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エピローグ

炸裂残片弾さくれつざんぺんだんって、口に出すと絶対噛む自信があります。

 耳を疑う前に、先ず通信機を疑った。だが、ノイズなどではない。まごうことなき陽宗本人の声だった。

 スコープの中の人影は、全部で六人。その中で長刀を持って立っているのが陽宗だろう。炸裂残片弾を使用すれば、ライフル弾の速度に、さらに爆発による速度が上乗せされた状態で破片が飛来する。さらに言えば、単一の弾丸と異なり、その軌道がランダムで生じるため、完全な軌道予測を行う事は出来ない。陽宗一人を避けての狙撃というのは、やはり不可能だ。

 つまり、彼は自分を無視して撃て、と言っているのだろう。

 確かに、通常弾で撃っていては間に合わない。今再び火を放たれればそれで狙撃は不可能になるし、あの状況で陽宗が動いていないのを見るに、少しでも隙を見せれば、あるいは全員をみすみす生きて帰す結果になりかねない。だが。

 弾薬は、装填し直せばすぐに撃てる。だが。

『有弥、自分の撃ちたいように撃て』

 陽宗らしくない、優しい口調でそっと耳を撫でられる。

 ためらわない訳がないだろう。

 彼は私の救世主だ。

 今まで私は何十、何百と死んで来て、それを全て彼に跳ね退けてもらっていた。

 それなのに――。

 動揺で手が震え、狙いがうまく付かない。動機が激しくなり、安定しない。

 無理だ、と思ったその瞬間。

『自分の引き金くらい、自分で引け』

 言われた瞬間、嗚呼そうか、と思った。

 だから彼は強いんだ。撃つ時に撃つ。撃つと思った時に撃つ。意識の中に障害となるものが存在しない。

 ――私も、彼のようになりたい。

 陽宗に対して、初めて抱いた感情だった。

 同情とも違う。怒りとも違う。単純な恋慕とも違う。また、別の気持ちだった。

 レバーを引き起こし、弾薬庫の中に、直接弾薬を滑り込ませる。手の震えは止まっていた。再びスコープに接眼し、中を除く。

 弾丸は発射される。

 手前の壁に衝突する。

 二次炸裂と共に、断片になった金属の破片が全方位に拡散して部屋へと進入する。

 その破片の一つ一つを追う。床からの兆弾。不規則な回転による破片間の衝突。そして壁に激突して失われたエネルギーによる失速。

 全ての可能性を見通し、その害を逃れる奇跡の『空間』は、確かに存在した。頭が破裂しそうに熱い。通常の何十倍にも精密な予測をするのに、脳がオーバーヒートしていた。

 わずかな手振れで、私の視界の中のその空間は激しい振動と収縮を繰り返す。

 最高の瞬間を見極めて、私は人差し指を引き金に重ねた。

 反動と、銃声と、そして妙な安心感とを抱えて、私は応援部隊へ連絡を入れた。


 あの時陽宗は、全身を火薬に覆われていた状態だったと聞く。つまり、一片でも破片を喰らっていたら、点火、爆発していてもおかしくなかったのだ。

「お疲れ」

 あの後、それしか言わなかった陽宗はすぐに救護され、私と同じ潜水艦で帰国した。

 医務室で横たわる彼に、私は話を切り出す。

「逃げる?」

「ん? ああ、そうだなあ」

 潜水艦は無事、国の港へと到着し、作戦成功の報告を受けて歓迎の凱旋パレードの用意がしてある大通りへと隊員達が次々降りていった。


「志楽殿はどうした」

「それが、医務室に居ると思ったんですが、到着した頃には見当たらなくて……。医務員も、少し前に部屋を出て行ったきり見かけていないらしいです」

「パレードの主役が居なくてどうするんだ。彼の祝勝祭だぞ、全く……」

「それともう一つ、彼と付き添っていた淵崎軍曹の姿も確認されていないようで……」

「あの二人……」


全話お読みいただいた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました。

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