表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の残像  作者: 河野 る宇
◆第三章~天使の最期
7/45

*その心を知る者

 二人はベリルの車で落ち着いた場所まで移動した。町の外れは人の気配すらなく、次の町に続く道には荒野が広がっている。

「俺、十歳の時に捨てられたんだ」

 ライカはピックアップトラックの助手席でうつろに外を眺めて重々しく口を開いた。

「一人でいる所をオヤジに拾われて、身寄りのない俺を引き取ってくれたんだ」

 初めはハンターなんて知らなかった。きっと、俺のために引退していたんだと思う。けど、どういう訳か復帰して、俺はそんなオヤジの傍でずっとそれを見てた。

 復帰したのは四十五歳だったけど、その仕事は素晴らしかった。格好良くて素早くて、ハンター仲間の多くが尊敬していた。

「すげえ綺麗な顔してるから流浪の天使なんて呼ばれてたけど、闘ってる最中はなんて言うか、ジャッカルみたいに鋭かった」

 セシエルはベリルと同じく、宛もない旅が好きだった。歳よりも若く見える容姿に加えてそんな通り名が付いていた。

「俺も、いつかオヤジのようなハンターになりたいと思った。でも──っ」

 次の言葉が吐き出せずに喉が詰まる。震える手を押さえるように強く両手を組んでゴクリと生唾を呑み込んだ。

「オヤジは、俺が先走ったせいで死んじまった……。俺が死なせたんだ」

 どうしてあのとき、指名手配犯がいることを先に知らせに行かなかったんだ。オヤジが飛び出したとき、どうして俺も一緒に闘えなかったんだ。

「足がすくんだなんて言い訳だ。俺は──」

 ライカは悔しくて顔を歪ませていたが、ふと聞こえた微かな声に視線を上げる。

「何がおかしいんだよ」

 喉の奥から絞り出すような笑みをこぼしているベリルを睨みつけた。こんな時に笑うなんて、オヤジのことが嫌いだったのかよ。

「奴が死んだのは二年前だと言ったな。それならば歳は五十五か」

「それがどうした」

「私と出会った頃のような動きは出来なかったろう」

 ライカはそれにハッとする。どんなに素晴らしいと思える動きでも、セシエル自身にとって、それは輝ける時代のものとはほど遠いものだったに違いない。

「奴は最期に笑っていたのではないかね」

「なんでそれを!?」

 ベリルは驚くライカから視線を外し、宙を見つめた。

「奴の死はお前のせいではないよ。今しか出来ぬ事をしただけだ」

 若い頃のような闘い──あの駆け抜ける快感を最期にもう一度──それが、セシエルの最期の願いだったのだ。

 どこを見るでもないエメラルドの瞳は憂いを湛えているように揺らめいていた。

「あんた……。オヤジといつ会ったんだ?」

 あまりにも歳が離れている二人にライカは怪訝な表情を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ