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<33> 私はただの女の子・・・

 私、ファミルは、普通の女の子です。決して過去に暗殺などした記憶はありません。(……記憶にありませんって、便利ですね)


 以前に働いて貯めたお金で鏡を買った。これ高かったんだよね。その分自分の姿がよく見える。可愛い服を着て、今日はタロウの近くを歩く。すれ違ってタロウが私に気づかなければ、今日から安心して眠れる。とにかく眠れない日々が続いている。眠れないのは辛い。死んだほうがましと思えるぐらいの恐怖を感じ続けている。もう疲れた。タロウが私に気づかなければ、もう安心なのだ。だから、一度だけ会おう。


 できる限りのお洒落をして家を出た。寝不足の目に太陽の光がまぶしい。今日は快晴なので日焼けしないように日傘が必要だ。


 タロウは今日、長くこの世界にいるという情報を得ている。行けば会えるに違いない。会いたくはないが、会わないと安心できない。相反する思いに葛藤しつつ、タロウの気配のする方向に歩いた。するとタロウの姿が見えた。当然のようにリサも一緒であった。


 タロウとリサは、川の近くの木の陰に座って話をしていた。かなり小声で話をしている。私は、タロウの近くをゆっくり歩いた。気持ちを落ち着かせ、集中してタロウとリサの声を拾う。しかし声が小さくて聞き取れない。もう少し近づくと、突然二人の会話が聞こえた。普通の声で話し始めたのだ。


「まさか、僕を暗殺しようとしていた人が女の人だったなんてね。」


「私もそれにはびっくりしたわよ。ジンがあんなこと言わなければ、絶対男だと思っていた。」


 それを聞いて私は驚愕した。驚きのあまり「ひぃあぅ!」と変な声を出してしまった。


 タロウとリサが私を生暖かい目で見ている。変な声を出した私は動揺しまくって不審者そのものである。


「まさか、この子が。」


「いや、間違いないわ。私の勘がそう言っている。」


 もうだめだ。ばれた。殺される。とにかく謝ろう。


「ごめんなさい。許してください。殺さないで……お願いします……なんでもします」


「殺さないから大丈夫よ。あなたがこれ以上何かしない限り、私たちはあなたに何もしないわ」


「そうだよ。僕は自分を殺そうとした君に対応していただけで、君を殺すつもりはない」


 二人の様子を見ると、殺気を感じないので、私に何かするつもりはないのは本当のようだ。安心したら、涙がたくさん出た。私は声を出して泣き、その私の背中をさすりながら、「大丈夫、大丈夫」とリサは言ってくれた。


 しばらくして、ようやく落ち着いた私に、タロウは言った。


「もう、僕を殺す気がないのなら、仲間にならないか?できれば一緒に働いて欲しい。そうだえっと……給料なら出す」


 自分の耳を疑った。なぜそんなことを言うのか理解できない。仲間になる? タロウを殺そうとした私を? そんなの聞いたことがない。敵は敵であって仲間になどなれるはずがない。困惑した私を笑顔で見つめるタロウとリサ。


「もともと敵だった人が、仲間になるって僕たちの世界では普通すぎて、またこの展開かよ。もう飽きたよって言われるんだよね」


「そうねえ。よくあるパターンよね。私も何度も見て、もういいかなって思っているところもあるけど、今回はどうしてもお願いしたいんだよね」


 どうやら、タロウの世界では敵が仲間になるのは普通らしい。タロウの仲間になることを約束して、私はようやく安心することができたのだった。

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