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作戦決行

――=ダッシュで、視点が入れ替わります。分かりにくくてすみません。

作戦決行の日、

「じゃあな」

 基地の通路で偶然会った陽宗は、別段何も気にしていないような様子で手だけ振っていた。

 ますます私の機嫌だけが悪くなり、そのまま別の潜水艦で隣国との国境を越えた。その中で、今回私の護衛を担当するチームと何回か目の紹介があった。

「護衛任務に特化させた特殊部隊だ。総勢三十一人が君を補佐、護衛する。いくら戦闘能力が高いといえども一人のみの護衛より、心強いだろう」

 私の前に並んだ集団は、黒い戦闘服に身を包み、顔ぶれは軍の中でも有名な強者揃いである。壮大な戦争作戦の第一歩となる今回の出撃は、そういうところにも力の入れようがうかがえた。敬礼をして、解散となる。頼もしい助力に、一層作戦成功への責任感を自覚するのだが、それ以上に私は、言い知れない不安に支配されていた。

「襲撃班が上陸したとの連絡があった。遅れを取らぬよう、迅速且つ隠密を心掛けて、移動開始!」

 号令と共に、トラックは発射した。


――


隣国へと向かう潜水艦の中、俺はヘッドセット型の通信機をぼんやりと眺めていた。有弥との任務のために、彼女とだけ通信が可能となっている。普段は使わないのだが、作戦中、敵に襲われた際など、指示を出すことに使用する。

 有弥護衛の任務を担当しているのは、他でもない、俺自身の意志によるものだった。元々作戦の主要戦力であった俺が護衛などという後手に回ることを、上層部が命令するはずがない。当たり前のように反対され、断固として認めないとしていた奴らだったが、有弥の狙撃が作戦の一部に組み込まれるようになり、隣国がそれの対策として待ち伏せの兵を散りばめ始めた頃から、ようやく俺の護衛配属を本格的に考慮し始めたらしい。

 若い女を、兵器として戦場に送り込むなど正気の沙汰とは思えない。最初ばかりは、その怒りの念だけから彼女の護衛を望んでいた。

(それもこれも、今日で終わりだ。最後に一言、適当にメッセージでも残すか)

 一瞬そんなことを思いつきながらも、柄にもないことをすると、死期が迫っているようで、やめた。

 潜水艦は海岸に到着すると、ここからは戦車で約十五分の距離を進行する。途中で阻まれる可能性はないにしろ、情報を伝えられ、作戦決行場所で待ち伏せをされることは大いに考えられる。だが、その場合は、狙撃の開始を早めれば良いだけだ。作戦終了後は、第二部隊が俺達を回収しに来ることになっている。……表向きは、だが。

「志楽殿、期待していますよ」

 戦車の中では、隊長にべらべらと色々語られた。内容は、娘が生まれたとか嫁がうるさいとか、つまらないことしか言わない。自分語りしかしないような奴だ。おおよそ、この作戦を『遠足』ぐらいにしか考えていないのだろう。

「狙撃部隊から準備完了との連絡あり! 作戦を決行する!」

 第二部隊は来ない。簡単に言うと、俺達は死にに行く。囮とは言え、首都を襲撃するのだ。回収と言えば容易に見えるが、実際生きて帰ることのできる確率など、ほとんどゼロに等しい。そんな危険を冒してでも回収する価値のある人間は、この撹乱部隊には配属されていないのだ。末端の隊員から隊長に至るまで、新人の、つい最近戦場を知ったようなアマチュアばかりである。

「到着百秒前! 総員出動準備!」

 対して、狙撃部隊に護衛として配属された奴らは、軍に古くから名を轟かせているベテラン揃いときた。救援が向かうのがどちらなのかは明らかだ。

「ゲート突破! 各自、襲撃に備えろ!」

こいつらは、そんなことにも気付かない莫迦の集団なのだ。

「突撃!」

 計十台弱の戦車が停車、同時に突撃銃を持った歩兵が飛び出した。主砲から放たれる大口径の砲弾と、備え付けのガトリングガンから毎分六〇〇〇発以上の7.62mm弾。人間に当たれば、ヒトとしての形を保つことは出来ない。どちらも、対物を目的とした障壁破壊のための兵器だ。

 都市中央では重役たちの集まる会合が行われていて、警備もそれなりのものが準備されていた。

莫迦揃いの部隊でも、曲がりなりにも戦争の準備をしている兵士である。あるいは奇襲の甲斐あってか、戦線は徐々に押していき、砲台と機銃による防壁の破壊から、内部への進行に至るまでは着々と事態は進行した。

「機銃、主砲は銃撃対象を百八十度変換! 同時に前進開始!」

 ここからは、戦車による銃撃での牽制を後方に向けて援護を防ぎながら、より深く内部まで攻め入る。

 そろそろ出るか。

 今の今まで車内で様子を眺め見るだけだったのは、何も職務を怠慢していたわけでも、怠惰に身を任せていたわけでもない。そういう作戦だからだ。奇襲の肝は、作戦全体の進行における迅速さに全てが掛っている。ともなれば、狙撃部隊からの作戦成功、または回収部隊の到着の連絡があるまでのこの後半の時間が一番危険なのだ。すぐに敵軍の援護が到着し、鎮圧へのカウントダウンが着々と始まる。

 俺がそう説明すると、隊長はすぐに了承した。つくづく素人である。それもそうですなあ、などと間抜けた返ししか出来ないくらいだ。俺が提案しなければ、「適当に攻めろ」だの言ったのだろうか。呆れて言葉も無い。

 ドアを開けて、歩きながら戦場へと赴いた。味方の兵士達の死体も数体見えたが、やはり押しているのはこちら側だ。目の前では、建物の壁を利用して銃撃戦を繰り広げている。膠着していた。建物内部に進入するのは、おそらく不可能だろう。

 こいつらのみで、ならば。

 銃弾の嵐の中、俺は走り始めた。真っ直ぐと敵を見据えながら、途中味方の死体から小銃を拾い上げる。それを闇雲に放った。片手に持ちながら、もう一方の腕では、もぎ取った手榴弾を投げまくる。五、六個程投げたところで、その爆風が味方をも吹き飛ばしていることを知り、しかし道が開けたことに若干のやり易さすら感じながら、俺は足を加速させた。

 障壁を突破し、格好の敵となり得るような、敵の目の前を全速力で通過する。前線に居た敵部隊までたどり着いた頃には、体に銃創が二、三カ所。だがそれでも、走り、銃を撃つのに障りはない。敵の銃を奪いながら、前へ進む。

 しばらく進み、悠長にリロードをしていた兵士の頭部をゼロ距離で射撃して、ようやく周りが静かになったのが分かった。

「やりすぎたか」

 振り返ると、ざっと五十は超える死体が辺りを覆っていた。建物の電灯は悉くショートし、さらにはコンクリートが砕けた際の埃も相まって周囲の暗さは、少なくとも国の首都とは思えない。

「し、志楽殿、応答してください。まもなく敵の正規軍が到着します。すぐに撤退してください!」

 ふと気が付いた。さっきからうるさいと思っていたら、右耳に付けていた無線から隊長の声が聞こえていたのだ。長い間聞こえていたというのに、銃声が勝ってまったく気が付かなかった。

「狙撃は終わったのか?」

「いえ……ですが、十一人中九人の狙撃に成功、残る標的ももう間もなく、とのことです」

「とすると、第二部隊は?」

「まもなく駆け付けるため、後退しながらもう数分持ち堪えろとのことです。ですから早く撤退を……」

 隊長の言葉を鼻で笑った。数分持ち堪えろ? 莫迦にするのもいい加減にして欲しい。

 目の前の、スーツを着た男の首にナイフを突き付けながら聞いた。

「軍をここに呼んだのか」

「こ、殺さないでくれ! 頼む! 何でも答えるから!」

 ナイフにゆっくりと力を込め、手首にのめり込ませていく。

「うああああああああああああ」

「早く」

「呼んだ! 四分もすれば総出でここに来る! 戦闘ヘリと戦車と……」

「量なんてどうでもいい。他には? 他に向かわせた場所はあるのか」

 腕を切り落とし、次は太ももに切先を突き立てた。

「げ……元帥殿が……」

 そこまでまるで嘔吐の如き口調で繰り出すと、男は銃声と共に静かになった。後方からの銃撃。まだ生き残りがどこかに居たのか。何にしろ、銃撃手の居場所が判明しない以上、臨戦態勢を解くには少し早過ぎたようだ。

ハンドガンを抜き取り、瓦礫の陰に身を潜めた。ここは屋内だ。狙撃したと言っても、そう遠くからは撃てまい。

「隊長、あんた今どこにいる?」

「第三番戦車内にて待機中ですが……」

「そのまま次は東に移動しろ。後退しながら到着する敵勢力を迎撃するんだ。なるべく持ちこたえながら、誘導してくれ。奴らの気を逸らせ。それと、応援には期待しない方がいいぞ。自力で帰ることをお勧めしよう」

 今の銃撃手は、何故俺を撃たなかった? 単に外しただけか。それとも他に理由があって――。首を横に振り、考えを改めた。

 ここは戦場。殺すか、殺されるか、だけの世界。

 有弥との通信機の電源を入れて、後は思考をオフにした。


変なところで切れてるのは元々一つの作品だったのを無理矢理切ってるからです。ご了承くださいまし。

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