<12> 異世界での商売の第一歩
リサと出会ってから一週間ぐらいの時に、商売についてリサと相談したことがあった。ジンにも相談した結果、雑貨屋のオルガという人を通して鏡の販売をすることになった。その時はまだ僕が言葉を話せなかったので、リサとオルガが会話をしたのだが、鏡に相当する言葉など、知っている単語は聞き取れた。リサに通訳してもらいながら自分の持っている表面がガラス製の鏡と同じ重さの金を交換する交渉を行った。この世界では天秤にかけて同じ重さをはかるのが一般的なので、天秤でほぼ釣り合う重さの鏡と金を交換することで合意を得た。ここまでが、前回訪問した時に決まったことである。
今、僕はリサとの特訓で不自由なく会話ができるようになっている。日本の自宅にいる時には、録画したリサとの会話を繰り返し再生し、完全に暗記するという方法で練習した。録画した可愛いリサの姿を見るのが主な目的で、異世界の言葉は、真似しているうちに自然と覚えてしまった。そこで、鏡の販売をしてくれた雑貨屋のオルガに再度会いに行くことにした。今日は僕がリサを通さずに直接オルガと話をするのだ。
「こんにちは。オルガ、鏡を持ってきたから金との交換よろしく頼む」
「え?まじかよ。タロウはこちらの言葉が話せるようになったのか?初めて会った時は全然俺の言葉がわからなかったのに、この短期間でよくそこまで上達したな」
「リサと特訓したからね。もう、こちらの言葉を話すのは問題ないよ」
僕がそう言うと、リサの顔が赤くなった。「別にそんなでも、でもちょっとは手伝ったけど……」などと小さな声でぶつぶつ言っている。そんなリサと僕を交互に見ながらオルガは言った。
「どんな特訓したら、そんなに早く覚えられるんだか。……まあいいや。それより、店に見本で出してる鏡なんだが、欲しいという人がいっぱいいるんだ。一日十枚ぐらいは売れそうなんだが、もっといっぱい持ってこれるか?」
「必要なだけ持ってくるから、遠慮せずに足りなければ言ってよ。できるだけいろんな種類も用意するから」
「なんか、雑貨屋じゃなくて鏡専門店みたいな感じになりそうだな。俺は売れればなんでもいいんだけどね」
するとリサが、「いっそのことお店ごときれいに作り変えて、お洒落なな店にして、鏡専門店にしたらいいんじゃないの?」なんて言ったものだから、店主のオルガもその気になって、「おしゃれなお店か。そうすると女性の客も増えるな。そのほうが鏡が売れそうだし、やってみる価値はあるな。高級感あふれる感じにして、今よりも高いお金を払って鏡を買ってもらえるようにしたら、すぐ元がとれる」なんて言い出した。ジンにも相談したほうがいいんじゃないかとリサに聞いたら、リサはジンを呼んですぐ相談してくれた。その結果、ジンはこれから言うことは独り言だから気にしないでくれと前置きをした後に、かなり重要なことを教えてくれた。
『そういうことなら、ルカナンの王様を通して融資してもらうことが可能だろうな。でも、そのためにはこの町の伯爵様に相談する必要があって、伯爵様に相談するには、その息子のカールを説得するのが早いな。そのカールに話をするには、カールが片思いしている女の子のミールに鏡をプレゼントした上で、カールに話をしてもらうのがいい。さっきも言ったけど、これは独り言だから……』
具体的な独り言である。太郎とリサはそんな情報もらったら失敗する気がしない。ジンは、都合により独り言だという前提で話をしているが、お礼を言うと、『お礼を言われるようなことを言った覚えはないよ』と言って去って行った。天使としては結構アウトな情報を提供しているのだろう。
その後、ミールという女の子に「お願いごとを聞いてくれたら鏡をプレゼンとする」と言ったら、ミールはとても喜んで引き受けてくれた。カールのことはあまり好きではないようだが、カールに話をしてくれた。カールはミールが好きだったので、好きな女の子の話を聞かないわけにはいかない。それで、伯爵に会って鏡の販売を行う相談ができるまでになった。
結果、伯爵に店の主人という立場になってもらい、最終的には王様に取り次いでもらえるに至った。伯爵は王様に経済効果を説明し、国の利益が増えるのであればと多額の融資を得た。
また、これは余談だが、カールは頑張ってミールに告白したそうだ。残念ながら今のカールとでは付き合えないとお断りされ「カールは、もっと男らしくならないとモテないよ」とアドバイスも貰ったらしい。
ともかく、ジンのアドバイスが大成功して、ルカナンで一番豪華で巨大なお店が誕生した。ひょっとしたら世界一かもしれないらしい。お店には十万もの鏡を置けるスペースがある。
僕はリサと「デパートみたいだね」と言ったのだった。




