<2> 過去の自分とリサ
リサが近づいてきて、僕の胸に頭をつけた。リサからいい香りがする。抱きしめたくなる思いをこらえて僕はリサに言った。
「あの、リサ? 僕は以前のことを覚えていないんだ。だから、知っていることを教えてもらっていいかな」
そう言うと、リサは少し驚いた表情をしたが、すぐに納得した表情に変わった。
「ジンからは、……そっか。聞いていないんだね。ジンが説明するのはちょっとまずいのかな? 私から説明できることはあまりないんだけど、わかっている範囲で教えるね」
「ありがとう。助かる。でもその前にズボン履くね。まだ濡れてるけど」
僕は、濡れたズボンを履いた。さすがに女の子を前にしてパンツ姿でいるのは恥ずかしい。ちなみに靴下と靴はまだ乾かしたままだ。
「十五年前、日本で天使のジンと私は小さいころからよく話をしたの。ある日、私が崖から落ちて死にそうになっていたところを知らせるためジンがたくさんの人に呼びかけて、それに応じてくれたのが太郎だった。ジンの声は普通の人には聞こえないんだけどね」
「そうなんだ。リサとジンは友達だったんだね」
「うん。実は、私は誰かに崖から落とされたの。誰が私を落としたのか、ジンは知っているようだったけど、私には教えてくれなかった。それはジンの立場からは教えることができないんだって。天使だからルール違反になるらしいの」
僕は心の中で激しく動揺した。好きだった人が殺されたなんて知ったら落ち着いてなんかいられない。全く予想していなかった展開だ。
「ジンがどうやってあなたにポイントを与えられたのか、全く経緯はわからないけど、そのうちの100Pは私の転生に使われた。転移は無理でも転生はできるよねってジンに言ったらしいわ。転生して三歳までの記憶はないの。赤ちゃんから始めて言葉を覚えたころ日本の記憶が戻ったから、優秀な子供として育ったわ。この世界では今、数学のような学科の先生をしてるの」
「十五歳で先生か。こちらの世界の数学はどのぐらい発展してるの? 」
「数字が文字だったし、掛け算の概念もなかったから、その概念を前世の知識を使ってこの世界に伝えたら、一躍この世界のトップになった程度よ」
「うわ、全然余裕で先生になれるな。僕でも。でも言葉の壁が。う~ん。リサ、こちらの言葉を教えてもらっていいかな」
リサは、なぜか最初に驚いた表情をして、それから笑顔で言った。
「いいわ。喜んで!」
次は、リサ視点でのお話になります。