第九話 たか・うま・きりん・こあら
ついに最終種目、騎馬戦。
藤ヶ峰高校体育祭の目玉でありこれで優勝が決まるということで
生徒の盛り上がりは最高潮に達していた。
現在一位は三年五組、二位に二年三組とその差は僅差で
他の追随を許さなかった。
「よぉーし、やるぞ!ほら早く組むぞ。琴子乗って。」
侑子は背景に炎が見えてきそうなほど燃えていた。
「本当に琴子が上なの・・・。ちょこちゃんの方が小さいし軽いよ。」
琴子はこの中で一番小柄な千世子を騎馬の上に乗せようと必死だ。
何故ならば琴子は去年の騎馬戦にも出場しておりその際も上に乗っていた。
そこでちょっとした事件がありトラウマになっているのだ。
「琴子でいいよ~。またパンツ見せてあげなよ、きりんさん。」
千世子はあっははと笑いながら肩をポンと叩く。
「笑い事じゃないよー。物凄く恥ずかしかったんだから。」
「あの時はみんなきりんさんに釘付けだったものね。」
「菜穂ちゃんまで・・・。」
去年縺れ合いになったところ相手が無意識に琴子のズボンを掴んで
倒れた時琴子の履いていたパンツが全校生徒の前でモロ見えてしまったのだ。
しかも女子高生としてはいささか子供じみているのではないかと思われる
きりんのプリントがされたものだったのだ。
「大丈夫よ、琴子。まさかあんなこと二回もあるわけないじゃない。」
菜穂子に諭され暫くは頬をふくらませていたが
やがてのろのろと上に跨り侑子の肩に手を乗せた。
「いざ!出陣!!」
先頭を侑子が務め両脇の騎馬を菜穂子と千世子が固める、そして騎手は琴子。
「では、騎馬の人たちは位置について・・・」
はじまりのアナウンスの声が流れ会場はますますヒートアップした。
「スタートッ!!」
始まりの合図とともにワァーと一斉に騎馬が飛び出す。
騎馬はすぐにぶつかり合いお互いのハチマキを取り合う。
「おいっ、琴子。ちゃんと取れって!」
「だってっ。」
侑子が突っ込む中琴子はあわあわズボンを両手でしっかり押さえハチマキを奪う気配がない。
「こらー!!!鷹野、何やってるのよー!!」
がやがや五月蝿いなかでも涼子の怒声が聞こえる。
「琴子、大丈夫だから。」
「でもでもっ。」
琴子はどうしても無理らしい。
こうなっては二年三組に勝機はなかった。
「鷹野ーーー!!」
まだ涼子はまた何やら怒鳴っている。
「もし、もしこれで負けたら去年の恥ずかしい写真をばら撒くわよっ!!」
「えぇっ!?」
琴子が涼子の方を振り向くと涼子の手には数枚の写真が握られていた。
「この写真は結構な高値で売れるわよ。」
紛れもない、あの時のきりんが写った写真であった。
「いやぁぁぁあああ!!」
目の色を変えた琴子が次から次へとハチマキを奪っていく。
それはまるで脱兎のようであった。
あっというまにハチマキをとりつくし残る相手は一組、三年五組だ。
「ふふ、ここであったが百年目。決着をつけようではないか。」
「望むところだ。」
侑子と相手の間にははりつめた空気が漂い、琴子はとにかく写真を
売り飛ばされないようにすることで頭がいっぱいの様子であった。
「うおーーー!」
「うりゃーーーーー!」
同時に走り出し先に琴子が手を伸ばす。
あと少しで手が届くというところで相手の騎手に阻まれた。
「お願いー・・・でないと写真が・・・」
琴子はお願い口調になりながら取っ組み合いになっていた。
「琴子!頑張れ!」
「頼むよ~。」
「あと少しで手が届くわ!」
「ふぉ~!!」
相手の一瞬のすきを見つけハチマキを掴んだ。
「やったぁ!!」
と、同時に体勢を崩し両者の騎馬は雪崩を起こした。
「いたたたた・・・。重い。」
一番下で埋もれている侑子はきつそうだ。
「あはは~。侑子大丈夫?」
「上に乗っかってる三人が下りてくれればね。」
「ごめん、侑子。今降りるわ、琴子早くどいて・・・・・・」
一番上にいる琴子を見て菜穂子は絶句した。
「いったぁーい。でも勝ったよ!これで写真もばら撒かれないで済む!」
ぴょんと降り立った琴子は嬉しそうに跳ねている。
そんな琴子を女生徒は青ざめて、男子生徒は赤らめて見ている。
「ん?」
琴子もやっと周囲の違和感に気付き飛び跳ねるのをやめた。
みんなの視線は琴子の下半身に集中していた。
「もしかして・・・」
顔をひきつらせ琴子は意を決して下を見た。
「いっ・・・いやぁぁぁぁああああああああああああ!!」
そこには可愛らしいコアラの親子が顔をのぞかせていた。