*その心を知る者
二人はベリルの車で落ち着いた場所まで移動した。町の外れは人の気配すらなく、次の町に続く道には荒野が広がっている。
「俺、十歳の時に捨てられたんだ」
ライカはピックアップトラックの助手席でうつろに外を眺めて重々しく口を開いた。
「一人でいる所をオヤジに拾われて、身寄りのない俺を引き取ってくれたんだ」
初めはハンターなんて知らなかった。きっと、俺のために引退していたんだと思う。けど、どういう訳か復帰して、俺はそんなオヤジの傍でずっとそれを見てた。
復帰したのは四十五歳だったけど、その仕事は素晴らしかった。格好良くて素早くて、ハンター仲間の多くが尊敬していた。
「すげえ綺麗な顔してるから流浪の天使なんて呼ばれてたけど、闘ってる最中はなんて言うか、ジャッカルみたいに鋭かった」
セシエルはベリルと同じく、宛もない旅が好きだった。歳よりも若く見える容姿に加えてそんな通り名が付いていた。
「俺も、いつかオヤジのようなハンターになりたいと思った。でも──っ」
次の言葉が吐き出せずに喉が詰まる。震える手を押さえるように強く両手を組んでゴクリと生唾を呑み込んだ。
「オヤジは、俺が先走ったせいで死んじまった……。俺が死なせたんだ」
どうしてあのとき、指名手配犯がいることを先に知らせに行かなかったんだ。オヤジが飛び出したとき、どうして俺も一緒に闘えなかったんだ。
「足がすくんだなんて言い訳だ。俺は──」
ライカは悔しくて顔を歪ませていたが、ふと聞こえた微かな声に視線を上げる。
「何がおかしいんだよ」
喉の奥から絞り出すような笑みをこぼしているベリルを睨みつけた。こんな時に笑うなんて、オヤジのことが嫌いだったのかよ。
「奴が死んだのは二年前だと言ったな。それならば歳は五十五か」
「それがどうした」
「私と出会った頃のような動きは出来なかったろう」
ライカはそれにハッとする。どんなに素晴らしいと思える動きでも、セシエル自身にとって、それは輝ける時代のものとはほど遠いものだったに違いない。
「奴は最期に笑っていたのではないかね」
「なんでそれを!?」
ベリルは驚くライカから視線を外し、宙を見つめた。
「奴の死はお前のせいではないよ。今しか出来ぬ事をしただけだ」
若い頃のような闘い──あの駆け抜ける快感を最期にもう一度──それが、セシエルの最期の願いだったのだ。
どこを見るでもないエメラルドの瞳は憂いを湛えているように揺らめいていた。
「あんた……。オヤジといつ会ったんだ?」
あまりにも歳が離れている二人にライカは怪訝な表情を浮かべた。