孤独
____式典から一週間が経った。
俺は、個室でギルドマスターと話しをしていた。
「頼む! この依頼を受けてくれ!」
「急に呼ばれたから、何か起きたかと思ったら……依頼を受けさせる為だってか」
目の前には、ギルドマスターが机に額をつけて俺に依頼を頼んでいる。こんなに必死になってる、って事は重要な依頼ってことだよな。
「依頼の内容を見ないと、何とも言えないな。せめて討伐対象や採取対象と期限を教えてくれ」
「ああ、分かった! 依頼の内容は討伐で一応話が通っている。そして、対象だが……北の魔王軍四天王であるデススライムだ!」
「北の魔王軍って事は、東西南北に魔王がいるのか」
「それで合ってる。ダイキが前回倒したのは、この国の近くに城を構えていた東の魔王軍だ」
ギルドマスターが焦ってるのはそういう事か。だけど、何故北にいる四天王をわざわざ倒しに行かないといけないだろうか。
「実は、北の魔王軍から式典の三日前に、城へ手紙が届いたんだ……その手紙がこれだ」
「じゃあ、読ませてもらう…………マジか」
手紙の内容はこうだった……。
『手紙が城へ届いてから三日後に、貴様の国に我の四天王であるデススライムが国を滅ぼしに行く』
今日じゃないか……というか、デススライムってどんな種類だ。
スライム以外のことは全く分からない……。
「で、デススライムは、どんなのなんだ」
「ああ、デススライムっていうのは、ポイズンスライムの最上位種た。全ての毒を扱い、闇魔法の上位魔法を使うと言われている。しかも、毒は即死の物が大半を占めている。今までも数々の国、町、村が滅ぼされている」
「ほぉ……てか、この国以外も国があったんだな。そういえば、この国と国王の名前はなんて言うんだ」
「今まで知らなかったのかよ……この国はグリフォルと言って、国王はグリフォル・アレース・ウォングという名前だ」
うわー、知らなかった……誰かが国や国王の名前を言ってるの聞いたこと無かった。
「そういえば、ずっと家に引きこもってたもんな。一応聞くけど、あの頃何回ぐらい外に出たんだ?」
「最低でも5回は出てるな、10回も……出てない!」
「まあ、それはいいとして……依頼は受けてくれるのか?」
依頼の紙を見る限りでは、別に問題ない……それに最近暇になっていた。こっちの世界には、娯楽が少なすぎる。
今の俺にとって、寝たり食べたり魔物の討伐くらいが唯一の娯楽だ。
「分かった、受ける。場所は紙に書いてある北の森から来るってことでいいんだな。因みに他に知ってる奴はいるのか」
「いや、俺とお前と国王陛下しか知らない。無駄なパニックを起こさない為だ。ついでに言うと、最近冒険者達は街から出てないから広範囲の魔法の使用も大丈夫だ」
「分かった、今から片付けてくるから30分くらい待っててくれ」
30分も有れば、転移で家まで戻り、アスト達に伝えて片付けられるからな。ちゃんと伝えないと、後で面倒になりそうだしな。
「じゃあ、頑張ってくれ」
「おう、1時間もしないうちに戻ってくる」
そう言うと、ギルドの裏に出た。
そして、転移で家の前まで移動した。
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家に着くと、アスト達をリビングに集め話を通した。因みに、人数の制限は無かったので安心した。さすがに、一人で行くのは虚しい……今では5人も家族がいるんだからな……。
「じゃあ、ボクは家にいるから」
「わたしは家事をしないとなので……」
「わたくしは、アストさんと大事な用があるので無理ですわ」
「マリアさんと用事があるので……」
「ワタシは、家で創造神様達の護衛をしますので」
「あ、嗚呼……急に無理を言って悪かったなみんな……」
ハハハッ……みんな用事があるんだな。
そっか、俺はこれからも一人で頑張るんだよな……。
「じゃあ、行ってくるよ……留守番よろしくな……」
「「「行ってらっしゃい(ませ)(ですわ)」」」
どこか冷たいな皆……この前までは何処に行くにも着いてきたのにな。いいや、さっさと倒しに行こう……。
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北の森の前まで、急いで着ていた……お、丁度来たのか。
「ん? 何者だ。貴様、我が四天王の一人であるデススライムと知りながら前に立つか……」
「スライムって言うから、ドロドロしてるかと思ったけど……人と同じような姿をしてるんだな」
目の前のスライムは人の姿になっていた。まあ、倒すことに変わりないし別にいいか……。
「返答が無いってことは、そうだと捉える……覚「インスタントデス……」ご……」
久しぶりにこの魔法を使った。まあ、一番使いやすいから構わないけど……早く帰って寝よう……アスト達には明日言えばいいか。
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「ただいま……って、誰も居ないのか。部屋に行って寝るか……ギルドは……明日でいいや……」
部屋の扉に『今日はもう寝る』とだけ書いた紙を貼り、ベッドに潜った……なんだろうなこの感じ……。
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『何で、お前なんかが……』
『あんたみたいなのはこの世にいらないのよ』
『普段から嫌いだったんだよ、お前』
『キモいからさっさと死んでくんない?』
『マジでウザイんだけど』
『存在自体が邪魔臭ぇんだよ』
そうか……そうだよな……俺なんかに、仲間や家族が出来るわけないよな。どうせ、みんなだって何時かは……。
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「はぁ……夢か……まだ朝の4時じゃん……」
なんで、元の世界での事を夢で見るんだろうな……。
アスト達も、俺に嫌気がさして離れていくのか……。
『みんなお前が嫌いなんだよ』
何時もそうだったもんな……信用して裏切られた。今回もまたあの頃みたく、アスト達は離れていくのかな……また、孤独を味わうのか。
俺は、まだ暗い中ギルドまで来て、ポストに依頼が終わったと書いた手紙を出し、家に戻り再びベッドに潜った……。
『なんで君みたいのが学校に来てるんだ? どうせ皆から避けられてるんだから来なくてよくないか?』
『お前がいなければ、お前の父親の遺産は全部俺の物だったのによ……』
『はぁ? あんたを好きになってくれる奴なんてこの世に存在すると思ってんの?』
眠ろうとすると過去の記憶を思い出した。沢山の人から蔑まれ、馬鹿にされた過去……家では虐待の毎日……学校では苛められた。
どうせ、みんなだって俺から離れていくんだ……そうならいっそ自分から離れていった方がいいかもな……。
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「ダイキくんが消えただって!?」
「はい……部屋に手紙が……」
『さようなら』
その日、木村大輝は一つの手紙を置き、皆の前から姿を消した……。




