第十話 焼肉屋にでも行ってください
体育祭編完結。
鷹野琴子の健闘のおかげで二年三組は無事総合優勝を制した。
「・・・もう絶対騎馬戦なんてしないんだから!」
琴子は競技が終わって閉会式に入る時も頬を膨らませ涙目であった。
「でも琴子のおかげであたしたち勝てたんだ。
琴子さまさまなんだから!そんなに膨れてないで機嫌直してくれよ。」
永山侑子は優勝したことでもう上機嫌であり
琴子を一応言葉では慰めてはいたが心の中は賞金のことでいっぱいだ。
「そうだよ~、賞金もらえたんだし~。やったじゃん。」
三木千世子もうわべだけの言葉を投げかけるが当然そんなのは琴子の耳に入らなかった。
「それでは賞金贈呈しますので代表者は登壇してください。」
「ふふん、ついにこの時が来たわ。賞金、賞金。」
五辻涼子は意気揚々と階段を上り生徒会長である
杜崎菜穂子から金一封と書かれた封を受け取った。
「涼子、一体いくら入ってるんだ?」
待ちきれず侑子が壇上にいる涼子に問いかける。
「えっとねー、・・・・・・。」
中を開け覗き込んだ涼子の指が止まった。
「どうしたの~五辻。」
「すずちゃん?」
「なっ何よこれーーーーーーー!!!」
いきなり涼子は封筒を握り絶叫する、そして菜穂子に詰め寄る。
「杜崎これっぽっちってどういうことよ!?」
「これっぽっちとは失礼ね、高校生の行事の賞金としては十分だと思うけど。」
「菜穂子いくら入れたんだ?」
涼子が応答してくれなかったため侑子は菜穂子に問う。
菜穂子は口には出さず代わりに両手で示した。
「えっと~・・・いち、にい、さん、しい・・・じゅう?」
「百万円!?」
「なわけないでしょ。」
「じゃあ・・・もしかして十万円か?」
「そうよ。」
答えを聞いたその場にいた全員がガッカリと肩を下げブーイングの嵐だ。
「いくら藤高であってもそこらへんは高校生としての領分をわきまえなきゃ。
あまりにも高額な賞金は学生には良くないわ。」
「け~ど~菜穂~、十万円っぽちじゃな~。」
千世子はブーブーと文句を言う。
「あら十万円もあれば一クラス美味しいご飯が食べられるくらい十分だと思うけど。」
「これのために私たちがどれだけ汗水垂らして奮闘してきたと思うの!」
「って涼子は何もしてないだろ、強いて言えば琴子の恥ずかし写真を
バラ撒こうとしていたことくらいじゃ。」
さりげなく侑子が突っ込みを入れる。
「みなさんにはこの賞金で優勝したお祝いとして
美味しい焼肉屋さんでも行って労えればいいなと思っています。」
笑顔で菜穂子がさらに説得力のあることを言うものだから
生徒たちはだんだんと納得していき結局丸く納められてしまった。
「それではこれで体育祭を閉会させていただきます。
全校生徒のみなさん朝からお疲れ様でした。
今日、明日はゆっくりと休んで明後日の授業からまた頑張りましょう。」
「くっそーーーーーーーーー!!」
空が橙色となり生徒たちが校庭を後にしていく中
涼子一人が悔しさのあまり叫びこだました。