夢見る少女
私は彼が大好きだ。
どれくらい好きかなんて、聞くのすら野暮なくらいに。世界? 宇宙? 全て? そのような言葉が霞むくらいに、私の愛は深く、大きい。
出会いは入学式だった。緊張する私の横に座った彼は、にこ、と笑った。
その笑顔は、とても素敵で。何もかもを忘れてしまいそうなくらい。
優しい人だった。
困っている人を助けずにはいられない。私が困っていたときも、にこ、とした笑顔で助けてくれた。あまりにもお人よしで他の女の子にも仲良くするものだから、随分やきもきしたことだけれど。
けれど彼の魅力はそういうところにあるのだった。
明るい人だった。
まるで太陽のような。その笑顔だけで銀河系を作れそうな勢いで。
私たちのクラスも、学年も、学校も、彼の笑顔で作られているようなものだった。彼が太陽となって中心となって、全てがぐるぐると回っていた。
彼の傍にいられることが、私の唯一の幸福だった。それまでの趣味だった漫画や小説には見向きもしなくなった。逆に、彼がいつも見たくて、写真を撮るのが好きになってしまった。
カメラを向けると、彼はいつも笑ってくれた。
なんて愛おしいのだろう。
彼と過ごした高校生活はあっという間だった。それと同時に、私は彼と離れなければならないということを予感していた。
そんなものは耐えられない。彼がいなければきっと私は死んでしまう。
でも私は死にたくない。私が望むのは、彼と二人で幸せに暮らすこと。
だから、私は彼に告げようと思う。
恋を。愛を。
そしてきっと彼はその太陽のような笑顔を見せてくれるのだろう。もしかしたら、そのままぎゅっと抱きしめてくれるかもしれない。ひょっとしたら、彼と初めての口づけを交わすかもしれない。
でも彼は、そのような告白すら、野暮と言って笑うのかもしれない。にこ、と笑顔を見せながら、そんなことは知っていたよ、と。
だって、私たちには三年間がある。夢のような青春がある。二人で紡いだ、青春が。
けれど、彼は私の言葉を待っているのかもしれない。そして、告白を聞いて、何をいまさら、と笑いたいのかもしれない。だから私はちゃんと言葉にして伝えようと、決めた。
私は彼に想いを告げるのを、私たちの卒業の日にしようと思った。新たなスタートを切るのにふさわしい日だと思ったからだった。
その日。
笑いや、涙が教室には溢れていた。別れを惜しむ声もあった。
私にはそんなものはなかった。だって、これからも彼には会えるのだから。何を悲しむ必要があろうか。
ついでに言えば、緊張もなかった。既に繋がっている、伝わっていることを言葉で言い換えるだけなのに、緊張などしようもない。
彼は男友達や、女友達と談笑していた。やはり彼の周りには人が集まる。太陽と惑星のように。
私は彼のところへ近づいた。彼が私に気付いた。
にこ、と笑顔を見せてくれた。
「ねえ、――君。これからも一緒だよ。……大好き」
「……えっと、ごめん」
「誰だっけ?」
夢を見た少女のお話でした。