<15> 無詠唱の魔法を覚える
事件を追っている件をリサにはまだ内緒にしている。別に内緒にするつもりはないが、これは自分が勝手にやっていることだし、今は変な心配をさせたくない。
リサが響子さんだったころ、僕は響子さんには恋心を抱いていたが、幸いにもリサとは恋人同士になった。
でも手を繋いだりすることも恥ずかしくてお互いにできないでいる。清楚な関係と言わせて頂こう。でも、手ぐらい繋ぎたいな。
魔法を覚えるために、今日も王宮のラケルに会いに行く。リサもスケジュールに無理のない限り王宮に一緒に行くことが多い。ラケルがいかに美人だからって浮気しないよ。心配しなくていいよ。と言ってあげるのだが、
「そんなんじゃなくて……一緒にいる時間を増やしたいだけだから……」
なんて言われたら、愛おしくなって思わずリサの手を握ってしまった。握った手が柔らかい。なんだかドキドキする。握ったあと、握り返されて、そのまま手をつなぐような状況になった。僕とリサは手をつないだまま、しばらく歩くと、すぐに王宮に着いてしまった。
「あの、……リサ?手をつないだまま王宮には入れないよね」
「そうね。でも太郎から手を握って来たんだからね。私から握ったわけじゃないんだからね」
リサが意味不明なことを言っている。握り返してこなかったら、今頃手を繋いでいるはずないのに。恥ずかしくて言い訳をしているつもりなんだろうな。可愛いから許す。
「かわいいは正義だね」
「そのネタ、一般の人には通じないわよ」
リサは一般の人ではないようだ。僕が最近リサにマンガを千冊ほどプレゼントしたため、毎日読んでいるらしい。そんな話をしていたら王宮に着いた。さて、今日も魔法を覚えよう。代わりに、自分が今日からラケルに教えるのは、二次までの方程式である。文字式という概念がまだこちらの世界にはなく、それだけでもかなり画期的なものとなる。
ラケルが今日教えてくれる魔法は水魔法で、僕は教えてもらった通りに詠唱する。三回失敗したが、四回目には、魔力が移動して手に集まり、そこから水が出たのを確認した。当然といえば当然だが、体の中を流れる魔力の動きが浄化魔法の時と違う。僕は、水魔法の魔力の流れと同じものを、詠唱せずに行ってみた。詠唱した時と同じように水が出た。……え?詠唱いらなくないか?
ラケルにそのことを伝えると、ラケルとリサ二人に信じられないと言われたので、再度詠唱せずに魔法を使って見せた。
「ステータスがあれだけ異常だと、詠唱せずとも魔力の動きを再現できるのですか。これは大発見ですがタロウ以外には無理でしょうね」
「太郎、詠唱なしで魔法が使えるなんて凄いよ……」
「これって……、いろいろな魔法を無詠唱で使えたら便利そうですね」
ラケルは、実際に無詠唱で攻撃魔法を使ったらどうなるか想像して言った。
「攻撃魔法を覚えて使ったら、相手に気づかれずに攻撃できるから無敵かも」
まさかの、俺TUEEEEEE! 的な展開が期待できるのだろうか。それから三カ月間、僕はさまざまな魔法を詠唱しては覚え、無詠唱で再現することにした。ラケルの知っている全ての魔法を使えるようになった後に、独自の魔法の開発を始めたのだった。
僕が独自の魔法の開発を始めたころ、ラケルの勉強については、初等数学が理解できたので、応用で、国の予算の使われ方に不正がないかチェックすることになった。
チェックした中で過去最大の不正が発覚した。
大型船と中型船合わせて購入金額530億Gで、20隻を購入。それぞれいくつ購入したのか不明。大型船1隻18億G 中型船1隻10億G 18X+10×(20-X)=530 の中型船の数に相当する答えが負の数となる。つまり、この計算が合わないということは、予算を不正に利用している証拠となる。
実際に、購入したのが20隻であれば、最大でも360億Gにしかならない。つまり、最低でも200億Gを着服した者がいる。
国の予算の着服は重罪である。他にも次々に不正が発覚し、甘い汁を吸っていた者たちが、次々に牢屋に入れられた。太郎は今まで恨まれないよう気をつけていたが、このことにより、一部の人たちに恨まれることになるのだった。




