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勇者と魔王は、女子高で青春を謳歌します。  作者: 六錠鷹志
第一章 再開した2人、炎上した勇者宅
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5 チンピラ3人は、最凶に遭遇します。

【注】残酷描写あります

 森の中を3人の男が歩いている。

 フォーテインの森には整備された道が直線状にのびているのだが、その数は少ない。潮風が強いこの地域の森では作物が育ちにくく、薬草もキノコも全くと言っていいほど自生していない。食べ物がなければ動物も住み着かないので、狩りをする人間もいない。必然的に森にある道は別の街へ行く為か、森に唯一建っている男子校ブルンブルン学園に通うためか、その2択だった。


 男たちは整備されていない道を歩いていた。昼下がり、日は雲に隠れることなく地上を照らす。しかし、男たちのいる森は、人の手が入っていないからか、薄気味悪い印象を与える。

 シャベルを持つ男は、2人の後を歩く。シャベルの男は他2人に荷物持ちをさせられているわけではなく、シャベルが彼の得物でもあったためである。そう武器なのだ。彼らのこの位置関係には警戒ととっさの行動に備えたものでもあった。


「いくらなんでも今日は儲けが少なすぎだな」

「あの依頼人とはこれで手を切るか」


 前を進む2人が、振り向くことなく口を開いた。


「はぁ、今更カタギにはなれねぇぞ」

「だれもカタギになるとは言ってないだろ。どうせ似たような仕事ってのは何個かある、なけりゃ別の街に行けばいい話だ」

「だな。穴掘って死体(・・)埋めるだけの簡単なお仕事がまだありゃ一番いいんだが」


 男たちの仕事は依頼人が何処からか持ってくる死体を人気のないフォーテインの森に埋めるという簡単な作業。死体は所々損傷があり、日によっては人間だったのか判別が難しい場合もある。

 死体の衣服は大抵そのままになっているので、男たちはピアスや指輪といった装飾品の類を売り飛ばし少ない手取り金を増やしていた。儲けが少ないとは、最近その装飾品による副収入が減少しているからの発言であった。



「なぁ、声が聞こえないか」


 シャベルを持った男が足を止めて言った。

 この男は耳がいい。距離120くらいからでも人の話を鮮明に聞くこともできる。

 前を歩く2人は足を止め振り向き、視線で続きを促す。


「男と女が一人……いや、どっちかが歩いて行ったみたいだ」


 リーダー格の男は少し考える素振りを見せ、低く短距離に声を発した。


「……おい、武器は持ってきているよな」

「……あぁ」

「……おう」


 リーダー格の言葉に2人が自身の得物を確認しながら頷く。すべまで言わずとも、彼らにはその一言で十分だった。これから男か女かは不明だが、森にいる一人から金を巻き上げる。雇い主がいなかった頃の仕事、ある意味では男たち本業だ。もし手に余る相手だと感じ取れたら、すぐに撤退すればいい。

 こっちだ、とシャベルの男が今度は前に立ち気配を殺しながら急行した。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 目的の相手が一人でいることを確認したシャベルの男は、気配を殺して忍び寄った。


「おい、女だ……くっそ何も持ってねぇ!」


 シャベルの男が女を後ろから羽交い絞めにして引きずり出している。女はコート頭から被っているだけで、他には何も身に着けていない。これでは儲けが皆無だ。

 拘束を受けた女は、この時抵抗しなかった。ある人に弱体化していることを忠告されたからだ。声さえ出さずに堪えていると、リーダー格の男はそれを怯えと認識し、コートを引ん剝いた。


「おぉ、これはこれは」

「はは、上玉ってやつだ」


 シャベルの男には女の裸体と顔が見えず、どんなものだろうかと気になったが柔らかくきめの細かい肌の質感を楽しむだけにとどめた。ただ気になるものは気になる、そう思った時、シャベルの男は別のコトに気が付いた。ちょうど顔ではなく頭しか見えなかったからこそである。


「コイツ……角が生えてる。魔族だ。おい、魔族だぞ」

「本当か」


 リーダー格の男は、驚きの声と顔を上げ女の頭部を見た。そして、好奇心からか女が魔族である証明、角を触ってしまった。


「ん、思っていたよりかてぇなぁっ」


 ただ、角に触れただけ。だが、--それが命取りだった。


 鈍い音が空気を揺らす。女の拳がリーダー格の胸を穿つ。


「トリタ! てってめぇ」

「おっおい。落ち着けって」 


 リーダー格の男(トリタ)は状況を理解できず、後悔さえ出来ぬままーー絶命した。

 呆然と手に入れている力を抜いてしまったシャベルの男。女はすんなりと拘束を抜け出し、倒れたトリタの頭の上で自身の足を振り上げた。

 女がやろうとしていることを瞬時に察した2人が悲鳴じみた大声を上げた。


「おい、やめろ! やめてくれ!」

「なぁなぁなぁなぁぁあああ」


 残った男2人の叫びも空しく、その頭はぐちゃりと音を立てて潰れた。もう人間の一部だったとは識別できない肉片(ミンチ)となった。


「てってめぇ。魔族のくせに、マゾォクのくせにぃぃ」

「ダメだ! マルトォ!」


 シャベルの男の制止も空しく、自身の獲物である刃物(ナイフ)を取り出す。刃物の柄はマルトと呼ばれた男の両手にすっぽりと収まっている。伸ばした手の平程度の刃は男の怯えを表すように小刻みに震えている。

 対峙すること数秒、男は刃を突き立て突進する。

 しかし、女の肌に触れるコンマ数秒。刃物が視界から消えたーー


「あっ、あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ」


 --視界に再び映った時、男の両手は手首から先が跡形もなく消えていた。

 手首の耐久度が一瞬で消し飛んだ。血がだらだらと流れ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに濡らし叫び声は嗚咽へ混じる。

 シャベルの男が女の驚異的な破壊力に、昨夜拾った鑑定石をポケットに入れっぱなしだったことを思い出した。鑑定石を取り出し魔力を流し込む。表面のキズが目立つ石だったが、幸い書き込まれた術式はまだ生きていた(・・・・・)。難なく術式は正常に作動した。


「おいおいうっそだろ。あり得ねぇ。……ははっははっはははは」


 参照したデータにシャベルの男は心を壊した。笑うことしかできなくなった。

 視界の端には2つの死体。6年来の仕事仲間でも、どっちがトリタでマルトか分からない。


「ははっはははは」


 女が止まった。紙袋を持った男に止められた。この場にいなかった男。今来たばかりだ。


「ユウさん…………ですが」

「ちょっと待ってろ」


 何か話をしている。知らないどうだっていい。どうせ死ぬんだ。シャベルの男はそう考えたが、だけど、とタイミングを逃していた魔力結晶に魔力を流し込む。術式が発動し紙袋の男の顔面へ光速矢が放たれた。


「はっ……ははっはははっは」


 シャベルの男は恐怖を紛らわそうと本能的に笑う。恐怖がさらなる恐怖を心に刻む。

 さっきの矢は、紙袋の男の眉間に命中したが傷一つ付いていない。物理的ダメージを与える矢は全く仕事をしていない。


 ……女だけじゃねぇのかよ。この男もかよ


 シャベルの男がそう思った時、いたいいたいいたい。痛みが伝わる。


「っ」


 2人の時とは違い、死ねない。HPが減らない。

 シャベルの先端で男は何度も貫いてくる。


 痛い痛い痛い痛い痛い……


 「はっっがあぁはあっ」


 喉仏を貫かれても死ねない。純粋な痛みと異物感が喉を埋め尽くす。


 いっそのこと、殺してくれ。殺してくれよ。


 シャベルの男は願うが請うこともできない。口を開いても言葉を発することができない。

 遂に喉仏を破壊され、シャベルの男は喋ろうとしてもヒューヒューと風切り音が鳴るだけになった。


 何度も何度も貫かれ殴られ踏みつけられ……。

 痛みを刻まれた躰は襤褸切れが如く、シャベルの男はやっとの思いでーー絶命した。 


 日はまだ沈んでいない。一般に夕暮れと呼ばれる時間まであと少し。

 今日という日はまだ続く。


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