第三話 初物に気をつけよ
侑子さんに何が起こったのか・・・
それは突然だった。
「侑子ちゃん、ラブレターもらったの!?」
「あんびりーばぶる。」
「あの男勝りな侑子がね。」
三人とも言いたい放題だ。
「あたしだって最初冗談かと思ったんだ。同性からも異性からもファンレターとかもらったことはありはしたが、おっ男からこんな手紙が来るなんて・・・」
手には白い封筒がにぎられており便箋の最後に『帯刀 達人』と記してあった。
話によると昨日学校から帰るとき下駄箱を開けたら入っていたという古典的な手法であった。
手紙には今日の放課後に体育館裏で待っているというこちらもいかにも王道と呼べるやり方であった。
「なんだかいかにも強そうな名前よね。」
菜穂子は宛先人の名前を眺めていた。
続いて千世子が読み上げる。
「帯刀達人、刀を帯びている達人。」
「でもっ剣道やってる侑子ちゃんにはぴったりなお名前だよね。」
琴子は一人うんうんと納得していた。
「ぴったりって、名前だけで決めちゃよくないわよ。」
「いいんじゃない?侑子には強い男がお似合いだよ~。」
「でも侑子ちゃんより強い人ってそうそういないよ。」
三人でワーワー盛り上がっていると
「あっー!!もういい、自分でなんとかするから。大体こんな手紙を出してくる自体男らしくない。
あたしがきっぱり断ってやる。」
頭を掻きむしってもうこの話はおしまいとばかりに勢いよく弁当をかきこむ侑子。
しかし三人は黙って見過ごすことはなかった。
放課後三人は行動を開始した。
「一体どんな人なんだろぉ。わくわくするね~。」
「でも侑子行く前からあんなにかちこちに固まっててちゃんと返事できるのかしら。」
「大丈夫だよ。いざというときは侑子ちゃんの必殺山嵐でちょちょいのちょいだよっ。」
「いや、倒しちゃだめよ。」
侑子は同手同足で歩き体育館裏に向かっていた。
それはまるでロボットのようであり普段の彼女の姿からは微塵のかけらもない。
周りの人間も奇怪な目を向けていた。
そしてその後ろにこそこそと隠れている三人にはさらに奇怪な目を向けた。
侑子がたどり着いた時にはまだ帯刀達人は来ていなかった。
「あんなに緊張している侑子は初めて見るよ。乙女だねぇ~。」
千世子はなんだか楽しそうに笑う。
「ちょこちゃんなんだか楽しそうだね。」
「だってこんな侑子はなかなか見られないし、秘蔵映像だよ。」
「ちょこ・・・。」
「あっ誰か来たよっ。」
現れたのは一年の徽章をつけた男子生徒だった。
が、その男子生徒は想像していた姿とは全く違った。
一言でいうと名前負けしていた。
低い身長に眼鏡体型はガリガリでもやしという言葉がまさにぴったりの男だった。
「・・・あれが帯刀達人?」
千世子は信じられないというような顔をしていた。
「どうやらそうみたいよ。」
「えー・・・。」
琴子も相当驚いたらしく唯一冷静なのは菜穂子だけだった。
当の侑子も驚いてはいたが少しして呼吸を整え一歩前へ出た。
改めて見ると達人は彼女より十センチ以上も低く侑子が見下ろす形になっていた。
最初に口を開いたのは達人の方であった。
「本当に来てくれたんですね。嬉しいです。」
「あぁ・・・。」
侑子の返事は硬いものだった。
「いきなり本題に入りますが、永山先輩。」
「はい!」
シャキーンと背筋を伸ばすとさらに身長差ができていた。
侑子の緊張は最高に達していた。
「あの・・・」
「「でしごにめんしてくだなさい!!」」
同時に言葉を発したせいで何を言ったのか分からなかった。
「え?今なんて・・・。」
「弟子にしてください、と。」
「でし?」
「はい!僕よくもやしっていわれてからかわれるんです。どうしても男らしくそして強くなりたいと
常日頃思っていて、この学校で一番強い永山先輩に弟子入りをしようとお願いに来たのです。
初めて永山先輩の剣道試合を見た時それはそれは大変な感動を受けましてですね・・・」
開いた口が塞がらないのか言葉が出ない侑子の前で一人キャッキャッと彼女の武勇伝に盛り上がる達人。
「あの、永山先輩?」
喋らない侑子が心配になった達人が顔を覗き見るといきなり腕を掴まれ
「あっ!山嵐!!」
琴子が言ったのと同時に達人に侑子の技がかけられたのであった。
それは素早くかつ華麗であった。
「まさか弟子にしてだったとはね。」
「もしかしたら初めての告白になるのかもしれなかったのに~。残念。」
侑子はすっかりのびきった達人を残しやるせない気持ちでその場を後にした。
その姿もまた男らしかった。
ちゃんちゃん。