第六話 生徒会長の権威
「会長、この件なんですが・・・・・」
ここは藤ヶ峰高等学校・生徒会室、現在生徒会活動真っ最中。
全国的にも有名進学校として名高い藤ヶ峰高校では勉強だけでなく
部活動、生徒会活動も盛んでとにかく自由な校風である。
特に生徒会活動は生徒の自主性を重んじており、学校行事などは生徒会が運営している。
また藤ヶ峰高校に通う生徒は将来を約束されたエリートばかりであり
他校、企業、はたまた政府からも一目も二目も置かれている。
故に藤ヶ峰高校生徒会の権限は絶大だ。
ましてや藤ヶ峰高校の生徒会長となれば計り知れないほどの力を持っている。
昨年の十月、生徒会選挙をせずして生徒会長に就任した異例の人物がいる。
しかも普通ならば二年生がなるところを一年生が会長となったものだから最初は反響が大きかった。
だがその者の名を聞いた途端誰もが納得した。
その人物こそ杜崎 菜穂子であった。
「杜崎、サッカー部の予算のことなんだけど・・・」
「それなら話をつけときましたから、向こうの方々も承知してくださいました。」
「助かる~。本当仕事が早いわね。」
「いえ、せっかく生徒会長をやらしてもらっているんですからこれくらいのこと何でもありません。」
現在の生徒会は副生徒会長職が二つに書記、会計がそれぞれ一つずつと庶務枠が三つ
生徒会長の役職の八つのうち五つが三年生、庶務の二人と生徒会長が二年生だ。
先程菜穂子が話していたのは会計・三年の須和名麻里子、
気さくな性格で生徒会役員の中で唯一菜穂子を呼び捨てにする。
「杜崎さんはよくやってるよ、驚くほどにね。さすがとでも言うべきかな。」
「当麻先輩、とんでもないです。」
菜穂子に声をかけてきた微笑が印象的な人物は当麻博雅、
今期から副生徒会長を昨期では庶務を務めている。
彼を生徒会長に推す声が多かったのだが前会長が菜穂子をぜひ次期会長にと推薦したため
今の地位に就いた。
副会長という役職もあってか菜穂子のことをよく気遣ってくれている。
「杜崎は当麻のお気に入りだからね、たくさん媚売っときな。」
「おい須和名、変なこと言うなよ。俺は単に杜崎さんの仕事ぶりに感心しているだけさ。」
「普通に考えても出来ている会長さんだもんね。前会長が指名したのも分かるよ。」
「お二人にお褒めいただき光栄です。」
「そういう謙虚な所もほかの三年生が何も言ってこないうちの一つかもしれないね。」
「俺もそういうとこ好きだし。」
「ほらやっぱりお気に入りじゃん。」
彼女が藤の君と呼ばれる所以はここにある。
生徒会長=藤ヶ峰高校の象徴となる人物なのでこう称されるようになった。
全国模試では常に一位をとるほどの秀才であり人柄も良いため人望が厚い。
また前述通り満場一致で彼女が会長になったことから
ほかの人にはないカリスマ性の持ち主であることがうかがえる。
今日の分の仕事も片づけ帰途につこうと校門を出たところで琴子に出会った。
「菜穂ちゃーん、生徒会の帰り?」
「そうよ。琴子は?こんな時間までいるなんて珍しいわね。」
「琴子はトラと遊んでたの。」
よく見ると傍らにでっぷりとしたトラ猫がいた。
「トラって・・そのままね。」
「トラはこのあたりのボスなんだよ。」
菜穂子はトラの前にしゃがみ喉を撫でると気持ちいいのかトラはゴロゴロと喉を鳴らした。
「それじゃ琴子、帰りましょ。」
「うんっ。トラバイバイッ!!」
二人の後ろ姿をトラは静かに見送った。