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テンプレ通りに「ざまぁ」を書いたはずなのに悪役令嬢が怖くなった話

テンプレ通りに「ざまぁ」を書いたはずなのに悪役令嬢が怖くなった話

作者: 無虚無虚

「エイダ、おまえとの婚約を解消する!」


 『キタ──ヽ('∀')ノ──!!』とでも言えばいいのかしら? 悪役令嬢モノのお約束、王子の一方的な婚約解消、やっぱり断罪イベントが発生したのね。


「理由は言わなくてもわかっているな?」


 はいはい。転生者の私は、この世界を乙女ゲームで知っているわよ。ヒロインに垂らし込まれたのよね。

 婚約者の王子はイケメンで、剣術が上手くて、多くの取り巻きの女の子にきゃあきゃあ騒がれているけど、別の言い方をすると、顔と剣術以外は取り柄がない脳筋なのよね。まあ、公衆の面前ではなく、私の屋敷に乗り込んできたところだけは評価しましょう。

 ゲームだと、悪役令嬢の私は取り乱して自滅ルートを進むんだけど、ここは予備知識(チート)を使わせてもらうわ。


「陛下はお認めになっているのですか?」

「父上?」

「この婚約は両陛下と私の両親が決めたもの。親の承認もなしに婚約を結んだり解消したりするなど、平民でもあり得ませんわ」


 王子、困った表情をしている。やっぱり考えていなかったのね。十六歳だけど、六歳児並みの頭脳(おつむ)しかないのよね。


「まずは陛下に私との婚約を解消したい旨を伝え、許可をいただくのが順序でしょう」


 王子の顔、赤くなった。怒っているな。でも自分の方が間違ってることには気づいたみたいね。九歳児に昇格してあげましょう。


「待ってろ。父上の許可をもらってくる!」


 王子はお城に帰り、翌日やってきた。表情を見れば、結果はバレバレ。


「おまえからも父上に言え」

「何をでしょうか?」

「婚約を解消したいと言え!」


 おやっ! ゲームにはなかったイベント! どうやらこの世界は、チートを使うとゲームのルートから逸脱できるみたいね。ここからは慎重に選択肢を選ばないと。とりあえず今の選択肢は……


(1) 同意する

(2) 断る


「私は陛下の臣民。陛下に物申すなど、畏れ多くてできませんわ」


 当然(2)よね。(1)を選んだら、ヒロインのハッピーエンド、私のバッドエンドが確定するもの。


「僕の言うことを聞け!」

「できません。殿下はいずれ国王となられる御方。ですが、今はまだそうではありません」


 王子は更に怒って帰っていった。思い通りにならないと、いつもあの調子よ。全然成長していない。十年間も婚約者をしていれば、このくらいは簡単にわかるわ。


 王子は三日後、戻ってきた。


「おまえ、何をした?」

「はい? 何のことでしょう?」

「みんな、婚約解消に反対するんだ。おまえが何かしたんじゃないのか?」


 そんなことするわけないでしょう。常識で判断しなさいよ。私は婚約が決まった翌日から、王妃となるための教育を受け続けているのよ。家の格や教育を考えれば、私がポッと出のヒロインに負けるわけないじゃない。と言っても脳筋じゃ無理か。今度の選択肢は……


(1) あらぬ疑いを認める

(2) 王子を言い負かす

(3) 陰謀をくわだてる


 ……確かに悪役令嬢なんだけど、ちょっと引っ掛かる選択肢ね。


「殿下はそんなに私以外の方と結婚したいのですか?」

「そうだ」


 私はため息をついた。ちょっとわざとらしかったかしら。私は悪役令嬢なのだから、選択肢は(3)でしょうね。


「では、こうしたらどうでしょうか」

「どうするんだ?」

「婚約は解消できませんから、いったん私と結婚するのです。意中の方は側室として迎えるのです」


 王子の鼻の穴が大きくなった。怒りのボルテージが上がった証拠。ここはすぐに言いくるめなければ。


「私とはセックスレスの仮面夫婦を演じるのです。私のことは政治(まつりごと)のために飾ってある人形ぐらいに思ってください。結婚して二、三年経ってから、世継ぎを確実にもうけるために側室を迎えたいと、陛下に申し上げるのです。それなら陛下は反対なさらないでしょう。殿下と意中の方の間に王子が生まれれば、王子を産めなかった私との立場が逆転します」


 この話の元ネタは、豊臣秀吉の妻だった北政所(ねね)と淀殿。史実では秀頼を産んだ側室の淀殿の方が悪女だったんだけど、それはこの際関係ないわ。調べてみたら、この世界にも似たような話があったわ。

 王子は黙った。貧しい頭脳(おつむ)で必死に考えている証拠よ。ここは駄目押しをした方が良いわね。


「殿下と意中の方の間の愛が本物(まこと)なら、二、三年の我慢などできないはずがありませんわ」

「そうだ。その通りだ!」


 挑発すると、簡単に引っ掛かるのよね。



──二年後



 王宮は全体がそわそわした雰囲気で満たされていた。まもなく王子の最初の子が生まれるのだ。吉報を待ち続ける国王夫妻に、文官が知らせを届けた。


「陛下、無事に誕生されました。母子ともに健康です」

「うむ。どっちだ? 男か、女か?」

「男の子です。王子です」


 その場にいた全員から、歓喜の言葉が出た。


「よし、さっそく会いに行くぞ」


 国王夫妻は分娩室にやってきた。


「わしに孫の顔を見せてくれ……可愛いのう」

「がんばりましたね、エイダ」

「お母上、ありがとうございます」

「そうだ。でかしたぞ。エイダ」

「お父上、もったいないお言葉です」


 男って馬鹿よね。性欲(リビドー)を持て余した十代の男が、すぐそばに手を出せる女がいたら、我慢できるはずがないわ。据え膳食わぬはなんとやら。正室の私が妊娠したら、側室なんかつくれないわよ。毒を食らわば皿まで食べてもらうわ。


「これで我が国も安泰だ!」


 そうね、脳筋夫が即位したらどうしようかしら? 前世の歴史にならって、執権職を導入しましょう。そうすれば、私と私の一族は安泰よ。その前に赤ちゃんに帝王学を学ばせないと。遺伝子の半分は脳筋だもの。子供はもっと必要ね。この世界は乳幼児の死亡率が高いし、政略結婚の手駒も必要よ。夫は脳筋だけど、若いし体力は無駄なほどあるから、夜の種馬としてなら申し分ないわ。昼の馬車馬としては頼りないけど、そちらはこれまで通り、私が御者になって手綱でコントロールすればいいわ。お父上もお母上も「エイダがいて助かる」とおっしゃってくれるし。そうそう、夫の監視は厳しくしないといけないわ。前世の統計では、結婚四年目が一番離婚が多いって聞いたことがあるわ。私が安定期に入る前の妊娠中に、持て余した性欲で、ヒロインとの間に庶子をつくられたら、厄介になりそうだわ。でもヒロインは無理に追放しない方が良いわね。こちらのボロが出るかもしれないし、浮気の相手は他にもいるかもしれないし。それに執権職を使って私の一族の支配が固まったら、側室を認めてもいいわね。他国に差し出す人質は、形だけの王位継承権を与えた庶子にしましょう。自分の子供が人質にされるとき、ヒロインはどんな顔をするかしら? 他にもやることはたくさんあるわ。うふふ、想像するだけでも楽しいわ。


「あなた」

「うん?」

「私は幸せです」

女怖い、女怖い、女怖い……

私に女性を紹介しないでください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予備知識が有ったとはいえ問題がスムーズに解決したのは主人公に賢さがあったためですね [気になる点] 結局「断罪イベント」の内容がわからなかったこと [一言] 「女は怖い」というより これく…
[一言] それでもやっぱり女が怖い おあとがよろしいようで(笑)
[一言] >女怖い、女怖い、女怖い…… >私に女性を紹介しないでください。 饅頭怖いか、漢を紹介してほしいのかどちらだ?
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