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勇者と魔王は、女子高で青春を謳歌します。  作者: 六錠鷹志
第一章 再開した2人、炎上した勇者宅
1/37

プロローグ(改)

初めまして、卵かけしめじと申します.よろしくお願いします.

6/20 :

本話の大幅な改稿を致しました.ストーリに変更はありませんが、字数を3000字ほど削りました.

改稿前のプロローグは活動報告に残しておりますので、気になった方はそちらを参照ください.

 音が聞こえる。ドクドクと血を押し出す命の鼓動。

 不規則に揺れるそれは2人分。自分のものと彼女のもの。


「……解除(リリース)っ」


 彼女に突き刺さっていた『魔力の剣』が鈴を鳴らす音と共に光の粒となりて消える。

 同時、彼女は囁くように声を紡ぐ。俺の身体を穿っていた『狂戦士(けんぞく)』が瓦礫へと帰す。

 力が抜け、使い手のいなくなった操り人形のように崩れ落ち、彼女の上に重なり床に伏す。


「負けてしまいましたね」


 彼女は、自身の上に男が乗っていることを厭わずにそう言った。


「だが、同時に勝ちでもあるだろ」


 先までの戦闘で彼女の鎧は熱を帯びていた。ムラのある熱がまるで彼女の体温に思えた。

 首を動かすと、僅かの距離にいる彼女の目と視線があった。穏やかでいて幼さを残す黄金の目と。


(ったく、こんな終わり方なんてな)


 自分の運命を呪った。倒すべき相手、殺すべき敵。その頂点にいたのがこんなにもーー可愛らしい女の子だったなんて。

 濡れた肌に金の細く短い髪を貼り付け、耳の少し上の当たりに全部で2つの角を生やしている。

 角は、禍々しいものでなく、女の子がつけている髪飾り(リボン)のようで、似合っていると心から思った。

 醜い獣から連想していたから、拍子抜けした。その落差(ギャップ)に困ったものだ。


「いいえ、負けてしまいました。自身が観測できない勝利は、可能性のまま死んでゆくのです。そこに価値はありません」


 紡がれた音は、弱々しく、されど意志が込められていた。

 傷口から流れ出す血液は、混ざりあい赤黒く変色を始める。

 死を可視化するHPがゆっくりと減っていき、床の赤と同じ色に染まる。

 もう、長くない。


「そうだな」


 頷くと、彼女は優しく微笑んだ。

 心が満たされるのを感じた。どうにも形容しがたい感情が心から溢れ出す。


「やっと死ねるのか……」


 声に出さなかったつもりだったが、音となりて彼女の鼓膜に届いてしまった。


「ふふっ、真面目なのですね。勇者さん(・・・・)は」

「真面目なんて。そんなことは、ありえない」

「いいえ、あり得るのです。貴方(あなた)(わたくし)も、同じです」


 彼女はーー魔王(・・)は目を細め、頬に手を伸ばしてきた。触れられたことに幸せを感じる。


「貴方が勇者。私が魔王。それぞれの運命を押し付けられ、生き方を定められた」

「ははっ、今理解した。そういうことか。だけどなーー」


 勇者という称号を与えられたことに、今は感謝しているのだ。


「ーー勇者ってのから逃げる道なんて、一度も考えなかったな」


 幼げな彼女の黄金の髪の毛に手を伸ばす。頭部全体を撫で、角の根本に触れてみる。

 体液(あせ)で濡れた髪の感触や、角の硬さを感じる。


「最後にお名前をお聞きしても」


 残された時間なんてもうない。彼女もそう判断したのだろう。


「ユウだ。ユウ=カレント。お前さんは」


 魔王の名前も勇者の名前も、魔族間、人族間で秘匿されていたのだった。


「マオ。マオ=スタックです」


 嗚咽の混ざる、途切れ途切れの自己紹介。死ぬ間際の『初めまして』に幾筋の鉄と塩が頬を伝う。


「もう一度。出会いたいです」

「俺もだ……フォーテインの森に俺の家がある。そこに行こう。そこで暮らそう」


 言い切ってから、自分の言葉に気が付いた。

 本心からの言葉だが、それは空虚な幻想(ゆめ)。それを語り、誓いを立てる。


 薄れゆく意識の中、共に終わりを迎える彼女の表情(かお)は、生涯で初めて向けられたーー


 「……はい」


 ーー笑顔だった。










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