一縷の望み
ダニーがため息をつくと、すかさずマノリアがダニーに縋り付いてきた。
「あんた、あたしの娘を助けてやる方法を知らないかい?!」
「落ち着いてよ、俺も病気とか全然わかんないし…疫病だからって差別する気はないけどさあ…っ」
返答に困って、言葉を詰まらせる。
ふと、とある人物が脳裏に浮かんだ。
金髪の魔法使い。
「あいつなら…」
「なんだい?医者の知り合いでもいるのかい!?」
ダニーがトムの所でいつもご馳走になっているお茶は、何種類もの薬草を合わせた、薬湯に近い物だと前に本人から聞いた。
そのお茶、もとい薬湯の元も、全てトムが作っているということも。
そうだ、自分は魔法使いと知り合いじゃないか。
魔法で治せない病だったとしても、薬用植物に詳しい彼なのだ。
何か、自分の知らない叡智で助けてくれるかもしれない。
急に視界が広がったような錯覚を覚える。
もしかしたら、不幸な親子を救えるのではないか。
思い立ったダニーは、マノリアの手をとる。
「マノリアさん、あんまり期待しないで欲しいんだけど、俺に出来ることがあるかも」
「え…本当かい?!」
「うん、まだわかんないけど、ちょっと俺、村の外に行かなくちゃいけないんだ。後で必ずマノリアさんの所に行くから、家で待っててくれる?」
「本当かい?嘘じゃないだろうね?!」
散々周りから酷い仕打ちを受けたのだろう、そして、娘を心から助けたいのだろう、マノリアが鋭く睨め付けてくる。
その視線を受け止めて、ダニーはマノリアの瞳を覗き込んだ。
「大丈夫、俺だって親父を病気で亡くしてるんだ。気持ちはわかるよ…見捨てないから」
言葉を聞き、マノリアは俯く。
小さく、嗚咽が零れた。
「娘を、娘を助けてやって…」
「わかんないけど、俺に出来る事はやってみる。暖かくして待ってて、吹雪そうだから」
ダニーは空を見上げる。
村に帰ってきた時にはおさまっていた雪が、また深々と降り注いできている。
風を感じるから、荒れるかもしれない。
「じゃあ、また後で、俺行くよ」
「…待ってるから、必ず来ておくれ」
「了解」
マノリアを家路へ送り出し、ダニーは自分の家の厩に駆けていく。
カンテラを厩の壁に掛け、いつもは使わない鞍を引っ張り出した。
うたた寝をしていたシェリーが、何事かと不満げに足を踏み鳴らす。
「シェリー、今日はなんか色々あるんだ。久しぶりに俺を乗っけて走ってよ」
鞍を乗せ、シェリーを外へ引いていく。
「トムの所へ行くんだよ。吹雪が来る前に行って帰ってきたいんだ、頑張ってくれるよな?」
ダニーが騎乗し、その腹を蹴ってやると、シェリーは心得たかのように走り出した。
蹄が雪を蹴散らしていく。
対する夜空は、雲が厚く垂れ込め、北の山頂からの凍えるような風が吹き始めている。