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<41> ラケルは魔法の研究に忙しい

 タロウが新しい魔法の詠唱化を行ったものだから、その研究の成果が称えられ、国から出る予算が少し増えた。今、タロウ以外でも無詠唱魔法が使えないか研究中だ。


 無詠唱で魔法を使うのは、体内の魔力の動きを感じて再現する必要がある。精神力が少ないと体内の魔力の動きを再現するほどのコントロールができない。


 だから精神力を高めればよい。でも精神力を向上させる方法は理不尽な不幸に見舞われた時に、その不幸を受け入れ乗り越えること。さらにアップさせるためには、その不幸に対して感謝すること。


 通常は、不幸み見舞われたら感謝などできないだろう。しかしタロウのステータスは感謝の領域まで不幸な出来事をタロウの中で昇華させた結果だ。タロウは、その不幸ゆえに手に入れたものがあり、それで感謝したから精神力が向上した。


 研究員の一人が今日は助手として手伝ってくれている。四十代の男性だ。


「ラケル先生、今日は私はいろいろと運が悪いことがあったので助手に選ばれたんですが、ステータスの変化はいかがでしょうか」


「……、精神力が下がっていますね。不幸を感じてどう思いました?」


「正直に言いまして、不満の思いがわいてきました」


「普通ですね。不満の思いが低下の原因で間違いないですね」


 今までの研究結果通りに不幸を受け入れられず、不平や不満を持てばステータスは下がり、怨みを持てばステータスはゼロに近づく。どうしてステータスに感謝や怨みの思いが反映するのかは、神のみぞ知るところであろう。


 幸いにも、私も精神力は高いほうだ。タロウの精神力の高さを見て、まだまだとは思ったが、最近は不幸があれば、それを乗り越えればステータスが向上するので、むしろ不幸に見舞われたい気分だ。これは、ステータスを見ることのできる私だから到達できた境地であり、ステータスが見えない者であれば、不幸はただの不幸でしかない。


 さて、ステータスが三百に到達した私は、体内の魔力の動きをコントロールしてみた。


 私は、自分の中の魔力の動きをコントロールすることに成功した。まだ、魔法を使うところまではできていないが、もう少しコントロールできれば、無詠唱で魔法が使えるようになる。


 私は嬉しくなってきた。こんな気分はどれぐらいぶりだろう。そう思った瞬間、私の中の魔力がコントロールしやすくなった気がした。


 自分のステータスを見ると精神力が一千を超えていた。


 もう一度、魔法を使ってみた。魔法は無詠唱なのに無事成功した。浄化魔法を使ったから、体がすっきりした。タロウに続いて、世界で二番目に無詠唱魔法が使えるようになったのだった。


「ラ……ラケル先生……今、魔法使いましたよね」


「ええ……無詠唱魔法が成功しました」


 私は考えた。


 感謝よりさらに高い喜びの境地が、ステータス向上につながった。……これは大発見である。


 私は報告書を以下のようにまとめた。


【精神力のステータスに関する実験と結果】


 精神力とは、不幸に対する自分の受け入れ態勢により変化する。

 不幸に対して、不満を持てばステータスが低くなり、受け入れて乗り越えればステータスが向上する。

 このことは、昔から言われていたことではあるが、いままではステータスが百を超えた人は存在が確認されなかった。


 ところが、タロウは精神力のステータスが9999を超えていた。

 彼は、不幸を受け入れ乗り越え、さらに不幸に意味を感じて感謝した。彼は十五年にも及ぶ日々が不幸の連続だった。だから、それを受け入れ乗り越えた時点で高いステータスを持っていたに違いない。


 タロウが異世界転移能力を持っているという話は有名だが、その能力を得るために十五年間不幸の連続だったそうだ。そして実際にその能力を得て、彼は不幸に対し感謝するに至った。

 十五年の歳月と、感謝がタロウのステータスの理由だとすれば、精神力が9999を超えるのも納得するだろう。


 私は、その研究を続け、精神力が一千を超えるに至った。実は三百程度だったのだが、もう少しで無無詠唱魔法が使えるようになるという喜びを感じた時に自分の変化を感じ、ステータスを調べると精神力が1003になっていたのだ。


 それだけの精神力があればと試してみたところ無詠唱魔法が可能となっていた。

 まだ数値化するところまで研究が進んではいないが、現時点での研究結果は以下の通りだ。


 怨み    極端に低下

 不満    微小低下

 受け入れる 微小上昇

 感謝    上昇

 喜び    極大上昇(感謝の三倍)


 不幸をどのように受け入れるかは、今後一人一人の課題となるだろう。こればかりは、自分の力で乗り越えるしかない。


 以上で報告を終わりとする。

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