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アリサと白い狼。

作者: 篠目 彦まる

雪が降る。

この村に、明日もきっと。ずっと。


とある小さな村。

女の子はお母さんと一緒に小さな木の家で暮らしています。

「今日も雪だからちゃんと家の中にいてね?」

「お母さんは〈心配性〉だね。そんなに言われなくてもわかってるもん。」

「ふふ、アリサはいい子だものね。」

「うん!お母さんとの約束だもん。」


小さな女の子のアリサのお父さんは、アリサが小さい頃によるのお空の星になってしまいました。けれどアリサは、夜にお父さんがアリサがちゃんと寝られるように見守ってくれているのを知っているから、お父さんがいなくても寂しくありません。それに、大好きなお母さんがいます。お母さんは優しくて、あったかくて、まるで太陽みたいです。そんなお母さんのそばにアリサはいられるから、とても幸せでした。


そんなある日、雪がとても降っている、冬のことでした。


あまりにも雪が降っているので、アリサはこの日も外に出られませんでした。

「つまらないの。お外で遊びたかったなぁ。」

アリサはまだまだ小さな子供。外で駆け回って遊びたいお年頃です。けれど、雪がとても積もっているので、アリサみたいに小さな子は外には出させてもらえませんでした。

「けど、お母さんと約束したもん。アリサ、勝手にお外に出ないでちゃんと中で遊ぶんだ。お母さんとの約束だから我慢するもん。」

そう、アリサはお母さんと約束をしたから、つまらなくても外に出ないで、大人しく家の中でお絵描きをしたりして遊んでいました。


ビュー、ビュー


だんだんと夜になるにつれて、風の音が強くなっていきます。雪が激しく窓を叩いて、少しも開けることができません。

「お母さん、遅いなぁ。」

それなのに、アリサのお母さんはちっとも帰ってきません。

いつもお母さんは、村の中の機織り場で他の女の人たちと一緒にカタコトと機織りをしています。そして、夕方には大事な食材を抱えて、アリサがいるこの家に帰ってきます。今までこんなに遅くまで帰ってこなかったことは、一度もありませんでした。


ぐーっ。

アリサのお腹が大きくなります。

お昼ご飯は食べたけれど、もうすっかり夜です。アリサはお腹がペコペコでした。

「雪が強いから、お母さん機織り場でやむのを待っているのかなぁ?」


アリサは強い子です。お母さんが帰ってこなくても、絶対に泣いたりはしません。けれど、とても心配でした。アリサの大好きなお母さんが、このまま帰ってこなかったらどうしようとか、アリサだけが一人ぽっちになっていたらとか、いろいろと悪いことを考えしまいます。

「お母さん、さみしいなぁ。」


そのときでした、窓の外から小さな物音が聞こえたのは。


「お母さん?お母さんなの?」


その問いかけに答えはありませんでした。それでも、アリサは〈もしかしたら〉という思いで、すぐに服を着替えて、暖かい格好をしました。そして、急いで外に飛び出しました。


外は明かりもなく真っ暗で、何も見えませんでした。

顔に吹き付ける雪がとても痛くて、痛くて。必死にお母さんを呼んだけれど、アリサも自分の声が聞こえないくらいに、風の音がゴウゴウとなっていました。



きがついたら、アリサは真っ白な世界にいました。

そこは、まるで世界中に雪が積もったかのように、ただただ白いだけの場所でした。

しばらくぼうっとしていたけれど、アリサはふと立ち上がると、何かに導かれるようにして歩きだしました。

そのまま歩いて行き、目の前に見えていた丘を一つ越えた先に向かいます。

丘を越えた先は、一面の花畑でした。

色とりどりの花が、鮮やかに咲きほこっていました。

そしてそこでアリサをここに導いて、待っていたのは、一匹の真っ白い、立派な大人の狼でした。


「あなたはだあれ?」


アリサは尋ねました。返ってきたのは、


「もうすぐ春だ。」


それだけでした。


けれどアリサには、何かがわかった気がしました。

あぁ、そうか。春なんだ。

そう思ってすっと目を閉じました。

そして、アリサが目を開くと、お母さんのそばにいました。


「お母さん、もうすぐ春だよ。」


アリサはお母さんに伝えました。あの白い狼が教えてくれたことを、みんなに知らせたかったのです。


「アリサ?目が覚めたの?」

「あのね、丘を一つ越えたら春なんだよ。」


お母さんは、アリサが目を覚ましたことにとても嬉しそうにしていました。けれど、ちゃんとアリサの顔を見るとお母さんは言いました。


「アリサ。お母さんと約束したでしょう?勝手にお外に出てはダメだって。お母さん、本当に心配したんだからね?」

「ごめんね、お母さん。」

「ええ、いいのよ。お母さんも帰るのが遅くなってごめんね。アリサ、寂しかったでしょう?よく頑張ったわね。本当にいい子ね。」

「アリサ、本当にいい子?」

「ええ、とても。」


お母さんと仲直りしたアリサは、お母さんに抱きつきました。

今まで忘れていたけれど、アリサはとても寂しかったのです。一人でお外に出て、お母さんを探しに行くくらいには。




そして、しばらくして。

春が来ました。

あの日、あの場所で見たような、色鮮やかな春が。

花は咲き乱れて、鳥がうたい、蝶が舞い。

とても楽しいそんな春です。


アリサはその日、お母さんに頼まれたお使いをしていました。

テトテトと小さな体で買ってきた荷物を抱えて、一生懸命にお家に向かいます。

そして、なぜか視線を感じてふと周りを見渡したら、大きな木の陰で、白い何かがもぞもぞと動いています。



「こんにちは、狼さん。あなたが伝えたかったことはきっとこのことなのね?」

読んでくれた方に感謝を。

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