<32> 事実と違う噂
僕がこの世界で最強よりも恐い最悪の暗殺者を倒した噂を聞いた。僕が逆に殺したことになっている。事実とほぼ逆だ。刀でも切れない服が僕の普段着であり、高速で粒が飛び出す武器が僕の世界ではありふれた誰でも持っている物だと。
完全に誤解だ。暗殺者が勘違いしたのだと思う。何も言わなかった敵が恐ろしかったが、女の子だとジンから聞いて改めて考えると、声を出さなかった理由は明白だ。男の姿に見えるよう変装していたことを考えると、女だと知られるのが嫌だったに違いない。
そう思うと声を出せなかっただけで、本当は相手にとってもこちらは脅威の存在だったと考えられる。なにしろ、敵だと認識するよりも先に攻撃を仕掛けたのはこちらだ。どっちが加害者かわからない。むしろ、こちらが先に攻撃し、相手は身を守るために戦ったのだから正当防衛ですらある。
逆の立場だったらどうか考えよう。
まだ何もしていないのに突然攻撃され、身を守るために反撃したら刀で切っても全く切れない。未知の武器で攻撃され続け、蹴りを入れても相手にはノーダメージ。
これだけで、普通はかなり恐怖を感じるのではないだろうか。
そして、切ることも打撃も通用しない相手には投げ技だが、投げてようやくダメージを与えたら今度は消えてしまった。僕の血が100CC以上出たのだろう。
突然消えた僕たちに相手は混乱するに違いない。それに相手はこちらの撃った弾を避けるほどの実力者だ。今まで失敗を経験したことなどないだろう。僕たちは入念に準備を整えた上で戦ったが、相手はそんな準備をしていると知る由もない。だから僕たちに恐怖を感じてもおかしくはない。
噂では、僕が身に着けている武器も服も、僕の世界ではありふれて誰でも常備しているものと言われている。つまり、そう誤解されたのだ。このことを利用できないだろうか。僕はリサに相談した。
「リサ、ちょっといいかな。」
「太郎、たぶん私も同じこと考えてたかも。」
僕「昨日の敵は今日の友。」
リサ「強敵と書いて友と読む。」
二人で顔を見合わせ、笑い出した。こんな時に役に立つのは、はったりだ。僕は昨日の敵を仲間にする黄金パターンをリアルに再現することを目標に考えた。そして日本に連れていき、テレビ出演してもらうのだ。言語の問題は僕の残っているポイントをその子にあげて、異世界言語能力を取得してもらおう。
相手は女性だから、これから彼女と呼ぶ。
彼女ならその番組の中で何の細工をしなくても余裕で優勝する。弾丸を余裕で避けられる人は地球には存在しないのだから。彼女が優勝する内容の番組に出場してもらう。そして、青木探偵事務所で働いてもらうのだ。
リサにそのことを話すと、リサも同じことを考えていたという。しかし、僕のポイントを彼女にあげる点に関しては、本当にいいの? と疑問に思っているようだ。僕はポイントを自分のために使うつもりはない。自分の能力は自分で獲得する主義だ。
ともかく話は決まった。一応決めたことを先にジンに相談する。ジンは、まあ、好きにすればとしか言ってくれない。ジンにとって、これは介入してはいけない領域の話なのかもしれない。天使の立場というのも色々と事情があって大変なのだろう。
僕は、また青木探偵事務所を訪れた。そして、ニックネーム青木さんに相談した。青木さんが驚くのを初めて見たかもしれない。異世界から強力な仲間をスカウトできる。それは願ってもないことだそうだ。弾丸を余裕で避けられる身体能力。並外れた剣技と体術が使える。そんな存在は喉から手が出るほど欲しい。
油断はしない。彼女が僕たちに攻撃をしてきたら逃げる準備も整った。そして、ルカナンのギルドにお金を払い、タロウは明後日長いことルカナンにいると噂を流してもらう。。
もちろん、彼女は来ないかもしれない。彼女から僕に近づいて来たところを、僕が看破する。人違いだったら恥ずかしいが、そのぐらいで誰も死ぬことはないから大丈夫。僕たちは彼女に会った時のためにできる限りの準備をする。ある程度準備が整ったところで、リサも僕もお互いに悪い顔をしていた。そちもそうとうな悪よのう……みたいなノリで。
もう、彼女に対する恐怖はなくなっていた。




