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<14> 事件を追う

 僕は、十五年前に響子さんが殺された事件に関して追及しようと思っている。別にもう怨みとか仕返しとか、そんなことは全くなくて、ただ純粋に知りたいだけなのだ。犯人が誰か分かったところで、当時の自分ならともかく、大人になってリサにも会えた自分が、いまさら怒る理由もない。


 十五年も前のことで、当時としても事故として扱われており、警察の取り調べもないままだったから、全くといって手がかりがない。ジンもなぜか、このことに関しては教えられないという。それではどうしたらよいか。当時の事件の目撃者を探すしかない。


 ここはプロに相談しようと思う。ジンが直接教えることができなくても、どこに頼んで調べたらよいかぐらいは教えてくれるかもしれない。


 そう思ってジンに相談したら、ある探偵を紹介された。優秀だが今は仕事がなく暇なので適任なんだと。ただし、最初に三億円払って、足りなければいくらでも出すと言えと、ジンにアドバイスをもらった。


 必要経費として渡せば、手がかりが見つけられる可能性が高くなるのだそうだ。それとは別に一日五百万円を払うという条件で、見つけてもらう。そしてもし、犯人にたどり着いたら二億円払うと。最低期限は四十日間。一日五百万円については、四十日分を先に払い、早めに犯人が見つかったとしても返す必要はない。最低でも合計七億円かけて依頼することになる。


 僕は、その探偵事務所に直接現金を持って訪問した。青木探偵事務所。こちらから提示する料金を説明し今日渡すのは三億円。明日二億円を持っていく約束をする。破格の依頼料に対して、その探偵は少しも驚くことなく次のように言った。無言で名刺を私にくれた。探偵の名前は青木文雄。名刺にそう書いてある。


「私にそのような条件で依頼をするということは、普通の依頼ではないことは明白。まず、田中さん。あなたは天使と知り合いですね」


 ジンの紹介してくれる人だから、普通の人ではありえないと思っていたが、まさかこんなことを言い出す人だったなんて。でもジンがお勧めするんだから間違いないだろう。


「実は、天使のジンに紹介されて、こちらに来たんです。あなたは異世界の存在を信じますか?」


「信じる。いや、信じるというのは語弊があるな。知っていると言わせてもらいます」


「それならば話が早い。実は転生した僕の彼女が十五年前に何者かに崖から落とされて、死ぬ間際に転生させることに成功したので、今は異世界で生きているんです。その彼女が、どうして崖から落とされることになったのか、それを知りたいんです」


「なるほど。異世界に転生ですか。田中さんの言うジンは大天使候補から外れはしたものの、神様と近い関係にある天使なんですよ。私はジンが天使だと知っていますが、ジンを妖魔とか魔人あつかいしてるから、彼に好かれているとは思えないんですがね」


「そうなんですか。ジンを知っているんですか?」


「まあ、昔から知っていますからね。持ちつ持たれつな関係でもあるんですよ。天使である以上、人間に関与できる部分がどうしても限られるんです。でも、私のような存在を通せば天使が直接関与したわけではなくなるので、一応問題とはならないことになっています。」


 ここで、私のような存在という言い方が気になったので、聞いてみることにした。


「あなたは、人間じゃないんですか?」


 すると、青木という探偵は言ったのだった。


「そこは、……まあ、想像におまかせしますよ。ちょっと自分の存在に関してはあからさまにすると問題がありますので。人間ではありますが、そうですね。ヒントとしては聖書にレギオンが登場しているのは知っていますか?聖書のレギオンと違って私は悪霊ではないですが、存在としてはあれが一番近いともいえます」


「レギオン……ですか。すいません。全く知りません。今度調べてみます」


 不思議なキーワードをヒントにもらい、書類に依頼内容と当時の事件で知っている限りのことを記入した。当時自分の通っていた学校名や自分の名前、当時の自分の住所、現住所、現在の連絡先電話番号など書いて、他にもいくつか質問を受け回答し、今日の会話は終了となる。また、当時通っていた小学校の卒業アルバムを明日持ってくることを約束した。


 翌日、二億円の現金と小学校の卒業アルバムを持って青木探偵事務所を訪ねた。


 今回のお金が手に入ることで、事務所の運営に一人、事務員を雇いたいと言われた。若い女性がいいという。電話がかかって来た時に対応してもらえれば良く、また電話の内容は全て録音される。給料は月三十万円と悪くない条件であった。


 後でジンに相談したら、『今日、太郎に電話するやつがいる。そいつでいいと思うよ。』と言われた。誰だろう?そんな人いたっけかな。と思っていたら、電話がかかって来た。携帯に【 松井香織 】と表示されている。すぐに僕は電話に出た。ジンが言っていた今日電話するやつというのは、松井さんのことだったようだ。


「はい田中です。」


「あ、お久しぶりです。松井です。お元気ですか?」


「松井さん、久しぶり。頂いた電話でしかも突然で悪いんだけど松井さんちょっと転職しない?」


 僕の話に対して、松井さんが驚いたような声を出した。そして数秒の沈黙の後に言った。


「……田中さん。何?超能力者にでもなったんですか?わたし、転職を考えてて、その件で相談したくて電話したんですけど。何で私が言うより先に転職の話をしたんですか?」


 それから、松井さんに青木探偵事務所で人員を募集をしていることや、給料の説明をしたら、すぐにでも転職したいと言い出した。


 松井さんのことを青木さんに伝え、早速働いてもらうことになった。松井さんが事務所にいれば、青木さんは自由に動けるようになるので、助かるようだ。青木さんでいいんだよね。あの人。名刺出されたけど、青木ですとは言われなかったけど。レギオンってそういえば何だ?


 後で、僕はレギオンについて調べた。レギオンとは軍団を意味し、聖書では多くの悪霊が一人の男に入っているのをレギオンを宿すと表現していた。つまり、青木さんの中には悪霊ではない多くの霊が入っているということなのではないか。


 青木さんにたくさんの霊が宿っており、それにより表立って対応した人格は別の霊であり、その人が青木さんの名刺を僕に渡して話をした。だから私は青木ですと言わなかった。


 これに関しては、ジンに聞いても教えてもらえない気がする。青木さんもヒントまでしかくれなかったことから、教えてはくれないだろう。まあ、調べて欲しいことを調べてくれれば、問題ないか。


 そんなことを色々考えているうちに、尿意を覚えたので、早速仕事をすることにした。尿は大切な資源だ。

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