東洋人のボディガードだそうだ。世界中から恨まれる存在であるため、その人物が自国を出ると狙われる恐れが極端に上がるという。


 滞在期間が三日間であるため、それに合わせて三日間ニューヨークで生活することになった。


 私がボディガードをしている相手は、自分から二十メートル離れたところにいる。そんなに離れていたら、いざという時に守れない。しかし、今はまだ危険な状況ではない。どこからも殺気を感じないからだ。


 一日目と二日目は、何もなかった。

 私とナンシーの常識では、危険なのは最終日である。


 なぜか。


 一つ目の理由は、普通の人は最初警戒していても、時間が経つにつれ警戒しなくなってくる。油断が生まれる。そこを攻撃するのは有効だ。


 二つ目の理由は、状況把握のため。どのぐらいの人数が警護に動員されているのか。また、どのような武器を持っているか。どこに誰が配置しているか。それらを把握するのに時間がかかるのだ。


 だから、私たちは終わりの時間が近づくにつれ、緊張の度合いを高める。


 私たち以外で警備を担当している者は、もうすぐ終わりだと思って油断を始めている。その様子が敵に知られると、攻撃される可能性が高まる。ようやく、殺気を感じ始めた。私たちは警備対象者に近づいた。私は、警護の責任者に敵に囲まれていることを伝えた。あとは、打ち合わせの通りに動いてくれるだろう。


 ここからは、いつ攻撃されてもおかしくはない。


 多方向から殺気を感じる。相手は……十一人いる。ナンシーは言った。


『まずいわね。……ライフルを持っている人が十一人いる。これは、私では対応できない。ファミル。あなた、この前の訓練でライフルの弾を防いだわよね』


「ライフルの弾はすごく速いけど、遠方から撃たれるなら余裕」


『私の身体能力では無理。ファミル、あなたにお任せするわね」


「……わかった。がんばる」


 私は、訓練によりライフルの弾を百メートルの距離からなら受け止めることができるようになった。

 特殊な素材の手袋で受け止めるのだ。この手袋がそうとう高価なものらしい。


 弾が飛んできた。後から音が聞こえる。音速を超えているので音が後から聞こえると教えられた。ライフルの弾は速すぎてナンシーには無理と言われるが、私だってギリギリだ。


 音が遅れて届くというのは不思議が感覚だ。私もこの世界に来て初めて経験したことだ。


 ライフルの弾を避けることすら、初めは難しかった。一時間ぐらい訓練したら、避けられるようになった。それから、三日間訓練を続けたら、弾を手で掴むことができるようになった。


 音が遅れてくるが、音を聞いて反応するのでは対応できない。全方向に集中し、届く光に反応し掴む。これは私にしか無理だ。


 私はタロウが以前来ていた防弾チョッキを着ている。だから後ろからくる弾は、撃たれるままにしている。自分の体で警護対象者を守る。横と前からくる弾は、警護対象者に当たる場合を除き、放置する。それが私にできる限界だ。


 全ての弾を受け止められるわけないだろう?


 警護をしている者が、ライフルで撃っている十一人を次々に捕まえた。彼らが打ち合わせ通りに動いてくれたのだ。しかし、ここからが本番だろう。十一人全員捕らえたところで、他の警護の者たちは安心し緊張が解けた。


 他の者たちはそれでいい。むしろ、敵を油断させるのにちょうどいい。


 私たちは、特殊な訓練を受けている。私たちが暗殺する立場なら、むしろこうして油断させて、警戒を解いた時に襲う。だから、十一人でライフルで襲うのは布石だ。


「ナンシー……」


『分かってる。交代だね、ファミル』


 私たちは入れ替わった。ここからは、ナンシーの独擅場だ。私には絶対敵わない領域。

 ナンシーの危機に対しての嗅覚を信じる。


 ここまで、味方だと思っていた警護を担当している者たちの中にこそ、危険因子が含まれている。または、ホテルの従業員や、偶然通りかかった少女。


 危険はどこに潜んでいるかわからない。


 結局、それから五人もの暗殺者を捕まえ、警護は無事終了した。全く、狙われ過ぎだろう。どれだけ怨まれているんだ。この警護対象者は。


 私たちは、警護を無事に終え日本に帰った。


 やはりこの世界は、ユーナスに比べ危険な世界だ。今でこそ避けられるが、以前の私ならライフルで撃たれただけで死んでいた。この普段着だと思っていた服もでたらめなほど高価なものだし、まったく……日本の物価はどうなっているんだ。


 私はナンシーに聞いた。


「ライフルより危ない武器ってどれくらいあるの?」


『武器というか、兵器ということになるけど、対個人ではなく、対集団ということであれば結構あるわよ』


 私は、集団攻撃用の兵器というものを想像した。最近よく見るアニメで巨大ロボットとかが広範囲を爆撃したり、アメリカの映画でボタン一つ押すとキノコ雲が上がり町が無くなるシーンとかあったなあと思い出した。


「……ナンシー、地球って危ない世界だね」


 と、恐怖を感じつつ私はしみじみと言ったのだった。

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