<27> リサの誕生日
今日はいよいよリサの誕生日だ。この日のために死なないよう入念に準備したので、安心してお祝いをしようと思う。実際に襲われるとしたら、今日なのだから。リサはお似合いの服を着ており、いつもの三十%増しの可愛さだ。服の下には特殊なナノファイバーで編まれた防弾チョッキを着こんでいるが、全然そんな風には見えない。
リサの母親も父親も僕を気に入ってくれた。それで安心して夜はゆっくり寝ることができた。だから気分はとても良い。まだ早朝だが、リサの両親は起きていたので二人に挨拶をした。父親の名前はカザン。母親の名前はリザだと、リサに教えてもらった。リサは母親の名前に似ているが、リサの顔も母親似かもしれない。
朝食作りをリサが手伝っている間に、リサの父親が描いた絵を見せてもらった。流石にプロの画家が描いただけあり、デッサン力が凄い。キャラクターが生き生きと描かれている。どう考えても僕より上手い。当たり前かもしれないが。
「昨日の今日でこんなに描けるなんてさすがです。この絵とか今にも動き出しそうな感じで、僕にはとても描けません」
「いやいや、私なんてまだまだだよ。昨日タロウに見せてもらった絵を見た時の感動を、まだ完全に表現できていないんだ。僕の中のイメージを表現しきれない限り、この絵を世に出せないと思っている。でも、タロウに見てもらいたいと思う程度には描けた。それで、色の塗り方なんだけど、この絵はあえて平面的に塗るイメージが正解な気がするんだけど、どうだろう。」
僕は、アニメイラストの彩色を思い出したが、実際にこの世界の絵を描く道具に慣れていないので、描いて見せることができない。僕は、ちょっと取りに行ってきますと言って。少し体液をオムツに出し日本に戻りプロの描いたカラーイラストの本を購入。また戻る。そしてリサの父親に見せた。
「こ……この彩色は私のイメージ通りだ。これだよこれ……。これを表現したかったんだ」
「気に入って頂けたようで、よかったです」
それから、カザンは本格的にカラーで絵を描き始めた。こんな短い時間でアニメ絵の極意をマスターしてしまうなんて、プロとはいえ信じられない。カザンには特殊な才能を感じた。カザンも忙しそうだし、リサのところに行こう。食事作りもそろそろ終わった頃だろう。
食卓には、おいしそうな食事が既に準備されていた。お父さんは?とリサに聞かれたので、今集中して絵を描いているところだと言ったら、それならお父さんは来れないわねとリサもリザも納得していた。それで僕たちは、朝食を食べた。とても美味しかったと言うと二人とも喜んでくれた。
そして、僕はリサにプレゼントをあげた。指輪である。
ブルーダイヤの指輪で、デザインはこの世界では表現できないであろう繊細で緻密かつ美しい出来である。リサに似合うことを最優先させた結果、このようなものが誕生した。それをリサにプレゼントしたのだ。リサの右手の薬指に指輪をつけてあげた。
「これ、凄く高かったんじゃ……いや太郎の金銭感覚がおかしいのはもうわかってるから金額には触れないわ。この色とか素敵。ありがとう。嬉しい」
「リサの価値を考えれば、まだまだ足りないかもしれないけど、喜んでもらえるかな」
「私の価値って、……そうね。ふふっ。価値か。ありがとう。……とっても嬉しい」
そういってリサは僕を見上げるように見て言った。満面の笑みだった。僕もその笑顔を見て満足した。気に入ってもらえて良かった。そして、午前中の時間はあっという間に過ぎ、カザンがようやくおなかがすいたと言って出てきた。既に昼食の時間である。カザンは、朝食の分まで補う勢いでたくさん食べた。
昼食後に、カザンの描いた絵を見せてもらった。カザンの描いた絵は、僕の世界のアニメ絵に勝るとも劣らない出来だった。いや、絶対に勝っている。だから僕は言った。
「この絵を世に出しましょう。きっと気に入ってもらえる人がいます」
「私もそう思っていたところだ。タロウの評価はうれしいね。早速明日画商に持って行ってみるよ」
そして、カザンと絵について語りあっているうちに、夕方になった。リサの誕生日なのにアニメ絵の話をしていてよかったのだろうか。暗くなる前に日本に転移する必要がある。安全第一である。リサの両親に今度いつ来れるのと聞かれ、近いうちにまた来ますと約束をして、リサの家を出た。
それから、十分程歩いたところで、誰かに見られているのを感じた。
「リサ、誰かがこちらを見ている気がするんだけど。」
「太郎、気のせいじゃなさそうね。」
リサと僕は頷いて、銃を手にしたのだった。




